第873話 蠍の王とナゾナゾ妖怪

【前回のあらすじ】


 もはや描写も必要ないくらいに、さっとアトラクションをクリアしてしまったワンコ教授。

 そのあまりのスーパープレイに、思わずファラオ側の兵士達も彼女にぞっこん。


 ワンコ教授を讃えよ!!


 そんな感じで――。


「「「ケティ!! ケティ!! ケティ!!」」」


 フロアにワンコ教授の名が連呼される。

 そして、それについつい気を良くしてしまう、ここまでこういう経験がなかったワンコ教授なのだった。


 はたしてPharaoの攻略は順調に進んでいる――かと思われた。

 しかしながら、その余りに見事なワンコ教授のファインプレーを、快く思わない者がいた。このような勝負をしかけておきながら、意外と寛大ではない男――。


 そう、蠍の王スコーピオン・キングである。


 第三のアトラクションをすっ飛ばして、再びケティの前に現れた彼。

 もはや前座はこれまでとばかりに闘気を発すると、彼はその身に取り憑いている妖魔を顕現させた。


 そう――。


「我に取り憑く妖魔はスフィンクス!! ファラオの代々の陵墓を守る聖獣にして、人語を解する賢獣である!!」


「……な、なんだと!!」


「最後のアトラクションは、このスフィンクスの力を借りて行う――題して!!」


 ドキ☆エジプトに行きたいか、高校生ウルトラクイズ。


 これまた色んな方面にご迷惑をおかけしそうな、壮大なパロディを蠍の王スコーピオン・キングは持ち出したのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「はい、と言う訳でね。私が、朝は4本、昼は2本、夜は3本の生き物なんだの問題で有名な妖怪――スフィンクスでございます。誰が呼んだかなぞなぞ妖怪」


 場は改まってちょっとした舞台。


 石造りの台座。

 これまでのアトラクションはどうなったのかどこに消えたのか。

 綺麗さっぱりなくなったそこに、ワンコ教授、新女王、ファラオ、そして、謎の三人が座っていた。


 足下にはふかふかとしたクッション。

 これがまた、絶妙に座り心地が良い。

 いったいぜんたいこれはどういう素材なのだろうか、などと考え込んで新女王が我に返る。何をやっているんだと我に返る。


 確か、最後はクイズ対決だと言っていたけれど、これはいったいどういうことか。

 ワンコ教授と蠍の王スコーピオン・キング

 二人でなぞなぞ対決をするのではなかったのか。


「なんで私、しれっと巻き込まれてるんですか!! というか、これ、いったいどういう事なんですか!!」


「ちょっとちょっとエリィちゃん。まだ始まったばっかりなんだから、はしゃぐのは早いよ。ほら、落ち着いて。エリィちゃんラーメンの売り上げ落ちるよ?」


「なんですか!? エリィちゃんラーメンって!?」


 矢継ぎ早に繰り出されるトンチキワードに、もはやキャパオーバー。

 お手上げの新女王。ツッコミ役を、女エルフから引き継いだ彼女だったが、早速世界の展開についていけなくなっていた。


 いつもいつも、このトンチキ展開についていきながら、適切なツッコミを入れる女エルフは凄い。あらためて、義理の姉のすごさを感じながらも、新女王はこれ以上深く状況について考えるのをやめた。


 考えれば考えるほどどつぼにはまりそうだったので――。


「えー、と言う訳でね、今週も始まりました『ドキ☆エジプトに行きたいか、高校生ウルトラクイズ』。略して、○点」


「ぜんぜん、略してない!!」


「司会は私、スフィンクス。回答者はいつもの皆さん」


「最近ね、散髪に行ったんですよ。お客さん、今日はどの髪型で行きましょうって言うもんだから、うぅん、まぁ、三センチくらい短くしてくださいって頼んだら――このヒトデ頭。罰ゲーム!! どうも、ムトウ亭お遊戯でございます!!」


 ムトウ亭お遊戯。

 一番手なのにやけにハードレザーを着込んだ上に、絶対に狙ってやったヒトデカットの髪をした男に、新女王は戦慄した。


 お前、今まで一度も出てこなかったのに、なにさらっとトップバッターで出て来ているんだと、戦慄した。ぶっちゃけ、知らない人過ぎて本当に怖かった。


 けれども、なによりも、その隣に座っている男の方が怖い。

 その瞳はそう、なんかこう、人を殺していそうな感じの瞳。

 ヤバい感じの瞳だ。


 黒レザーの男とは対照的に、銀色が眩しいコートを羽織ったその男が、今度は自分の番だとばかりに口を開く。クククと漏れるその特徴的な笑い方に、底知れぬ何かを感じて、新女王の身体の芯が震えた。


「ククク、先日弟と一緒に遊園地に遊びに行ってきたんですよ。いやぁ、最近の遊園地ってのはよくできていますね。3Dっていうんですか。飛び出してくるモンスターに、年甲斐もなくうわぁあああぁぁああぁあなんて叫んじゃいましたよ。そしたら、弟ってば、私の顔の方を見て大受けして。いやぁ、家族って良いものですね。カイバー亭お瀬戸でございます」


 普通にいい人だった。

 よく知らないけれど、あれだけ邪悪な雰囲気を醸し出しておいて、普通にいいお兄ちゃんだった。


 なんだったら隣のヒトデ男と、どこ行ったのとか雑談しだす男だった。


 だったらなんで出した、強キャラオーラ!!


 新女王はたまらず奥歯を噛んだ。

 そして、気がつくと、彼女の挨拶の番だった。


 集まる視線に、自分もまた、小粋なトークで挨拶をしなくちゃいけない。

 これまでの流れに沿って、小粋な話をして場を盛り上げなくてはいけない。


「え、えー、この頃はなにかと物騒な時代になりまして、やれちょっと街を歩いていても身の危険を感じてしまいます。えっ、それはアンタが有名人だからって。あらまぁ、それはもう、人目につかないところに逃げるしかないわ。何処って、それは、もちろん」


 や~ね~。


 まるで示し合わせたようにファラオの兵達が言葉を発する。

 新女王の、くだらないダジャレに、会場が応じる。


 そして――。


「まーたくだらないこと言って。ヤマダくん、エリィちゃんから座布団一枚持って言っちゃって。ほんともう、しょーがないんだから」


 ヤマダクンなる、謎のパンチパーマがどこからともなく出て来たかと思うと、新女王の足の下にあったクッションを引き抜いて持っていった。

 間違いない、これは間違いない。


 またしても、新女王達は、○金闘士の術にかけられたのだ。

 先ほどのアトラクションも今のこの茶番も、スフィンクスの権能に他ならない。


 けれども、それより、なによりも――。


「ちょっと待って、私、与太キャラポジなんですか!! ヤダーっ!!」


 黄色い服に着替えさせられ、弄られ役に抜擢されたことの方がショック。

 全てを理解した新女王は、自分の置かれた立場も理解すると、その過酷すぎるポジション――優秀でないとこなせない立ち位置に、思わず音を上げるのだった。


 はたして、そんなわっちゃわっちゃした状態で、クイズ大会は始まった。

 いや――。


「これクイズじゃない!! クイズだけれど、正解のない奴!! 面白いこと言った奴が勝ちな奴!!」


 大喜利が始まったのだった!!

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