第891話 ど魔剣さんとドエロイモードスタンバイ

【前回のあらすじ】


 TS三銃士を連れてきたよ!!


「え、TS三銃士!? って、なに言ってんだバカ!!」


 男騎士と魔剣の願いに応じて、この世界に降臨したのは十二人のエロ卓の騎士。

 しかしながら、彼らの王は――今まさに敵対している人々が望んだ英雄達の結晶、アーサー・カエサル・ラムセス・シャルルマーニュ・サカノウエ・ダビデ・バフバリ・アレクサンドロス・ゲントゥクの中にあった。


 言うまでもなくアーサ王である。


 かつて、主君と仰いだ彼の暴走を止めるために、十二人の騎士は集まった。

 そしてまた、その主君を含めて、はじめて十三人から構成されるエロ卓の騎士は完成する。そう、何もエロスの呼びかけだけに彼らは応えた訳ではない。

 彼らは、人々の希望によりねじ曲げられた、彼らの王を救うために現れたのだ。


 その時、眩いばかりの光が男騎士たちの下に降臨する。


 この場の誰よりも神々しい――エロのオーラをまとったそれは、集まった十二人の騎士達を傅かせると、その名と性的嗜好を語った。


 そう、彼こそは。

 彼らこそは――。


『今こそ刮目せよ、この世界で最もTSを愛し、もっともTSされた王の姿を!! そう!!』


『『『そう、我こそが――ゲントゥク!!』アーサ王!!』ノッブ!!』


「三人いるぅううう!!」


 死後、うっかり有名になってしまったばかりに、女体化されてしまった可哀想な英雄達。


 まさしくTS三銃士であった。


◇ ◇ ◇ ◇


『なんでじゃ!! TS大名筆頭格といえばこのワシじゃろう!! 魔改造大好き、東の島国の人たちが愛した大名ノッブ!! 大全集まで出ておるんじゃぞ!!』


『確かにノッブのTS人気ぶりはすごい――しかし、大陸で最も愛されているのはこの私。リュウビ・ゲントゥクである。大陸の人口がどれくらいあると思っているのか』


『いやけど、ゲントゥクどのはどちらかというと主人公ポジでは? 弟のカンウとかチョヒとかが女体化されて、一人ハブられるパティーンが多いのでは? 冴えない竿ポジでは? というか、自分で愛されとか言っちゃうあたり、痛い奴では?』


『……てめぇ、表へ出ろや!! 桃園にしてやる!!』


『あ、これ違う!! 徳のある演義の方じゃなくって、暴力的な史実の奴だこれ!! 力ずくでカンウとチョヒいを押さえ込んでた、一番の埒外野郎の方だこれ!!』


『二人とも騒がしい!! TSされた数など問題ではありません!! 問題は質――この世界で一番TSしてシコられている者こそが、真のTS王!! そう、この完璧なボディを見なさい!! 金髪碧眼に慎ましい胸、低身長にアホ毛――この私のTS姿に敵う奴がいるか!!』


『『うっせー!! お前はアーサー王っていうよりアルトリ○じゃねえか!!』』


 むちゃくちゃである。

 エロ卓の騎士、最後の一人を呼んだだけなのに、むっちゃくちゃである。


 いやむしろぐだぐだである。

 ぐだぐだアーサー王伝説withノッブ&ゲントゥクである。


 これは本気でいろんな所に怒られる奴では。


「というか、TS大好きって何よ!! アンタら、いったいぜんたいどういうつもりよ!! そもそもエロ卓の騎士ってなんなのよ!! どういうことなのよ!!」


 女子供に分からない世界、ここに極まれり。


 男達には割と需要のあるTSの世界。

 けれども女子には、別にそのまんまでよくねぇと、理解されることは難しい。

 男心が女心に徐々に置換されていく、自分が変わっていくという精神的背徳感は、やはり、男にしか分からないものだった。


 いや、概念としては分かる。

 TSものというジャンルがあることを、女エルフも知識としては知っている。


 この際、問題だったのは――。


「TSモノが好きって話であって、TSしたとかされたとか、そういうことに使われたとか、そういうことじゃないでしょうよ!! なにを夢見てるのよ!! そういうことじゃないでしょう!! TSモノが好きだからって、自分がTSしたいって訳じゃないじゃない!!」


『『『いや、男はいつだって美少女になりたいんだぜ、モーラちゃん』』』


「バス○の辰○みたいなこと言うな!! バカ!! ややっこしくなるだろ!!」


 TSの深淵をのぞき込むものは、TSにのぞき込まれているということか。

 とかなんとか、それっぽいことを言う男騎士とエロス。

 そういうことじゃないだろと怒る女エルフ。


 とても重大な決戦を前にしたやりとりではない。

 しかしながら、いつものトンチキ大全開、これは勝つ流れでもあった。


『とにかく。我ら、共に歴史で最もTSをシコり、TSされてシコられた者たち!!』


『TSジャンルの使徒として、奴らと闘うための力をお前に授けよう、ティト!!』


『さあ、エロ卓の同士達よ――今こそ我らのシコを集める時!!』


 うぉおおぉという、雄叫びと共にモヤのかかった男達。

 その影法師が猛然と揺らめきはじめる。


 まるで何か激しく身体を振っているような、そんな動きに、男騎士達は思わず息を呑んだ。その鬼気迫る空気と、ちょっと饐えた臭いに、思わず鼻を摘まんだ。


 モーラさんちょっと外へ出ていてと、男騎士が叫ぶ。

 こればっかりはちょっと、本当に年頃の女性には見せられなかった。


 言われるまま、女騎士もさっさと磨羯宮の外に出る。

 そこは女エルフも流石に察した。

 察したし、見たくもなかった。


『くっ、乱スロット、イッキマース!!』


「なっ、乱スロットの魂が、光になってエロスの身体に――!! ねっとりと!!」


『ドエロイモードスタンバイ!! 乱スロット、昇天!!』


 まさか、逝く度に彼らの魂がエロスに宿っていくというのだろうか。

 そう英雄王が驚いた隙に、次々にその魂たちが、男騎士が持つエロスの下へと飛び、そしてねっとりとまとわりついていく。


 すぐさま、その刀身は濡れそぼった。

 なにとは言わぬがぬれそぼった。

 ちょっと、いつもは饒舌な魔剣も、言葉を失っていた。


 こんなことになるなんてという、後悔の沈黙が漂っていた。


『さぁ、受け取るがいい!! これこそは、男達の魂の結晶!! 男達の汗と涙以外の分泌液!! 劣情を煮しめたメンズエナジー!!』


「……メ、メンズエナジー!!」


『ここに夜の一騎当千の十三人に加えて、二人の男達のメンズエナジーが揃った!! その破壊力をビームにして放つのだ!! さぁ、これが最後だ受け取れ!!』


 飛び立つ、エロ卓の騎士の王たるアーサーの魂。

 光輝くそれが魔剣にねっとりとまとわりついた時、ついにその赤い刀身は、神々しい光――ではなく、黒い海苔に包まれていた。


 これが、メンズエナジー。

 黒い破壊光線修正線


「……よし!! よく分からんが、男のエナジー確かに受け取った!!」


「いくぞティト!! これは、男を救う闘いだ!!」


「小癪な!! 人の希望に、男の欲望が敵うだなどと、本気で思っているのか!!」


 いくぞ、と、男騎士と合体英雄が叫ぶ。

 両者構えて、振り放つは必殺の剣ビーム。


 特選エクスカリバーの白き光と、魔剣エロスの黒い破壊光線修正線がぶつかり合った。


「くらぇ、特選エクスカリバぁあああああああああ!!」


「うぉおおおおっ!! これが、男ビームだぁあああ!!」


 磨羯宮が男たちの慟哭に震える。

 はたして、男騎士の男ビームは、英雄達を貫けるのか――。

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