第919話 邪神くんと邪神ビーム
【前回のあらすじ】
これは誰だ、誰だ、誰だ。
これは邪神、邪神マンくん、邪神マンくん。
鉄筋の上に腰掛けて、夕日を見て黄昏れるような顔をしながら、一方でコズミック的な恐怖をその姿に滲ませて、静かにオカリナを吹く邪神マンくん。
三つのパロディを一つにして、今、彼の必殺技が繰り出される。
鉄筋でできた音響装置を使って、周囲にまき散らされるのは破壊的な歌。
音の振動だけで身体が殴られているような錯覚を呼び起こすそれはまさしく――。
「……狂気の歌声!! まさしく、
そう、邪神マンくんを名乗る緑の異形。
その正体は、かつて人間により生存圏を追われた者達。
人と同じ起源を持ちながら、人間とは決して交わることのない種族――すでにこの時代には滅びた巨人族の末裔だった。
その名を、
「またそんなパロディにパロディを重ねる愚行を。しかもまた雑だなぁこりゃ」
カクヨムコンの原稿と相まって、ちょっとわっちゃわっちゃしてるんです。すみません。(2020年の年末のお話。カクヨムコンありがとうございましたm(__)m)
という感じで、またしても過去に例のない勢いで、パロディを重ねてくる剛田オリオン。その怒濤のパロディとシンプルに下手な歌の前に、壁の魔法騎士は膝を折る。
はたして、壁の魔法騎士の運命やいかに――。
◇ ◇ ◇ ◇
【巨人 ゴーダ・オリオン: 伝説に歌われた最後の巨人族の族長。人類とその起源を同じにしながら、その数倍もの身長や逞しい体躯により、迫害の歴史を辿った巨人族。その長であるオリオンは、一族の終焉の時に挑みながら、あくまで人間側に与することなく徹底抗戦を貫いた。古代の反英雄である。多くの人がオリオンの雄叫びを恐れ、その第一声を聞くや武器を捨てて逃げ出すほどの豪傑であった。繁栄を極め多種族の迫害などの横暴を働く人類に、大陸に生きる生命体全ての代表として天誅をくだそうとした彼だが、その蜂起は決して他の種族に受け入れらる事はなかった。皮肉にも、この巨人の声を聞いて、人類の横暴をいさめたのは彼が誅しようとした人類であり、彼の死を持って人類の歴史は多種族との共存へとシフトしていくことになる。世を乱す反英雄という存在でありながら歴史を作った希有な偉人である】
巨人の体躯から繰り出される圧倒的音量。
その逞しい巨躯から出るものはパンチやキックだけではない。巌のような胸筋を膨らませて放つ震動音は、ただ発するだけで人の鼓膜を破くほどの轟音を作り出す。
人間とはそもそも身体のつくりが違うのだ。
彼らにとってはちょっとした大声が、人間の身体を揺らし破壊するだけのソニックブームになる。生き物としての規格の違いから生まれる、それは一方的な攻撃。
とはいえ、今の邪神マンくんは、等身大になっている。
幾ら元巨人と言っても、その質力が人並みになってしまえば、人の身体を破壊するほどのソニックブームを作り出すことはない。
だというのに、どうしてここまで強烈な嫌悪感に自分は苛まれているのか。
壁の魔法騎士は奥歯をかみしめる。
追い詰められてようやく、恐慌状態を脱して生来の思慮深さを取り戻した彼は、その邪神マンくんが放つ圧倒的な音の暴力について、一つの結論を導いた。
そう――。
「シンプルに音痴!! 内臓がめくれ上がるようなダミ声!! だめだこれは!! 人前で披露していいような歌じゃない!!」
元より邪神マンくんは音痴なのだ。
かつて、その雄叫びを恐れられた巨人。
しかし、その雄叫びの本質は体躯から来る力強さではない。
聞く人の不安を呼び起こす、独特な音の外し方にある。
襲い来る音の嵐の中、耳を押えながら壁の魔法騎士はそれを悟った。
彼の声が、歌に先んじて呼び出した鉄の柱に反響し、乱れ飛ぶことで地獄の交響曲へと昇華される。なるほどこれがこの巨人を後世に伝えた必殺技。しかも、ただでさえ厄介なそれを、その身に憑依した妖怪の力で適切に増幅している。
膝を折りながら壁の魔法騎士、邪神マンくんをにらみ据える。
よくもまぁここまでもと奥歯を食いしばるが、既にその身体はその歌声に蝕まれて、寸毫も動かすことができない。
狂気の内に相手のペースに巻き込まれて、正気に返った時には、もはや何もできない状況に彼は追い込まれていた。
手も足も出ないとはまさにこのこと。
ただただ、音の奔流を浴びせかけられるままの壁の魔法騎士。
そして、そんな彼を前にして、一向に歌うのをやめない邪神マンくん。
「……ダメだこれは」
壁の魔法騎士の額を諦めと共に汗が流れる。
最後っ屁とばかりに、盛り上げた土はしかし、邪神マンくんがその喉から紡ぎ出すソニックブームにより、できた端から灰燼に変えられた。
もはやこれまで。
力なく壁の魔法騎士が双魚宮の床に倒れる――。
「ふふっ!! どうやら勝負あったようだな!! もう少しやるものかと思っていたが、意外とあっけないものだ!! 脆弱脆弱!! ふはははっ、見たか人類よ、これが巨人の力だ!!」
「待つでゲソ!! そこまでじゃなイカ!!」
なに奴。
そう思った邪神マンくんの顔に、黒い液体が飛散する。
目くらまし。
させるかと、急遽オカリナから口を離して息を吸い込むと、ソニックブームを液体にぶち当てる。人の身体をも振動させるその一声は、迫り来る黒い液体を霧散させる――はずであった。
「なに!? バカな、俺の声が吸収される!!」
しかし、邪神マンくんに襲いかかった黒い液体は、振動こそしたが霧散はせずにそのまま彼に躍りかかる。
たまらず、その場を飛び退いて避ける邪神マンくん。
それと同時に、コンビネーションが崩れたためだろうか、双魚宮を包み込んでいた破壊音は、一斉に止んだ。
代わりに訪れた静寂の中、壁の魔法騎士が開いた双魚宮の扉から、二つの影が歩いてくる。
「どうやら、間に合ったみたいですね、ゼクスタントさん」
「ゲソ!! 危機一髪じゃないか!! 間に合ってよかったでゲソ!!」
「コウイチ!! それに、お前は――誰だ?」
壁の魔法騎士を助けたのは他でもない。
魔性少年にデビちゃん。超能力潜水艦コンビであった。
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