第878話 どワンコ教授と濃すぎる面子
【前回のあらすじ】
さぁ、今週も始まりました、どエルフさん。
司会は私、ご存じスフィンクス。回答者の皆さんはそうそうたるメンバー。
散髪失敗シルバーオシャレ野郎、ムトウ亭お遊戯。
家族が大切アットホーム、カイバー亭お瀬戸。
いやんばかんそれはお姉さま、エルフ屋エリィ。
正統派一周回って死体枠、ワンコ亭ケティ。
色黒腹黒ブラック嫌われ紫ポジ、毒蠍亭ファラ太郎。
争いは止めろすぐにトラック野郎、ハシリ家コンペイ。
色とりどり個性派揃いのメンバーが今週もお茶の間に笑いをお届けいたします。超古代お笑い頂上決戦日曜六時――○点。はじまりでございます。
「火曜日!! 昼の十二時!! ネタがマニアックすぎる!!」
という訳で、スフィンクスの登場により突如始まった○点。
あまりに濃すぎる面々に、頭働きは抜群だが、ツッコミ能力はそこまででもないワンコ教授はどこまで太刀打ちできるのか。
基本的に空気、護られるばかりの新女王は何かできるのか。
まさかまさかの最後の最後で知恵比べ。
今週もどエルフさん、予想外のトンチキバトルではじまります。
【追記】
公開のこのタイミングでハシリ家コンペイの元ネタ(名前だけ)である林家こん平師匠の訃報が入ってちょっとびっくりしております。
そこまで私は熱心に笑点を見ていた訳ではないのですが、いつも明るく元気な笑いを作っているこん平師匠のイメージが強く頭の中にあり、僅かな時間しかテレビで見ることはできませんでしたが、偉大な笑いの先人だと思っておりました。また、突然の降板は熱心なファンでないにしてもショックで、長らくたい平さんの代打が続くのにもう復帰は無理かと思いながらも、いつかなにかの機会でまたテレビで、あの元気な笑いをやってくれないものかと願っておりました。
その願い叶わぬまま彼岸の方になれたのはなんとも残念です。ですが、笑点を降りられてから15年。ここまで頑張られたのもすごいことだと思います。
林家こん平師匠、本当におつかれさまでございました。
師匠のご冥福を心よりお祈りします。
◇ ◇ ◇ ◇
「えーでは第一問目。ここはやっぱり鉄板で、スフィンクスの謎かけからまいりたいと思います。私が、朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だいと問いかけます。皆さんはそれに何本と答えていただいて、それに私がそりゃいったいなんなんだいと返しますので、そのモノをお答えください」
いきなり直球勝負で来た。
有名すぎるスフィンクスの謎かけである。
もちろん、一般的に答えとされているのは三本で人間。
朝は子供を現わし四つん這い、昼は成人を現わして二足歩行、夜は老人ということで杖をついて三本足という古代うまいこと言ったもんだね話である。
これは流石に新女王でも知っている有名な逸話であった。
とはいえ、かえって有名だけに難しい。
有名な答えがあるおかげで、逆に想像の余地が狭まってしまう。どうしても、そりゃ三本で老人だろうという発想に引っ張られてしまう。
これは難しい、どうやってその考えの枠を崩したものかとワンコ教授と新女王が頭を捻ったその時。
「はい、お遊戯さん」
真っ先に手を挙げたのは、ファラオでもコンペイでもなく、しれっと司会席より一番手前の席に座っているピンク色の服を着た男であった。
この男、え、そんな冗談とか言えるタイプなのと全員が驚愕する。
只の数合わせ、場つなぎに出て来たキャラクター、後ろ三人に比べるといささか影が薄い――ということはないがキャラが弱いそんな奴が、自信満々に手を挙げたのは少なからず場に動揺を誘った。
さて、そんな同様の最中で、男は堂々として問いに答える――。
「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」
「一本」
「そりゃいったいなんなんだい」
「アタシの髪」
そう言って、五本あるヒトデヘアーを撫でるピンクの衣の男。
内容としては意味不明だが、その身体を張ったギャグと、コミカルな仕草に思わず周りが笑いを漏らす。
巧いとはけっして言えないが、なかなか悪くないギャグであった。
場の温まる笑い。
そして、話の広がるネタである。
「お遊戯さん、髪の毛がヤバいのかい?」
「最近ちょっと抜け毛が酷くってね」
「だからって、そのヒトデが夜に四本も抜けるのかい。世も末だねぇ」
司会とのやりとりも含めてちゃっかりと笑いを取る。
座布団こそ取れなかったが、この会場を盛り上げるという一点において、彼のギャグは最適解であった。
もっとも、ヒトデヘアーをしていないと、できないギャグでもあったが――。
さて。
そんな変則返しに、なるほどそんな手もあったかと唸った瞬間、矢継ぎ早に手を挙げたのは。
「はい、お瀬戸さん早かった」
お瀬戸とコンボイ。
なんと、メインの三人を差し置いての猛攻。
こいつら賑やかしではなかったのかとまたしてもワンコ教授達が戦慄した。
「朝は四本、昼は二本、それじゃ夜は何本だい」
「三本」
「そりゃいったいなんなんだい」
「それは――俺の
それは違うやろ。
ワンコ教授と新女王がしらける。
客もしらける。
ファラオも、司会もしらける。
自信満々でキメ顔で言ったカイバー亭お瀬戸。
頬を赤らめて、ふぅんと誤魔化した。
あまりにも勢いだけの酷い芸。
座布団没収も無理もない奴であった。
そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、隣で見ていたヒトデ頭のピンク衣。
「……解説よろしいですか」
「あらお遊戯さん」
「えー、カイバー亭さんの趣味でやられているカードゲームでございましてね、元々世界に四枚しかないカードなんですよ」
「あぁ、そうなんですか」
「……そうだ!!」
「まぁ、その四枚のうちの一枚をアタシのお師匠が持ってましてね、頑張ってお瀬戸さんも集めて、今三枚持ってらっしゃるんですよ」
「あら、頑張ったんだね」
「恐喝とか、殺人とか、あと、買収とか、大変でしたね」
笑えない。
めでたいやりとりのはずなのにちっとも笑えない単語ばかり出てくる。
というか、カードゲームに何をそんな物騒な話を持ち込んでいるんだろう。
もっとこう、穏便に楽しむことはできないのか。
なんで紙切れ一枚に命をかけなくちゃいけないのか。
狂気の沙汰。
それは新女王達には分からない狂気の沙汰であった。
「なるほど、それで、四本、三本って訳かい。いや、二本はどうした」
「……勢いで」
「言いたかっただけみたいですね」
「どうしようもないねコイツは」
しかし意外、その切り返しで、あっはっはと笑いが溢れる。
なんと、これは完全に滑った座布団没収と思わせて、鮮やかにそれを回避する。
与太郎キャラの如き老獪なそのやり口に、新女王が舌を巻く。
どうやら、このカイバー亭お瀬戸。お人好しなのにやることが物騒という二面性を持ち合わせるだけあって、なかなかの食わせ物であるようだった。
なんにしても、彼ら二人は座布団こそ得られなかったが、そのキャラクター性を観客にアピールすることには成功した。
これは、大きなアドバンテージだ。
これからその方向性を極めていけば、おそらく、座布団を取るのは難しくない。
敵はファラオ一人にあらず。
そう思った瞬間。
「はい、次、コンペイさん」
またしても、ワンコ教授たちは数合わせの噺家に先んじられてしまうのだった。
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