第882話 ど男騎士さんと人馬宮

【前回のあらすじ】


「ピラミッドでおやすみ」


 ドッグランに続く大喜利。

 身体と頭脳を使い果たしてくたくたのワンコ教授。

 そして、とばっちりを受けた特に何も活躍していない新女王。


 彼らは天蠍宮を突破したが、その疲労を見抜かれていた。


 蠍の王スコーピオン・キングただでは死なぬ。

 走る蠍の尾。鋭きその針が刺し貫いたのは秘孔――快眠のツボ。


「「……ぐぅ」」


 疲労した身体にツボマッサージは効く。

 かくして快眠のるつぼにずるずると落ちていった両名。

 ついに男騎士パーティは全滅、ここに塔を攻略する者達の足踏みは止まった。


 はたして、誰が次なる試練が待つ人馬宮に挑むのか。

 女修道士シスターの救出、そのタイムリミットは刻々と近づいている。それに間に合うことができるのか。


「先週だいぶトンチキしたのに、今週は入りが普通ね」


 SNS断ちをしたら生活のクオリティが上がって……。

 とか、そういうことは置いといて。


 ついに残す所、○金闘士の待つ宮は四つ。

 物語もクライマックス目前。果たしてどうなるどエルフさん。

 という所で、今週も始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


「ゼクスタント、コウイチ、なぜいるのか分からないがデビちゃん、リーケットさん、ケティさん、そしてエリザベート王女。皆、よく頑張ってくれた」


「こんなにぼろぼろになっちゃって。ほんと、慣れないのにコーネリアのために闘ってくれたのね。ケティも、そしてエリィも」


 パーティ内でも戦闘に向いていない二人が、最後まで攻略を続けていた。

 その事実に胸を打たれる男騎士と女エルフ。


 彼女たちが眠る天蠍宮に最初に駆けつけたのはリーダーと副リーダー。おそらく最もこの塔を駆けずり回った、メインアタッカーとサポーターだった。


 力尽きて眠りこける乙女達。

 その頬を優しく撫でて、女エルフが優しい顔をする。

 今はよくお休みと、心の中でその健闘を慰撫すると彼女たちは立ち上がった。


「ふふっ、なかなか見事な戦士達であったぞ。余も今回の闘い――数千年ぶりのPharaoに大満足であった。お前達であれば、この先に待ち構えている、最後の試練も打ち破ることができるだろう」


「あぁ、ケティさんたちの頑張りに応えるためにも、俺たちは闘う」


「というか、なにからなにまですみません。なんか敵なのにいろいろと世話をして貰っちゃって。こんないいベッドに寝かせてもらって」


 そう。

 ワンコ教授も新女王も倒れていた。

 天蠍宮で蠍の王スコーピオン・キングに快眠のツボを押されて、深い眠りの中に誘われていた。しかしながら、それと同時に彼女たちは丁重に扱われていた。ふかふかのシルクのベッドの上に寝かされて、屈強な男たちにうちわで扇がれ、まるで王侯貴族の昼寝のように環境的にも快眠状態を手に入れていたのだ。


 ピラミッドでおやすみの言葉に嘘偽りはない。

 この怪奇メフィス塔で、ここまで快適に寝れる場所があるやろうか。

 そんな恵まれた環境で二人は寝コケていたのだ。


 攻略開始から六時間。

 強行軍でここまで来ている男騎士と女エルフ。

 途中まさしくトイレ休憩はあったけれども、疲労困憊の彼らには、その睡眠状況がちょっとうらやましかった。良いところで寝てるなと、なんだかちょっと彼女たちの扱いをうらやましく思った。


「なに、余の部下たちが勝手にやったこと。可愛いはいつだって正義だからな」


「……ちょっとなにいってるかわからないわね」


「なんにしても、しばらくここで二人を預かって貰ってかまわないか、蠍の王スコーピオン・キングよ?」


「無論だ。後のことは気にせず、お前達は存分に闘ってくるがいい。また、追いついてきた仲間には、疲労回復のツボを押しておいてやろう。万全の態勢で、塔の攻略に臨むが良い!! それが余と余の民を感嘆せしめた、貴様たち戦士に対するせめてものたむけとうもの!! フハハハ!! フハハハハハハ!!」


 いいのだろうかな、本来敵同士なのに、と、ちょっと複雑な気分になる男騎士と女エルフ。とはいえ、彼らも、第一階で女エルフの祖母に助けられている。

 塔の守護者とはいっても元は人間。

 それぞれに考え方は違うということだろう。

 そういうことで彼らは納得した。


 頭を下げる男騎士。

 では、二人を頼むと言い残すと、彼らは再び怪奇メフィス塔を、頂上に向かって登りはじめるのだった。


「ティト。黄道十二宮になぞらえた試練であれば、残す所はあと四つ。人馬宮、磨羯宮、宝瓶宮、双魚宮よ」


「四つか。一息に俺たちだけで攻略できるといいのだが」


「まぁ、さっきのファラオさんはともかくとして、エリィ、コウイチ、ゼクスタントたちは、倒れている様子から結構な死闘だったみたいよ。それを考えると、ちょっと楽観視はできないんじゃないかしらね」


 そうかもしれないな、と、男騎士が頷く。

 これまで彼らを待ち受けていたのは、どちらかといえば環境型――トンチキワールドを展開させてくる相手ばかりだった。しかし、先に進んだ彼らの仲間達は、誰も彼も満身創痍の状態で倒れていた。

 確かに強敵と言える相手と闘っている。それは間違いなさそうだった。


 何より、男騎士達はこの塔に潜んでいるであろう、決定的な存在とまだ相まみえていない。かつて、バビブの塔で雌雄を決した伝説的英雄。死んだならば、まず間違いなくこのような場所に召喚されるであろう希代の軍師。


 あの男――天才軍師コウメイとこの塔で闘う事になるだろう。

 そんな予感を、男騎士たちは感じていたのだ。


「出てくるならば最も最後か、それともその手前か」


「バビブの塔と同じく、とんでもない策を弄して来そうよね」


「なんにしても、あの男には負けられない。そして、ミッテル十傑衆として、今度こそ認めてもらう必要がある」


 男騎士が拳を握りしめる。

 そうこうしているうちに彼らは次の宮へと辿り着いた。


 人馬宮。天に輝く、半人半馬のケンタウロスを模した星座。それを司る宮。

 はたして、ここにはどんな者達が待ち構えているのか。


「……いくぞ、モーラさん!!」


「……えぇ、ティト!!」


 そのモチーフの紋章が描かれた扉を押して開く。

 両開きのそれをくぐるとそこには――。


「どうもカンウです!! ニンジン美味しーい!!」


 頭の先から脚のつま先まで、全身これ馬という謎生命体。

 半人半馬と言われればそうだが、人間の形をしているだけでほぼ馬。

 とんでもないクリーチャーが待ち構えていたのだった。


 しかも、言うに事欠いて――。


「なん、だと……!!」


「カンウ、ですって……!!」


 それはかつて彼らが攻略したバビブの塔。その下層で奉られていた、武神と同じ名前をしているのだった。

 そして、こいつもまた例に漏れず、たいそうなイケボをしているのだった。


「早速ですが……お前を○す!!」


「「あかん、それ、言っちゃダメな奴!!」」


 言っちゃダメなセリフも言っちゃうのであった。

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