第890話 男騎士とTS王

【前回のあらすじ】


 人が望みし大英雄。

 ありとあらゆる古今東西の英雄の力を束ねて、結実した理想の英雄――アーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥク。


 彼が放つ『特選エクスカリバー』の光子ビームに対応するには、同じく人の希望を重ねる必要がある。

 そのために、エロスの導きで男騎士が力を借りたのは――十三人のエロ騎士。

 またの名をエロ卓の騎士であった。


「王女さま・お姫さまジャンル大好き!! みだれスロット卿!!」


「寝取り寝取られどちらも大丈夫!! 寝取りの取リスタン卿!!」


「聖なる杯を探して三千里!! TENガラハッド卿!!」


「女好き好き大好き!! ハーレム大将こと――ペリノア王!!」


 ろくでもない奴てんこ盛り。

 男騎士たちの前につぎつぎと現れる、十三人の騎士にして男達。

 はたして彼らの性癖は、守護するジャンルは、人の希望を撃ち抜けるのか。


 人の望みを打ち砕いて、男の望みを叶えることができるのか――。


「もうやだこのしょうせつしょうもなさすぎる」


 男臭さ大爆発!! 今週もどエルフさんトンチキ全開ではじまります!!


◇ ◇ ◇ ◇


 その後も続々と男騎士の下に、エロ卓の騎士は集まっていった。


「この男の前ではどんな女性も日焼けせずにはいられない!! 太陽の下で色んなものが三倍になる男!! 君もこんがり、僕もこんがり!! 真っ黒くろすけ!! 黒ギャル大好き、ガウェーイン卿!」


『くっきりとした日焼けあとも良いけれど、いろいろな水着によって重なっているのもそれはそれで――良いじゃない恋したい。どうもガウェーイン崎しげるです』


「山育ちにして森育ち!! 森こそ故郷にして安息の地!! 大地を愛し大空を愛し、ありとあらゆる自然を愛する男!! 野外大好きマッパーシヴァル卿!!」


『誰も知らない素敵な夜景の見えるところがあるんだけれど、一緒にどうかな?』


「シンプルに毒舌!! 息をするように出てくる罵詈雑言!! 悔しがる女の子の顔こそがなによりの至宝!! けれどもアフターケアは忘れない、まったくもって擁護の余地がないメンタルサド野郎!! 言葉責めのケッイ卿!!」


『こんなくだらねえことに呼び出しやがって。お仕置きが必要なようだな』


「ゴア表現が好きなんじゃない、ハンデを背負いながらも頑張っている女の子たち、その健気さを愛でているんだ!! 欠損は個性と言い切った根っからの欠損女子好き!! 地域によっては一番ヤベー奴扱い、隻腕のベディヴィエール卿!!」


『だからゴア表現と欠損は切り分けて考えろって言ってるだろ○すぞ!!』


「童貞だからこそ分かる気持ちがそこにある!! いつだって心はお姉さんに優しく導いて貰う時のそれ!! でかい体にピュアな心!! けれども魔法は使えない、チェリーボールス卿!!」


『自分の中で男女の営みがゲシュタルト崩壊してる感がありますな』


「身内でも他人でも関係なし!! 覗かずにはいられないスケベ野郎!! 弱味を握って脅すのなんて二流のやることだぜとはよく言ったもの!! アグラヴェイン作卿!!」


『んんー、このアグラヴェイン作めに何か御用ですかな。げへへへ』


「人妻・未亡人大好き!! 乱スロットとキャラが被っている感がある!! けれども、ちょっと熟れてるくらいがいいんだ!! 熟女好きラモラック卿!!」


『まぁけど、義理の娘系シチュエーションもいけますよね。だいたい一回は死亡ルート入ってしまうんですけれど。美少女叙情詩下手クソかってね』


「時代的にはOKだったかもしれないけれど、現代においてはその嗜好について問題視されることが多い。けれどもまぁ、それも歴史浪漫。複雑な当時の人間関係が悪い。エロ卓騎士随一のナイスボート。近親相○のモードレッド卿」


「いやそれ俺関係ないでしょ!! なんでこうなるんだよ!!」


 ヤベー奴らが集まっていた。

 古今東西の、ヤバい性的嗜好を拗らせたホンマもんの男たちが集まっていた。


 男達のエロにかける執念たるや凄まじい。それは有史以来、この世界に男と女が現れたその時から、ずっと重ねられてきたものなのだ。

 人の希望より先に存在する、男のキボンヌなのだ。


「すごい、こんなにも多くの英雄達が、俺たちのために力を貸してくれるなんて」


「ティト、俺たちは、こんな男達が切り開いてきた、時代の上に立っているんだ」


「……あぁ、これは凄いことだな」


「彼らが闘ってきてくれたからこそ、俺たちは多様なエロを感じることができる。先人達に感謝を。彼らの勇気ある行いによって、俺たちは今日も生きて行ける」


 男騎士と魔剣がしみじみとそんなことを語る一方で、女エルフはゴミ虫でも見るような視線を彼らに向けていた。

 何が男のキボンヌかという視線を向けていた。


 女子供には分からない世界がある。まさしく、この錚々たる男の中の男達との邂逅もまた、そんな男達にしか分からない類いのものであった。


 とはいえ、女エルフ、数くらいは数えられる。


「十三人の騎士とか言ってたわよね。まだ、あと一人残っていると思うけれど、そいつはいったいどうしたのよ」


「……そう、そしてその十三人目こそが、最も重要な人物」


「……あぁ、そうだ。言ってしまえば、あの合体大英雄、アーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥクに対して、対抗するために、俺はエロ卓の騎士を呼び出した」


「どういうこと」


 なるほど、面白い、そういうことかと事態を見守っていた大英雄が笑う。

 女エルフにはさっぱりわからないが、どうやら敵の彼らには、男騎士達の狙いが分かったようだった。


 金色の髪を揺らす荘厳なる大英雄は、その翡翠の瞳を見開くと、男騎士たちに向かって言い放った。


 いや――。


「共にフリ○ン解放のために闘ったエロ卓の騎士達よ!! 汝等はそちらの男に加勢するというのだな!!」


「……え、知り合い?」


 それは男騎士たちではなく、彼らを取り巻いている英霊たちに向けられていた。

 そう、何を隠そう、エロ卓の騎士たちは、合体英雄アーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥクの内の一人、アーサー王と共に闘った、不屈の闘士たちなのである。


 彼らは何もただ、エロのためだけに集まった訳ではなかった。

 エロスの呼びかけが届いたのには訳がある。

 彼らは、壊れてしまった主君のためにも、この場に集まっていたのだ。


 エロ卓の騎士筆頭格――乱スロットが叫ぶ。


『我が王よ!! 貴方は、人の希望に多く触れすぎた!! そのあまりに、本来の貴方を今や見失っている!!』


「乱スロット!! 最後に裏切った、隠れ寝取りの者の貴様がそれを言うか!!」


『確かに私は貴方を裏切りました、それについては詫びようとは思いません。しかし、同じエロスを胸に持った者として、エロスのために闘った仲間として、私は、貴方をお救いたい!!』


『ここに集まったエロ卓の騎士!! 皆が同じ気持ちです!! アーサー王!!』


『そうです、思い出してください!! 貴方が持っていた熱いジャンル愛を!!』


 くどい、そうアーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥク叫んだその時だ。

 ひときわ激しく光って、それは男騎士達の前に現れた。


 十三人目の騎士――熱きジャンルへの思いを持った魂。

 習合し、合体した、人の望みとはまた違う、別側面の彼。


 男達から望まれた、英雄達の王の魂がそこに顕現したのだ。


 王だ、王が降臨されたと、傅くエロ卓の騎士達。

 その前で彼は言った――。


『皆の者、此度のことまこと大義である!! その忠誠によりワシはこうしてこの世界に再び単独での顕現を果たした!』


『我らジャンルは違えども、シ○る時は同じ!! 十三名の義兄弟たちよ!!』


『今こそ刮目せよ、この世界で最もTSを愛し、もっともTSされた王の姿を!! そう!!』


『『『そう、我こそが――ゲントゥク!!』アーサ王!!』ノッブ!!』


「三人いるぅううう!!」


 最後に出て来たエロ卓の騎士。

 けれども何故かそいつらは――三人居た。


 まるでTS三銃士。

 三人並んで、堂々と男騎士達の目の前に姿を現わしたのだった。


 ひどいオチであった。

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