第856話 ど魔性僧侶と悪魔曼荼羅

【前回のあらすじ】


 デビちゃん完全勝利。

 魔性少年の本体と長らく一緒にいたことにより、培われた天然の超能力バリア。

 それにより、超能力を無効化するようになった白き触手。


 襲い来る超能力の波を全て無効化して、その超能力をゲソでぶち壊す――【そゲぶ】していくデビちゃん。


 まさしく悪魔。

 とんでもないバランスブレーカーぶり。

 無双強キャラムーブで魔性僧侶を圧倒すると、彼女はふんすと鼻を鳴らした。


「ゲソゲソ!! これはこれで楽しいじゃなイカ!! はっはっはっ!!」


「そんな私の超能力が!!」


「……天才同士の戦いは、時に、残酷なまでにむなしい」


◇ ◇ ◇ ◇


 超能力を完全に封じられ、さらに天真爛漫なデビちゃんの無双ムーブに心までもへし折られたか。その場に膝を突いて、魔性僧侶は力なく天を仰いだ。

 その姿に同じ超能力使いである魔性少年も同情を禁じ得ない。


 長年培ってきた超能力がいとも容易く、そして、まるでなんでもないようにあしらわれたのだ。そのショックは筆舌に値するだろう。


 それでなくても、敗れたのがこの脳天気女ことデビちゃんである。


「はっはっはっ!! なんだかコウイチがピンチっぽいから駆けつけてみたけれど、たいしたことのない奴だったでゲソね!! まぁ、だいたい強キャラっぽい空気造って出てくる奴は、蓋を開けてみるとかませ犬だったりするでゲソ!!」


「……ちょっと、ちょっと、デビちゃん!!」


「これに懲りたら、二度と私たちの前で大口を叩かないことでゲソ!! なにせ私にはお前の力を完全に封じることができる【そゲぶ】があるでゲソからね!! どうやっても、超能力者のお前では、私に勝つことは出来ないでゲソ!!」


「もうちょっと手心を加えてあげてよ、デビちゃん!!」


 この自信満々の高圧ぶりが余計に敗北感を深めた。

 いったいどこからその自信というかセリフが出てくるのだろうか。


 たまたま、超能力に耐性があったからこそ勝てただけだというのに、そこまで増長できるのはなんなのか。


 なんにしても、デビちゃんは煽り能力が高かった。

 登場から勝利に至るまで、これでもかと煽り能力が高かった。

 無自覚・無邪気に、煽り能力がストップ高であった。


 ここまで煽る必要ありますと、思わず仲間の方が申し訳なくなってしまう。


 そんな中、ゆらりと魔性僧侶が再び立ち上がった。


 敗北を悟り、素直に魔性少年たちに道を譲る――という感じではない。


 その瞳には紅色をした水が迸っている。

 憤怒の表情で血涙を流し、魔性僧侶は奥歯をかみしめてデビちゃんを睨む。


 その鬼の形相に、おもわずデビちゃんがびびる。


「おのれ!! おのれおのれ!! 許さぬぞデビルフィッシュの娘よ!! 貴様のようなセイレーンの突然変異如きに、我が秘法を破られるなど末代までの恥!!」


「……ゲソ? お前、子孫いるんでゲソ? 僧侶じゃなイカ?」


「デビちゃん、そういう細かいところはいいから!! もうそのくらいに!!」


「確かに、我が秘法はここに完膚なきまでに敗れた!! だがしかし、お前達にはまだ見せていなかったな!! ここ、怪奇メフィス塔に籠もる○金闘士は、冥府神ゲルシーによって妖怪という魔なる存在を与えられたものなり!!」


 魔性少年、そして、デビちゃんに戦慄が走る。

 超能力対決に血道を開けていたばかりに、その重大な事実をすっかりと忘れていた。そう、彼ら○金闘士には、それぞれ妖怪が取り憑いている。


 彼らは自身の力と、その妖怪の力を掛け合わせて、塔へと挑む男騎士達パーティに相対してくるのだ。


 しかし、これまでの闘いにおいて、言われてみれば魔性僧侶がその力を発揮したことはなかった。


 そういえば、そんな設定あったなという顔をする魔性少年。

 そんな彼につられて、どういうことだゲソという顔をするデビちゃん。


 設定の抜け落ちに二人がおののいたその瞬間、魔性僧侶の背中に邪悪な人影が現れた。金彩の髑髏の形をし、様々な形をした宝剣を手にしたそれは魔性のモノ。

 しかも、とびきりに厄介かつ凶悪な空気を放つモノ。


 魔性少年の喉が鳴る。


 正体は分からないが、現人神の介添人たる魔性僧侶、彼に憑くほどである。彼とおそらくは対等、いや、それを上回るほどの妖怪と思えば、自然と肌が粟立った。


 まずい。

 これはまずい展開である。


「我が身に宿りしは第六天魔王と呼ばれしもの!! この世界の快楽愉悦をほしいままにし、人を堕落させる魔性にして化生!! さぁ、輪廻の理の先にある、魔なるモノの内なるささやきを聞くが良い!!」


「第六天魔王!!」


「なにそれじゃなイカ? 深海からの侵略者デビちゃんの方が怖いじゃなイカ?」


「デビちゃん、これ以上煽らないで!!」


「えぇい、さっきからきゃっきゃきゃっきゃと餓鬼みたいに騒ぎおって!! もう許さん!! 最大出力だ!! さぁ、色欲と堕落の果てに落ちるが良い――妙術快楽涅槃図!!」


 桃色の曼荼羅が宙に展開される。

 卑猥な顔をした悪魔達が、魔性少年とデビちゃんを取り囲む。


 なるほどフロアに入る時の扉の意匠や、仲間にかけられたASMRの術から、その本性についていろいろと察するべきだった。


 目の前の超能力者が操るのは色欲。

 かつてその色香で、男でありながらブッさんをたぶらかした魔性の男だ。


 そして、そんな男に、人の欲望を司る悪魔が憑けばどうなるか。


 めくるめくは、快楽溢れる桃園。

 一度迷い込めば二度と帰れぬ淫靡な伏魔殿。


 その入り口が今開かれた。


 逃げる余裕はない。


「死なばもろとも!! さぁ、共に悦楽の向こうに果てようぞ、ははっ!! ふははっ!! はーっはっはっは!!」


「くっ!! デビちゃん!! これは超能力ではなく妖怪の使う技!! 【そゲぶ】は通用しない!! ここは下がってください!! ここからは私が――」


 そう言って、前に出ようとした魔性少年。

 だが、そんな彼の心配は、ゲソゲソというデビちゃんの嘆息により、あえなく止められたのだった。


「ゲソー、なにが第六天魔王だゲソ!! さっきも言ったように、海からの侵略者デビちゃんの方が怖いでゲソ!! こうなったら、こっちも本気を見せてやろうじゃなイカ!!」


「……!? デビちゃん、まさか、君は!!」


 ゆらり、デビちゃんの身体から瘴気が漏れる。

 それはこれまで戦った○金闘士にも見られた――妖怪をその身に飼うものが持つ、独特のオーラに間違いなかった。


 どうやら、この闘い、まだ決着は分からない。

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