第855話 デビちゃんとそゲぶ

【前回のあらすじ】


 迫り来る魔性僧侶の摩訶不思議光の攻撃。

 しかしながら、それらは全て、デビちゃんの触手によって払われてしまった。


 どうして、あれだけ魔性少年を苦しめた超能力がデビちゃんには効かないのか。なぜ、平然と魔性僧侶の攻撃を食らって、ピンピンしていられるのか。


 その答えに、ついに魔性少年がたどり着いた。

 そう、分かってしまえば答えは簡単――。


「デビちゃん。どうやら貴方は、私の強すぎる超能力を常に浴びていたことにより、超能力を相克する力を手に入れていたようです」


 その名は、超能力殺し【そのゲソでぶっ壊す】。

 略して【そゲぶ】。


 久しぶりに、KAD○KAWAに喧嘩を売る、危険なパロディであった。


「って、うぉい!! まじでいきなりなんの脈絡もなく危険なパロぶっこむな!! これは流石に許されへんやろ!! 電撃の稼ぎ頭は弄ったらいかん!!」


 いや、けど、当時めっちゃ弄られてましたやん、イカデックスって。


「そうや!! けれども!!」


 ここでデビちゃんが出て来た時点で察して欲しいものです。

 まぁ、彼女が【そげぶ】を使う訳ではないのですがねぇ。


「そう思うならやるな!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 思いがけず明らかになった、デビちゃんの特異体質。


 彼女の身体――いや、彼女たちセイレーン科デビルフィッシュ目たちのは、長年による魔性少年の超能力への暴露により、それを中和するように進化していたのだ。


 具体的には、彼女が使っている白い触手。

 これが超能力を無効化する、悪魔の手となっていた。


 その名を――。


「ゲソ!! 【そのゲソでぶっ壊す】!! 略して【そゲぶ】でゲソよ!!」


 【そゲぶ】。

 即興でつけたにしても、いろんな方面に顰蹙を買うその必殺技名であった。

 ただ、意外にもつけられた本人は気に入っているようであった。


 もっとも――そんな特異体質で、あっさりと超能力を相克された魔性僧侶には、たまったものではなかったが。


 青筋が幾条も魔性僧侶の頭に走る。

 それまで、余裕と仄かな微笑に満ちていた彼の顔が崩壊して怒りに狂う。

 血走った目と共に確かな殺意をデビちゃんに向けて彼は叫んだ。


「ふざけるな!! 我が天上天下あまねく大地を引き裂く必殺の神通力を、貴様のようなふざけたギャグキャラクターが壊すだと!! 冗談も大概にしろ!!」


「ゲソゲソ!! 実際、さっきからお前の攻撃は、私に少しも当たっていないじゃなイカ!! もう既に攻撃は破ってしまったと言って過言ではないゲソ!! 私の【そゲぶ】の前に、お前の超能力は息してないじゃないか!!」


「黙れ!! 黙れ黙れ!! まだだ、私の超能力はこんなものではないのだ!!」


 怒れる魔性僧侶。

 その身体から、凄まじい負のオーラが溢れかえる。

 虹色だったその闘気は、いつしか憤怒の赤色に染まり上がり、灼熱の炎のように揺らめいていた。


 紅色の光が世界を切り裂いて走る。

 それはこれまでの光の束のように指向性を持たず、波間に漂う藻のようにたゆたうと、突如として一斉にデビちゃんへと襲いかかった。


 迫り来る、超能力の波動。


「喰らうが良い!! これなるはこの世いっさいの不浄を流す河、その流れをあえて決壊させて不浄でこの世を満たす邪法なり!! 秘技!! 尼蓮禅大決壊!!」


 赤いうねりは波となり、押し寄せる壁となり、まるでのたうち回る大蛇あるいは龍の如くである。その強烈な力の渦は、フロアを砕き、空気を腐敗させ、触れるもの全てをむしばんで、目前のデビちゃんへと疾走していく。


 危ないと魔性少年が叫ぶ。


 同じ力の使い手だからこそわかるその凶悪さ。

 そして凶暴さ。


 まともに正面から、それを受けようものならば、彼の身体はその圧倒的なエネルギーに打ち負けて、爆発四散までにはならなくとも、身体の内に巡っている神経の回路を断絶されて、動けぬことになるだろう。

 それほどの、猛毒秘めた魔力の帯。


 避けるべし。本能がそう訴えかける中――。


「ゲソ。芸が無いでゲソねぇ。もっと優雅な技を使った方がいいんじゃなイカ?」


 デビちゃんは、それを手一本ではねのける。

 まるで、熱風を仰いではらうように、ひょいとその赤い奔流をはねのけると彼女は、何やってるでゲソという感じで触手を振った。


 鎧袖一触とはまさにこのこと。

 圧倒的な能力――【そゲぶ】の前に、もはや超能力は優位性を完全に失った。


 しかし、だがしかし認めることはできない。

 そんな簡単に、自らの頼りとする技を封じられたことを、魔性僧侶も認めることなどできはしないのだ。


 怒りの咆哮と共に、彼は再び、紅色の超能力を身体から発する。


 幾重にも積み重なって走る魔力の帯。

 魔術が踊る処女宮の中。


 内装全てを破壊尽くすように暴れ狂う力の波を眺めながら、ふりふりと触手を動かしたデビちゃんは、ちょっと不敵に笑うと、その手で顔を隠した。


 一同に、戦慄が走る。

 そのポーズは、そう、テンプレ必殺の構え。


 これから無双する際に、やらなくちゃいけないお約束。

 ヒーロの変身バンクと同じく、決めなくちゃいけないやつ。

 【そゲぶ】をする時に必要な奴。


「いいでゲソ!! お前があくまで超能力で向かってくるというのなら!!」


「いや、待て待て!! 待って!! ちょっと待って!! それ、セリフ的にやったら行けない奴!!」


「KAD○KAWAのプラットフォームでも許されないことがあるぞ!!」


「そのふざけた超能力をまずはゲソでぶっ壊すでゲソ!!」


「「ちゃんと言えてない!!」」


 うりゃうりゃうりゃうりゃと、ゲソを繰り出すデビちゃん。

 白い千手が魔術の波を切り裂いて、瞬く間にそれを灰燼へと変えていく。


 あまりの早業。

 目にもとまらないその所業。


 そして、まったく苦しさを感じさせない、ニコニコスマイル。


「ゲソゲソ!! これはこれで楽しいじゃなイカ!! はっはっはっ!!」


「そんな私の超能力が!!」


「……天才同士の戦いは、時に、残酷なまでにむなしい」


 ゲソゲソ、一気に決めるゲソーという声と共に、赤い瘴気が霧散する。

 デビちゃん、魔性僧侶の攻撃を全てはねのけると、彼女は腕を組んでふんすと鼻を鳴らした。


 もはや言うまでもない。

 デビちゃんの完全勝利であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る