第876話 どワンコさんたちとコンペイ

【前回のあらすじ】


 ○点と言ったら、紫の緑弄り。

 さんざんいつになったら死ぬのだろうなどと言っておいて、いざ死んだら手のひら返して哀悼するんだから――ほんと○点はあの人達が皆で造った文化よね。

 すごいよね、○点。


「本編、ちっとも関係ないことなってる!!」


 いや、ちょっと久しぶりに感極まっていました。

 もうかれこれ歌さんが世を去ってからだいぶになりますね。


 とまぁ、そんな話はともかくとして。


 狡猾、蠍の王スコーピオン・キング


 毒舌か毒針か。

 なんにしても、ワンコ教授を仕留めるため毒牙を隠していた彼が、ついにその牙を剥く。紫の服に身を包み、肌黒に腹黒、ブラックジョークで追い詰める。


 そもそもこの場はファラオの彼が用意した場。

 当然、観客も彼の芸風を理解している。


 弄り芸や被せ芸、悪口・罵詈雑言に代表される毒舌ネタというのは、絶妙な場の人間たちによる信頼関係の上に成り立つ。

 だが、これを破ってファラオが毒を振りまく。


 よもや、その反応さえも予想されて、死んだ顔をさせられたワンコ教授。


 これは蠍の王スコーピオン・キングの方が一枚上手というものか。

 新女王が慰めの視線を送り、ファラオが高笑いを上げたその時。


『おのれファラオトロン!! 何も知らない無垢な少女を、ミイラポジションにして笑うとは許せぬ!!』


 聞き慣れない電子音が失意に暮れるワンコ教授達の耳に木霊した。


◇ ◇ ◇ ◇


 それはまったく耳に覚えのない声だった。

 声色としては男のもの。しかしながら、男騎士でも壁の魔法騎士でもない。中性的な魔性少年とも違う独特のそれは、なんかこう微妙に甲高かった。


 そして、あきらかに人が出してない音だった。


 その声色にワンコ教授と新女王、そして蠍の王スコーピオン・キングが視線を向ける。

 するとそこには――。


『お前の悪事は全て見させて貰ったぞファラオトロン!! そんないたいけな少女を罠に嵌めてどうするんだ!! お前の相手はこのハシリ屋コンペイだ!!』


 赤い衣を纏ったロボットが居た。


 角張った身体のシルエット。

 意味があるのかよく分からない複眼。

 見事な逆三角形を描いた上半身。


 そして、青々とした頭部。


 シュコーシュコーという排気音と共に、緑の光を照射してそのロボットは、怒りのオーラを身体から放っていた。


 ハシリ家コンペイ。


 今、まだはじまりの挨拶中だというのに、場外乱闘もいいところである。

 空気も読まずにファラオに対して怒りをぶつけるその男に、会場の視線は完全に集まっていた。


 なんだ、これは。

 なにをしようというのだ。


 疑惑の視線に晒されて、ハシリ家コンペイ。

 ひるむかと思いきやまったくひるまない。

 握りこぶしを造ると、わなわなと震えさせて、鋼の顔では立てることができない青筋の代わりとばかりに、緑色の怪光線を放ってファラオを威嚇した。


 蠍の王スコーピオン・キングもワンコ教授も新女王も絶句する。

 そのなんとも言いようがない、シュールな剣幕に言葉を失う。

 そんな中で、コンペイだけが、一人息巻いていた。


『分かっているのかファラオトロン!! 貴様のせいでこの可憐な少女が、これからずっと心に傷を背負って生きて行くことになったんだぞ!! これから、砂漠やピラミッドを見る度に、ミイラと一緒に埋葬された犬や猫みたいな気分になるんだぞ!! その悲しみや辛さが、お前には分からないのか!!』


「……え、いや、その」


『貴様それでも血の通った人間か!! ロボットなんじゃないのか!!』


 いや、どっちかって言うとお前の方がロボットだろうがよ。


 場に居る誰もが思った。

 だが、口にできなかった。

 いや、それよりも、差し当たってもっと深刻なことがある――。


「というか、誰だ貴様?」


「……え、知らないの蠍の王スコーピオン・キングさん?」


「知らん、こんなの呼んだ覚えがない。というか、何、怖い」


「だぞ、僕もこんなの見たことないんだぞ!! なんなんだぞ、怖いんだぞ!!」


『怖がることはない狗族の少女よ!! 私は、遠い宇宙からやって来た機械生命体!! かつて、君の目の前に居る砂漠の民達の前に降臨し、数々の知恵と技術を与えた鋼の巨人!! そして、何を隠そう、妖怪スフィンクスのマブダチ!!』


「……そうなのかスフィンクス!?」


 蠍の王スコーピオン・キングが咄嗟にスフィンクスを見る。

 その視線に応えてスフィンクス。

 彼はなんだか照れくさそうに、その頬をぽりぽりと掻いた。


 どうやら、友達というのは本当らしい。


 だが、どうして。


「いやー、私の伝手でいろいろと呼べる魂は当たってみたんですけれど、やっぱり限りがありましてね。仕方がないので色物の彼に入って貰いました」


「……色物って」


「……だぞ」


『狗族の少女よ!! こうなったら共同戦線だ!! 敵の敵は味方!! 私たちで力を合わせて巨悪――ファラオトロンを倒そうじゃないか!!』


 倒すのは良い。


 力を合わせるのも良い。


 しかし、ノリが違うのが分からない。


 なんなのだそのノリは。

 どうしてそんなノリになってしまうのだ。


 明らかに男騎士達のノリとは違う。

 むしろのこの世界のノリとは違う。

 一種異質というか、特殊というか、海外じみたそのノリ。


 ワンコ教授達は絶句した。

 ファラオも絶句した。

 この場にいるみんなが黙り込んだ。


「ところで、コンペイさん、名乗りが途中ですよ」


 唯一、冷静な彼の友達――スフィンクスがここで合いの手を入れる。

 はたして赤色の衣をまとったロボット、あいやこれは失敬うっかりとしていたという感じに頭を扇子で叩く。それから、表情筋が死んでいる鋼鉄の頬の代わりに、またしても目から優しい光を出して彼は一言。


『砂漠に住んでるみなさーん!! 砂漠と言えば、横断レースですよね!! 僕もね、こんな格好してますが、レース大好きなんですよ!! もし砂漠でパンクして止まっているトラックを見つけたら、それ、僕ですから!! そういう時は、僕の名前を呼んであげてくださいね!! せーのー!! オプティマース!!』


 まるでそれが決まり文句、なんかのギャグみたいな感じで言うコンペイ。

 しかしながら、誰も知り合いのいない砂漠の民達の大喜利。

 その合いの手に応える者はいないのだった。


 同盟者のワンコ教授でさえ、返す言葉を失って目を丸くするばかりであった。

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