第872話 どワンコ教授と第三の試練

【前回のあらすじ】


 ワンコ教授無事に第一ステージを突破。

 あまりにもニッチなシチュエーションで、その能力が思いがけず開花する。いつも後方待機で解説役、そんな彼女がこのようなアトラクションにおいて、無類の強さを発揮するタイプの獣人だと誰が思っただろうか。


 過去最高のラップでPharaoの第一ステージをクリアしたワンコ教授。

 得意満面、自分にだってこれくらいのことはできるのだという表情で、彼女は堂々と勝利宣言を果たしたのだった。


 とはいえ、まだ、Pharaoは始まったばかり。


 待ち受けるのは第二ステージ。

 透明の床や、大きな丸い岩石と、様々なトラップが待っている。

 果たして、これを突破して、ワンコ教授はファラオの下にたどり着けるのか。


「このインディアナ・ケティに不可能はないんだぞ!!」


「ハムナ○トラかインデ○ーか!! パロ元統一してください!!」


 超巨編ハリウッドアクション超大作みたいなノリですがここが大一番。

 ワンコ教授一世一代の大勝負が始まる――。


◇ ◇ ◇ ◇


「だぞ、歯ごたえのないアトラクションだったんだぞ」


「突破ァ!! もうなんかなんの撮り高も期待できないほど見事なまでにアトラクションを突破したァ!! おそろしい、おそろしいぞ、このちみっこワンコ!!」


「途中からなんていうかそういう最短クリア動画見ている感じでしたね」


「ガラス張りの床を突破し、移動する床を見事に飛び渡り、転がってくる大岩には飛び乗って避ける!! 霧が立ちこめるクッションバット乱打の道も、その軌道を完全に見切って無傷生還!! いったいどういうセンスをしているんだ!! 圧倒的!! 圧倒的な野生の勘で、挑戦者のお嬢ちゃんが第二ステージクリアだ!!」


「「「ケティ!! ケティ!! ケティ!!」」」


 沸き起こるケティコール。

 ファラオどこいったとばかりに、会場が挑戦者のワンコ教授の名を讃える。


 それに手を振って応えるワンコ教授。

 彼女はまた、第二の試練のタイムアタックレコードを大幅に更新して、あぶなげなくクリアして見せたのだった。


 なんという運動神経。

 このようなアトラクションアクティビティの中でのみという制約はあるが、ワンコ教授の身体能力は目を見張るものがあった。

 いや、それだけではない。

 彼女の動きには確かな花があった。

 見る人間を魅了する、独特のセンスがあった。


 撮れ高は確かに少ないかも知れない。

 しかしながら、そのワンプレーには人を魅了する不思議なすごみがある。

 それに、場内の男達もすっかりと魅了されてしまったのだ。


 そう――。


「もう完全にカリスマプレイヤーじゃないですか!!」


「だぞ!! この調子で、第三の試練も突破してみせるんだぞ!!」


 おぉと歓声を上げるオーディエンス達。

 もはや完全に、彼らは壇上のケティのファンである。

 Pharaoの舞台をすばしっこく、そして、アクロバティックに駆け回る、小さな獣人女子にぞっこんであった。


 むくつけき男達も所詮は男である。


 日々課される理不尽な労働。

 鍛えても鍛えても、一向に強くならないメンタル。

 許されない男社会からの脱落。


 そんな彼らにとって、その小さな身体一つで難関を突破していく少女の姿は希望の光に見えたのだ。いや、それだけではない。

 彼女が小動物的な愛らしい見た目をしているのも大きかった。


 そう、男はいつだって、格好つけたがり。

 可愛いモノが好きだとしても、決してそれを言葉にできない。

 そんなことを言ったら村八分にされてしまうからだ。


 けれども、今、大手を振って応援することができる可愛い生命体が、彼らの前に現れたのだ。


「やったれケティちゃん!! あともう少しだ!!」


「正直、あのファラオとかいう奴、いつもふんぞりかえって偉そうで嫌いだったんだよ!!」


「何がPharaoだくだらねえことしやがって!! そんなことしてたから王朝滅ぶんだよ、ヴァァァァアアアァァアカ!!」


 堰を切ったようにワンコ教授に裏切る。

 それはもう、ファラオの威光なんざ知ったこっちゃねえ。こちとら小動物と女の子の方が大好きなんじゃいと、マジな目をして声援を送っていた。


 おそろしいまでのカリスマ性である。


「いやぁ、これは大変なことになりましたね。まさか、ファラオに造反してまで、挑戦者を応援し出すとは」


「けれど私オシリ○も、あのケモケモお嬢ちゃんいいと思います!!」


「スポーティッシュケモ娘いいよね!! ワシら、半神半獣だから、ついつい感情移入しちゃうよね!! もう、ファラオ裏切るのやむかたなしだよね!!」


「やむかたなし!!」


「ついに実況まで裏切った!! すごい!! ケティさん、すごい!! けど、もうちょっとそのすごさを、なんていうか、普段から発揮してください!!」


 どうしてこんなニッチな場面でしか、その力を発揮できないのだろうか。

 そして、よりにもよってこんな形でしか使えないのだろうか。


 その時だ。

 嫌な予感に、新女王が蠍の王スコーピオン・キングの玉座を見た。

 するとそこには――明らかに怒気を頭にくゆらせているファラオが。


 これはまずい。


 そう思った時にはもう遅い。

 先ほど、突然にワンコ教授の前に現れたときと同じように、ファラオは一瞬にして玉座から姿を消すと、次のステージに挑もうとするワンコ教授の前に姿を現わす。


 射すくめるような高圧的な目がワンコ教授に降りかかる。

 白く塗りたくられた顔の眉間には青筋が走っている。

 もはや目の前の男が怒っているのは問うまでもない。


 自分の配下達の心を奪ったことが腹に据えかねたのか。

 それとも、何か他に理由があるのか。


 なんにしても、アトラクションアクティビティはこれまで――。


「くくっ、ここまで来たことを褒めてやろう!! しかし、もうこれ以上、我が宮殿にして我が叡智の砦、Pharaoを攻略させる訳にはいかない!!」


「だぞ!! なんだぞなんだぞ!! せっかくこっちが良い感じにテンション上がって来たっていうのに、酷いんだぞ!!」


「なに、最後はどうせこうなるのだ――どうせ早いか遅いかだけの話……」


 その時、蠍の王スコーピオン・キングの背後に怪しい影が映った。

 それこそは彼が背負いし妖怪。


 その巨躯、巌の如し。

 その爪、鋭き獅子の如し。

 その顔、面妖なる女の如し。


 はたして彼が取り憑かれた妖魔は――。


「我に取り憑く妖魔はスフィンクス!! ファラオの代々の陵墓を守る聖獣にして、人語を解する賢獣である!! このPharaoのステージも、全てはこのスフィンクスが、陵墓を守るために考案したもの!!」


「……な、なんだと!! それは知らなかったんだぞ!!」


「最後のアトラクションは、このスフィンクスの力を借りて行う――題して!!」


 ドキ☆エジプトに行きたいか、高校生ウルトラクイズ。


 その宣言が出た瞬間、ワンコ教授の目が光り、ファラオが渾身のどや顔をし。


「だから!! ネタの方向性をもうちょっと絞って!!」


 女エルフからツッコミ役を一時的に預かった、新女王が吠えていた。

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