第880話 どワンコ教授と可愛いは正義

【前回のあらすじ】


 炸裂する紫毒舌ネタ。


 ○点の妙味。

 これがなくっちゃ始まらない。


 それはもちろん、大御所達の堂に入った返しも素晴らしいが、俗っぽさもなくちゃ面白くない。


 スフィンクスを死亡ネタで弄ってみせたファラ太郎こと蠍の王スコーピオン・キング。やはり王だけあって脳筋ということはない。

 その鋭い切り返しに場はブラックな笑いに満ちあふれ、番組としては画になるシーンが撮れ、大いに盛り上がった。


 おそるべし、ファラ太郎――。


「アンタねぇ、墓の守護者になに言ってんだい。盗掘者入れちまうよ」


「いや、そんな」


「山田くん。ファラ太郎さんから座布団全部もってって。足りない分はしばいちゃっていいから」


 しかし、司会者弄りは座布団を持って行かれるまでが一連の流れ。

 勝負に勝って試合に負ける。憐れファラ太郎、その座布団を流れで没収されてしまうのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 さて、そんなこんなで一通りのメンバーが手を挙げた。

 残るはワンコ教授と新女王。


 別に手を挙げた者勝ち、問いに対して全員が一度は手を挙げなければいけないというようなルールがある訳ではない。ひらめかないならひらめかないで、それはそれで進行は進むし、他のメンバーが回答をするだけである。


 実際、一巡を待たずに――。


「はい、コンペイさん。朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」


「一本!!」


「そりゃいったいなんなんだい」


「私のバッテリー残量!! くっ、やるなファラオトロン!!」


 コンペイがまたしてもよく分からないネタを繰り出しているのだった。


 この手の独特の空気で笑わすタイプは、ハマると強いけれどハマらないととことん弱い。たぶんファラオトロンは持ちネタなんだろうが、あまりにも耳に馴染みのない言葉なのと、意味が伝わらなくってダダ滑りである。


 座布団を没収されこそしないが刺すような冷たい視線に晒される。

 それでも、表情を崩さすけろっとしているのは流石だった。ただ単に、ロボットだから表情筋が死んでいてその辺り分からないだけかもしれないが、流石だった。


 だが、ロボットにこの手のフィーリング芸はやっぱり合っていなかった。


 とにもかくにも――。


「ケティさん、私たちも無理にでもネタを繰り出さないとダメですよ」


「だぞ、そう言われても。僕はこの手のひらめき系は得意じゃないんだぞ。じっくり考える系の方が」


「さっきまでの勢いはどうしたんですか!! こんなの、逆に何も考えずに勢いで言っちゃえばいいんですよ!!」


 えぇいままよと新女王が手を挙げる。

 はい、エリィさんとご指名が入る。

 おほんと咳払いをするこの手の娯楽とは縁遠いはずの王女様。彼女は、参りますと妙に気合いを入れて司会に目線を向けた。


「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」


「いーっぽん」


「そりゃいったいなんなんだい」


「エリィちゃんラーメンのお箸の数!! 今日も大盛況!! みなさまのエリィちゃんラーメン!! みんなで食べようエリィちゃんラーメンでございます!!」


 どっと小笑いが起こる。

 新女王、プライドも何も捨てた貧乏ラーメンネタで勝負に出た。


 これは黄色の特権である。


 黄色と言えばラーメン。

 実際にエリィちゃんラーメンなんてやっていない。

 けれど、黄色だから許されるネタであった。


 しかしこのネタは諸刃の剣。


 はいと素早くそれに合せたのは腹黒紫ファラ太郎。


「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」


「二本しかないねぇ」


「そりゃいったいなんなんだい」


「なんでえ、エリィちゃんラーメンこれしか箸置いてねえ。赤字なのかい」


 ラーメン屋繁盛してないネタにつなげられるのだ。


 そう、与太郎キャラは周りに弄られてこそ○点に輝く。

 そして与太郎を弄るのはだいたい緑か紫。


 緑が考えあぐねいてネタが出せないこの状況で、紫が先鞭を付けるのは必至。これは痛恨の一打。しまったと思わず眉を新女王はしかめるのだった。


 せっかくラーメンネタを使ったというのに、敵にネタを与えてしまうとは。

 不覚。とにかく不覚。


「はい、ファラ太郎さん、山田くんちょっと墓掘っちゃってください」


「墓ァ!?」


「座布団もうないのでね、ちょっと墓をこれからは掘っていこうと思います。ファラオということでね」


「なんだいそりゃ。言うんじゃなかったよ」


 そして床にめり込む蠍の王スコーピオンキング

 番組の流れとしては完璧だったが、やはり身内弄りネタは諸刃の剣だった。

 またしても勝負に勝って試合に負ける蠍の王スコーピオンキング。舞台の上で膝が床にめり込む様は滑稽以外のなにものでもなかった。


 これ、勝てる奴では。

 相手が勝手に自爆してくれる奴では。

 紫、実は自爆キャラでは。


 そんなことを新女王が思ったその時――。


「できたんだぞ!!」


「はい、ケティさん」


 ワンコ教授が満を持して手を挙げた。


 自信満々。

 インテリの彼女が、それはもう自信たっぷりに声と手を挙げた所に、新女王も手応えを感じる。これはもしや、会心の一撃。座布団複数枚待ったなしではないか。


 高まる期待。

 鎮まる客席。


 そんな中、彼女の渾身のネタが始まった。


「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」


「一本なんだぞ」


「そりゃいったいなんなんだい」


「牛乳!! 朝はいっぱい飲めるけど、夜寝る前はそんなに飲めないんだぞ!!」


 大喜利になっていない。

 これは、ミステイク。

 あまりにも稚拙。

 いや、巧いとか拙いとか以前の問題。

 完全に何かベクトルを間違えている。


 しかし――。


「うぅん、可愛いからよし!! 座布団三枚!!」


「やったんだぞ!!」


「えぇっ!? それでいいの!!」


「背、大きくしたいんだね。まぁ、座布団じゃちょっとくらいしか変わらないけれど、あげちゃいましょう」


「ありがとうなんだぞ」


「そんな遊びに来た孫を可愛がるおじいちゃんみたいなノリで!!」


 司会者のスフィンクスのダダ甘採点。

 一気に座布団を四枚手に入れたワンコ教授。

 しかも、なんのひねりもない酷いネタで。


 流石にこれは許してはいけない案件なのではと頭を捻る新女王。しかしながら、すぐに観客達から向けられる温かい視線で気がついた。

 なるほど。


「これ、新春恒例のお楽しみ大喜○でしたか」


 恒例メンバーに加えてアイドル参戦。

 ちょっと毒気がないネタでも、そこはアイドル、笑って許す特例措置。


 どうやらこの勝負、判定がゲスト向けにガバガバのようであった。

 新女王は、密かに勝利を確信した。


「もう一個なんだぞ!!」


「はい、ケティちゃん。朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」


「四本なんだぞ」


「そりゃいったいなんなんだい」


「耳なんだぞ!! 昼間は僕の耳、暑かったり寒かったりでペターってなってるから、二本なんだぞ!!」


「うぅん、耳は本とは数えないけどいいや!! かわいい!! 許す!! 座布団一億枚!!」

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