第874話 どファラオさんとブラックジョーク

【前回のあらすじ】


 総合エンターテイメント系アクションアクティビティPharao!!

 襲い来る罠という名の大人の遊具!!

 それを前に、ワンコ教授の野生が炸裂&解放される!!


 誰が思ったか!!

 誰が望んだか!! 

 ワンコ教授、大活躍!!


 当初のファラオ達の思惑を大きく覆してワンコ教授、第二アトラクションまでを難なく突破して見せたのだった!!


 これがワンコ教授の中に隠れていた野生!!

 巻き起こるワンコ教授コールに彼女もドヤ顔が止まらない!!


 そんな時――彼女の前についにファラオが立ち塞がった!!


「我に取り憑く妖魔はスフィンクス!! ファラオの代々の陵墓を守る聖獣にして、人語を解する賢獣である!!」


 ファラオ蠍の王スコーピオン・キングに取り憑いていた妖怪はスフィンクス。

 人に謎かけを行う魔獣の力を借り、生み出されたPharao最後のステージは、まさかまさかの頭脳対決ステージ。


「えー、と言う訳でね、今週も始まりました『ドキ☆エジプトに行きたいか、高校生ウルトラクイズ』。略して、○点」


「ぜんぜん、略してない!!」


「司会は私、スフィンクス。回答者はいつもの皆さん」


 ○点こと大喜利が始まることになったのだった!!


 はたして、男騎士パーティ知恵袋のケティさん。

 彼女はこの究極の知恵比べに勝利することができるのか。


 いや、その前に、ポジション的にはどの色なのか。

 緑か、白か、それとも紫、まさかのオレンジか。


「○点見てる人しかわからねえだろ!!」


 という所で今週もどエルフさんはじまりでございます。


◇ ◇ ◇ ◇


 座布団を持って行かれた新女王。

 ○点ならば先週の戦績を踏まえて、幾つか座布団を重ねているものなのだが、なにぶんこの催しは突発的に始まったものである。


 まずは一枚からスタート。

 さっそく敷く物なしになって、硬い木の床に膝をつく格好になった彼女は、なんでこんなことにとうつろな目をして司会のスフィンクスを眺めた。


 まぁいい、文句は後にしよう。

 とりあえず今やらなくてはいけないのは、このクイズ対決という名の、面白いこと言った奴勝ちゲームで優勝することである。


 とはいえ、どれだけ面白いことを言えば勝ちなのか分からない。

 そして――。


「……この通り、私は典型的な与太キャラ賑わせポジション。当たり外れの波が大きくて、とても優勝ゲームには絡めそうにない。となれば、やはりケティさんにこの勝負かけるしかない」


 いかんせん場が悪い。

 というより役が悪い。


 新女王、さっそく勝負をあきらめた。

 とりあえず座布団を一枚くらいは取っておくのはやぶさかではないにしても、優勝は狙わないことにした。


 それこそが与太郎ポジション。

 優勝レースに絡むことが難しくとも、そのキャラクターだけで食っていくことができる、存在感を発揮できる、番組になくてはならないと思わせることができる。それが、黄色い衣に身をまといてやーねを唱える者の宿命であった。


 さて、そんな新女王の決意とは裏腹。


「だぞ。南の砂漠は昼暑くて夜寒い。皆さん、砂漠といいますと、灼熱地獄を想像されますがこれは間違い。夜は極寒、雪が降る所もあるんですね。さて、そんな過酷な環境なとかけましてここ大喜利と解きます」


 取り澄ました感じのワンコ教授。

 ここで彼女思いもかけない行動に出た。

 おもわず、おぉと新女王が目を見開く。


 まさかの名乗りと見せかけ謎かけをぶっ込んでくるワンコ教授。

 このような変則挨拶は、○点ではたまに発生すること。

 地方巡業、各地を飛び回って行っているそれは、地元ネタで引っ張れるかもまた出演者の腕の見せ所なのだ。


 しかしながら、生半な腕前ではそれで一笑を取るのは不可能。

 はたして、ワンコ教授、勝算ならぬ笑算はあるのか。


 じっくりと間を置いて、場の空気を温めつつ視線を集めた彼女は、したり顔をして再び口を開いた。

 気がつけば、彼女のトレードマークの白衣は、鮮やかな鶯色に染まっている。


「どちらも温度差があるでしょう」


 そう言って、新女王の方を見る。


 なるほど。

 それは先ほど、ヤーネで滑った新女王に見事に合せた、臨機応変なギャグだ。

 話のだしに使われたのに悪い気がしない。むしろ、良い感じにリカバーしてくれた感さえある。なんにしても、純粋に新女王はワンコ教授のなぞかけに感嘆した。


 ぱちりぱちりと温かい拍手が周りに満ちる。

 それに合わせてお辞儀をしてにっこりと微笑むワンコ教授。

 彼女の所作には、これまでの色物出演者とは違う、品と知性が滲んでいた。


「だぞ、ワンコ亭ケティでございますなんだぞ」


 上品に場をしめたワンコ教授に拍手が飛ぶ。

 これに感じ入ったようにパンパンと手を叩いたのはスフィンクス。彼はすぐさま手招きをすると、先ほど新女王の足下から座布団を持っていった男を呼び寄せる。


「山田くんケティさんに座布団を一枚あげて。あと、前振りのエリィさんにも」


「……おぉ、まさかの!!」


「やったんだぞ!!」


 挨拶からの座布団ゲット。

 あまりにも鮮やかなその仕事ぶりに場内からもさらに拍手が上がる。新女王もこれはもしかするといけるのではないかと、心の中で握りこぶしを造っていた。


 流石の知恵働き。

 修道女シスターと共に長らく男騎士パーティの知性を支えてきたその頭脳はやはり本物。


 アクティビティPharaoになってキャラブレイクしたかと思いきや、そこはしっかりぶれていないワンコ教授に、ほっと新女王が息を吐く。


 彼女の知恵があれば勝てる。

 見れば蠍の王スコーピオン・キングは見るからにガテン系。

 この男に果たしてワンコ教授と比肩するだけの知恵があるとは思えない。


 この勝負貰ったと、新女王が思ったその時、まるで蠍の王スコーピオン・キングを讃えるように、場が一瞬にして静まりかえった。


 蠍の王スコーピオン・キングが従える多くの民達。

 さきほどまでワンコ教授を讃えていた彼らが一様にその真の主の言葉に耳を澄ませている。新女王の背筋が凍り付いたのはその時である。


 ただの暗愚、力任せの支配者に対して、こんな風に人がかしずくだろうか。


 曲がりなりにも国を統べたファラオ。

 偉大なる王である。


 ワンコ教授に劣ると新女王はその器量を断じたけれども、はたしてその認識は本当に正しいのか。もしそんなに愚かな王ならば、このように統率の取れた行動を、民達がするだろうか。


 だいたい、このアトラクションPharaoにしたって、その細かい造りの中に確かな知性を感じさせる造りとなっている。

 こうしてワンコ教授の前に自ら出て来た辺りにも、並々ならぬ自信と共に、そうしなければならぬという彼なりの判断が垣間見えた。


 よもやこの男、切れ者ではないのか。

 案じる新女王の前で蠍の王スコーピオン・キングは、紫の衣を纏って――その白い顔を拭い去ると、にかっと日に焼けた健康的な肌を晒したのだった。


 まずい。

 本能的に新女王は身構えていた。

 それは肌黒いや――。


「えぇ、古来より我が王朝では犬猫の類いをよく飼っておりますが、これには由縁がありましてね。今でこそ南の砂漠なんて言われておりますが、その昔は肥沃な土壌の穀倉地帯でございました――」


 腹黒。

 知識マウント被せ芸。

 前の人の話になにかとのっけて笑いを取る、狡猾さを窺わせる語り口だった。 

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