第879話 どロボット野郎とボケ倒し
【前回のあらすじ】
朝は四本、昼は二本、夜は三本なんですか。
「俺の頭のヒトデ!!」
「
初っぱなから持ちネタでぶっ飛ばす赤い衣と青い衣の回答者。
そう、笑○において大切なのは、適切にネタを捌くことだけではない。
もちろん、これは秀逸というネタを繰り出すのも大切だが、なによりも大事なのはキャラを活かすことなのだ。
貧乏、美男子、与太郎、死にかけ、腹黒、お調子者。
いろんなキャラがあるけれど、それを活かしてネタをひねり出せてこそ○点出演者としてはじめて一人前。そう、巧いことを言うだけではダメなのだ。
そこに番組としての絵を描けるからこそ、彼らはそこに座っている――。
「なんか凄くハードルの高いこと言っているように思うけど、上の二つ勢いだけでまったく巧くもなんともないからね?」
すみません。
作者の頭以上の頭の良いキャラが書けないというアレです。
僕に○点レベルの頭のキレがあるキャラなんて書けませんですしおすし。
とまぁ、そんな筆者の事情はさておき、次なる回答者は――ロボット落語家コンペイさん。はたして、彼はどんなネタを繰り出すのか。
◇ ◇ ◇ ◇
モブキャラクター大活躍。
まさかの、お遊戯、お瀬戸と来て、飛ばしてコンペイ。
電子音を響かせて、あぁあぁという回答者。
橙色の衣を纏ったロボットは、いきますとばかりに目を光らせるのだった。
なんだかちょっと緊張している様子である。
そこを察してか司会者のスフィンクス、彼が落ち着くのを待ってから、ようやっとお題を繰り出した。
「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」
『もちろん四本』
「そりゃいったいなんなんだい」
『朝から晩までいつ食べても美味しい――ロボットウォーマー魚肉ウィンナー!! みんなも食べて私たちのような強いロボになろう!!』
「「「なんの宣伝だ!!」」」
ワンコ教授、新女王、ファラオ。
ハモってのツッコミだった。
これまでの流れも相当カオスだったが、コンペイの切り出したネタはさらにその上を行くカオス。
キャラクター性とかそういうのの以前に、意味が分からないネタだった。
なんだ、ロボットウォーマー魚肉ウィンナーって。
ロボになろうって、そんなの食べてなれるものなら苦労はしないだろう。
いや逆に、そんなもの売っちゃまずいだろう。
これには客も大しらけであった。
スフィンクス。
幾ら友人のコンペイであっても、これはちょっといかめしい顔をする。
食っちまうぞとばかりに眉間に皺を寄せて彼は友人を睨む。
「……ちょっとコンペイさん、自分のキャラクター商品の宣伝はやめてください」
『いいじゃないですか。この番組のスポンサーなんですから』
「そういうことじゃないんだよ。はい、山田くんコンちゃんの一枚取っちゃって」
『そんな!! おのれ、ファラオトロン!! 卑劣な!!』
何も卑劣ではない。
勝手に自爆して、勝手に座布団を取り上げられただけではないか。
自業自得も良いところである。
なぜそこで、開き直って人のせいにできるのか。
逆にその神経の図太さがワンコ教授たちには不思議でしょうがなかった。
というか、そもそもファラオトロンとはなんなのか。
ファラオをさして言っているのは間違いない。
だが、なんでそんな言い方をするのか。
場に微妙な空気が流れる中――。
「はい、次、ファラ太郎さん」
ついにファラオが満を持して動いた。
息を呑むワンコ教授に新女王。
二人とも、まだまだ○点の空気になれない中、先を越されてのファラオの挙手にまたしても身体がこわばる。
ここで熟練の○点メンバーなら、話を聞きながら自分のネタを練るものだが、そこはまだまだ今日が初参加の二人である。
ついついライバルの回答を聞き入ってしまう。
皆が注目する中で、ファラ太郎がえぇと喉を鳴らす。
「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」
「一本ですな」
「そりゃいったいなんなんだい」
「スフィンクスさんの命の蝋燭でございます」
司会者の死亡ネタ弄り。
出た、紫の毒舌ネタ。
客は笑うが司会者は怒る、ど定番の奴である。
さらに命の蝋燭がどんどんと消えていくというのは話の筋としては通っている。巧いというほどではないが、死亡ネタとしてはなかなかエグい。
当然、観客席の民は笑う。
スフィンクスは苦い顔をする。
そして――。
「だぞ!! その弄られポジションは僕のはずなのに、ひどいんだぞ!!」
「ケティさん、これはアレです!! ○楽師匠がご存命の時の師弟ネタです!!」
ワンコ教授が死亡ネタ弄りで抗議をした。
しかしながらこれはワンコ教授のはやとちり。
緑と紫の鉄板やりとりではない。
そう、師弟ネタである。
この業界、弟子が師匠に生意気を言ってからかうという芸もまた存在する。
今やベテラン、あるいは中堅の立ち位置になった紫の。
しかしながら、○点参加当時は若手も若手。周りを見ればベテランだらけ、さらに師匠が司会という満足に息もできない状況であった。そういう中で、司会という立場ながらもなにかと世話を焼いてくれる師匠と、同じく苦労をしてきた隣の緑に助けられ、半ば彼らの胸を借りる形でこうしてブラック芸に磨きをかけたのだ。
もちろん、それは師匠と弟子の間に篤い信頼関係があってこそ成立する。
司会と紫、緑と紫、さらに黄色と紫の間にも、確かな信頼があるからこそいじれるのだ。キツいギャグもいうことができるのだ。
○点を表面通りのやりとりで見てはいけない。
あれは総合芸術、人間関係が生み出す笑いなのである。
とまぁ、それはさておき。
これはファラオとスフィンクス。
二人の間に、それしきのことで亀裂の入らぬ、人間的な信頼ができるからこそできる技。
まさに芸術。いや芸。
みせつけられたという気分で、ワンコ教授と新女王は絶句した。
恐ろしいかなファラオ。
筋肉馬鹿などでは絶対ない。王という、民を導く立場にある人間が持つ、確かな知性と人間力を窺わせるそれは素晴らしい一手だった。
しかし。
「アンタねぇ、墓の守護者になに言ってんだい。盗掘者入れちまうよ」
「いや、そんな」
「山田くん。ファラ太郎さんから座布団全部もってって。足りない分はしばいちゃっていいから」
ここで怒って座布団没収されるまでが一連の流れ。
○点としては満点の切り返しだったが、自爆しかない流れでもあった。
かくして、あわれファラ太郎。
彼は早速座布団を失ったのだった。
「まったく、これだから壁画面は心が狭い」
「なんだって!!」
「……だぞ」
「……これはあれですね。普通に墓穴掘った奴ですね」
勝負と番組の流れはまた別であった。
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