第853話 ど魔性少年と思わぬ助っ人

【前回のあらすじ】


 魔性少年、危うし!!

 同じ超能力者ではあるが、魔性少年よりも魔性僧侶の方が一枚上手。より、強力な超能力を使う、そんな手練れであった!!


 超能力もまた技の一つ。

 一族、門派、個人で積み上げた経験こそが、その力の源泉である。

 しかし、時に一人の天才というのは、一族がその命脈を持って紡いできた技術を、軽々しく覆すようなことを起こす。


 魔性少年の一族が百年の恩讐の果てに編んだ技を、たった一代で成し遂げた魔性僧侶。嗜虐心を一切隠さず、その毒牙が魔性少年を翻弄する。


「十字磔葬!!」


「天上天下!!」


「喰らえ、万華鏡薔薇曼荼羅!!」


「ぐっ、ぐぁあああああっ!!」


 数々のセクハラ超能力の暴威の前についに膝を突きそうになる魔性少年。

 そんな彼を、謎の影が突然割り込み救ったのだった。


 果たして、彼を救ったのはいったい誰なのか――。


◇ ◇ ◇ ◇


 時を遡って。


 魔性少年と魔性僧侶が戦うより少し前。

 壁の魔法騎士がぎりぎりで荒獅子を倒した頃。

 そして、男騎士と女エルフが、壁の魔法騎士のいる獅子宮に入るちょっと前。


 一つの影が、獅子宮を駆け抜けていた。


 使命感。その影は、使命感からこれまでの階層を、誰の目にとまることもなく疾風の如き足並みで駆け上ってきていた。


 男騎士達が談笑する横を通り過ぎ、あるでばらんの横を素通りし、後片付けするペニ○・サイズを尻目にフロアを突破し、カニざんまいな巨蟹宮を目もくれずに駆け抜けて、それはやって来た。


 そう、魔性少年を助けねばならぬ。


 なぜならば、その影にとって魔性少年は、決して失ってはならない大切な存在だったからだ。


 彼なくして、その影はこの世界で生きていくことはできない。

 自分にとってかけがえのない存在のために、それは全力疾走して怪奇メフィス塔を疾駆した。


 はたして、その思いは届いた。


 魔性少年に、魔性僧侶の必殺の技が炸裂するかと思われたその時、その間に割り込んで、影は魔性少年を危地から救ってみせたのだった。


 貴方は、と、魔性少年の顔が驚きに満ちる。

 その腕に抱かれながら、彼の顔に満ちていた緊張の糸がほどけていく。

 魔性少年はその逞しい姿に、ここで自分が戦わねばならぬという気負いをしばし忘れて、静かに抱かれていた。


 彼を救ったのは一体誰か。

 魔性少年の命の危機に、居ても立っても居られずに駆けつけたのは誰か。


 それは、彼を深く思う者。

 彼のためならば、その身を投げ出すことも叶わぬ者。

 家族のように彼のことを思っている、そんな人間。


 そう――。


「やめるでゲソ!! コウイチは呂09の大切なコアなんだから破壊されたら動かなくなっちゃうゲソ!! 我らが移動要塞、マーメイド族イカ科のためにも、これ以上のコウイチへの狼藉は見過ごせないじゃなイカ!!」


「で、デビちゃん!!」


 デビルフィッシュ娘ことデビちゃんであった。


 魔性少年は彼女たちが暮らす潜水艦の大切なコア。

 そんな彼の身に、もし、何かあったら大変である。デビちゃんたちが暮らす、水上の楽園は失われることになる。

 そりゃ心配になって彼のピンチに駆けつけるのもやむなしというもの。

 そして、割り込んでしまうのもやむなしというもの。


 それでなくてもデビちゃん――。


「というかでゲソ!! 満を持して出て来たキャラクターなのに、ここまでまったく出番なしで、空気な感じはイカがなものじゃなイカ!! せっかく、版権的にきわどいところを突いてきたというのに、出オチみたいな扱い酷いじゃなイカ!!」


「いや、怒るところ、そこ?」


「そうでゲソ!! せっかく登場したからには、私も活躍したいじゃなイカ!!」


 という訳で、と、デビちゃん。

 その八つからなる触手をうねらせて、構えを取る。


 その姿はまるで大きな翼を広げた鳳の如く。

 これは、と、眼前に控えている魔性僧侶も思わず尻ごんだ。


 尻の穴をすぼめて絶句した。


「ゲソ!! ただのマスコットキャラクター、かわいいだけの癒やし系イカ少女だと思ってくれたら間違いでゲソ!! このデビちゃん、悪魔と人間社会で恐れられしイカ系セイレーンならば、それなりには戦えるでゲソよ!!」


「ほう、セイレーン如きが、私にたてつきますか。まぁ、それもいいでしょう」


「いい気になるのもそれまでじゃなイカ!! とりあえず、デビルフィッシュ幻魔拳の輝きを見るがいいじゃなイカ!! 我が八本足は幻夢の如しでゲソ!! はたして捉えることができるかでゲソ!!」


 とりゃぁ、と、八本の触手が矢継ぎ早に繰り出される。

 その全てに向かって、魔性少年の身体を貫いた魔の閃光が再び走る。


 しかし、鋭きその光は触手に触れるやいなや。


 ――つるり!!


「なっ、なにぃっ!!」


「デビちゃんの触手に当たって、超能力の光が曲がった!?」


「隙ありでゲソ!! くらえ、タコタコイカ百烈パンチじゃなイカ!!」


 驚きのあまりにまともにデビちゃんの攻撃を正面から食らうマカ・ラマ。

 大きく吹き飛ばされた彼は、その強かに叩かれた脇腹を押さえながら、これはいったいどういうことだと目の前のデビルフィッシュ娘を睨み付けるのだった。


 魔性少年、魔性僧侶が操る超能力。

 それがどうして無効化されたのか。


 というか、なんでこんなギャグマンガに出て来そうな少女が、ガチ目のバトルマンガに出て来そうな、濃い必殺技をぶら下げたキャラを圧倒するのか。


「ゲソゲソゲソ!! 言うほどたいしたことないではなイカ!!」


 はたして、この闘い、これからどうなるというのか。

 処女宮にかつてない緊張が走る中、一人デビちゃんだけが、仁王立ちで高笑いを響かせるのだった。

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