第881話 どワンコ教授と蠍の毒

【前回のあらすじ】


 着々と毒舌ネタで場を沸かし、そして墓穴を掘っていくファラオ。

 対して、まったく大喜利的には成立していないが、かわいい正義の力で座布団を獲得していくワンコ教授。


 どエルフさん○点。

 それは、通常の○点ではなく、新春恒例家族○点。

 アイドル入り乱れてのガバガバ判定。ちょっとサービスが過剰な奴であった。

 とはいえ、いつものメンバーにはちょっと判定が辛辣。


 なんにしても、この手の番組では子供が有利。


 ワンコ教授。

 成人女性の彼女だが、そのベイビーフェイスで司会のスフィンクスはもちろん、ファラオの民達までたぶらかすと、場を――もうこの子が優勝でいいかという空気に持っていくのだった。


 おそるべしワンコ教授、おそるべし。


 かわいいはせいぎ。


「……いや、ちょっと、これは無理があるでしょうよ。というか、ケティに対してこの世界ちょっと甘くありません」


 この作品のヒロインはやっぱりケティちゃんなんだなぁ。

 僕っ子ロリケモ博士合法幼女とか最高なんだなぁ。


「主人公は私じゃろがい!! だったらどエルフさんとか付けるなや!! しばくぞ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 第一問が終わった。

 そして、もうそれだけで決着はついていた。

 一億枚座布団を貰って、流石に乗れないと後ろに避けた時点で、勝敗は決した。どれだけ座布団インフレが起きても、一億枚座布団を上回ることはできない。


 しかも社会派毒舌紫ポジ。

 番組補正もあって彼には地道にいぶし銀の一枚をもぎ取るのが精一杯。

 もはや勝負するまでもなかった。


「はい、と言う訳でね。○点大喜利、ケティちゃんの優勝ということで、本日はお開き」


「やったんだぞ!!」


「またの次回をお楽しみに。それではまた来週」


 テッテケテケテケと音が鳴り、幕が下がってお開きとなる。

 かくして、天蝎宮での戦いは終結を向かえた。

 ワンコ教授の満面の笑顔と共に――。


「ふっ、やるではないかケモ耳の。なるほど、身体能力だけではなく、頭も切れるとは見上げたものよ。あえて言ってやろう、あっぱれであったと」


「だぞ!! どうだ、まいったかなんだぞ!!」


「ケティさん、そんなえばって言うことじゃないと思いますよ」


 そして、別に知力で買った訳でもないと思いますよと言いかけて、新女王は口ごもった。紛れも無くこの勝利はワンコ教授の手柄であり、ラーメンネタ以外、特に何もできなかった彼女としては、あれこれ言うのが気が引けたのだ。


 そんな事情を良いことに、得意げに胸を張るワンコ教授。


 増長、驕り、しかたなし。

 今日の主役は間違いなく彼女なので、止めようがなかった。


 そして、ファラオは凄いことになっていた。

 なんというか、ワンコ教授のかわいいムーブに対して、徹底した紫ブラック腹黒芸を貫いたファラオは、もう首まで埋葬されていた。


 あとは仮面を被せてフィニッシュです。

 それくらいに、もう、埋葬状態であった。

 ミイラ待ったなしであった。


 憐れ蠍の王スコーピオンキング

 可愛さの前に、筋肉も知力もカリスマも良い声も無力なのだ。


「ふっ、どうやら余の負けのようだな。もはや首まで土中に埋まっては返す言葉もない。認めよう、貴様がPharao踏破者ということを」


「ふっふっふ、やったんだぞ!! 古代の神秘Pharaoをクリアしてみせたんだぞ!! 凄いんだぞ!! 考古学者冥利に尽きるという奴なんだぞ!!」


「……しかし、これで余も蠍の王スコーピオン・キングを名乗る者!! 勝負に負けても、ただでは負けぬわ!!」


「はっ!! 危ないケティさん!!」


 土中から何かが這い出る。

 それはまさしく節足動物の持つ硬い皮膚。

 黄土色の硬い土のなから飛び出たそれは、素早く動き回ると、腕を組んでいるワンコ教授を反応する間もなく毒牙にかけた。

 だぞとワンコ教授が叫んだ次の瞬間、彼女を救おうと飛び出した新女王もまたその毒牙にかかる。


 うぅっと唸ってその場に倒れるワンコ教授と新女王。


 油断していた。

 まさか、○金闘士がこんな卑怯な手を使ってくるとは。


「くっ、なんということ、意識が朦朧と」


「だ、だぞ。目が、霞むんだぞ。徹夜明けみたいに、どっと疲れが」


「くっくっく、どうやら相当効いたようだな」


「……毒とは卑怯ですよ、蠍の王スコーピオン・キング!! 正々堂々と勝負したどうなのですか!!」


 新女王が絞り出すように出した声。しかしながら、それにファラオはいかめしい顔を向ける。毒を使うのを卑怯となじられて怒ったのか。

 いや、そうではない。


 腐っても○金闘士。

 かつて人類を率いた英霊。

 彼には彼なりのプライドがあった。


 そう、彼がその蠍の尾で刺したのは――。


「毒ではない!! 貴様らの安眠のツボを突いてやったのだ!! これでぐっすり快眠、七時間睡眠!! 起きたら肩こりもなくなってアーラ不思議、絶好調!!」


「……なっ!!」


「……か、快眠のツボだって!!」


「ここまで登ってきて大変だったろう。なに、後から登ってくる仲間は通してやろう。貴様達はまだまだ成長途中なのだから、ちゃんと十時には寝なくちゃいけない。でないと大きくなれないぞ」


 そんなことを言っている場合ではない。

 しかし、ツボを押されてしまってはもう抗えない。

 そして実際、スポーツによる疲労と、頭脳労働による疲労、さらにここまでの徒労で結構眠気は来ていた。割と二人は無理していた。


 他のメンバーが早々に倒れているのに対して、若さだけでなんとかここまで乗り切っていたがそれも限界だった。


 無念、ワンコ教授と新女王がその場に倒れる。

 前のめりに倒れた彼女たちに、ふぁさぁとシルクのシーツをかけるファラオ。

 肩についた土を払うと。


「今は争いを忘れてゆっくりお休み、子犬ちゃんたち」


 無駄に良い声でそんなことを言うのだった。


「……だぞぉ、早く、早く塔の頂上に向かわなくてはなんだぞ」


「……くっ、こんな所で寝るなんて。けど、なにこの肌触り、上質な寝具」


「ピラミッドでおやすみ」


「「……ぐぅ」」


 かくして、男騎士パーティ怒濤の進軍は、ここに一旦の停滞を迎えた。

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