第852話 ど魔性少年とめくるめく必殺技

【前回のあらすじ】


 怪奇メフィス塔!! 第六の試練の間こと処女宮に待ち構えていたのは、東の島国の一大宗教ホーホケ教の大僧侶にして魔性僧侶マカ・ラマであった。


 彼が扱うのは、魔術・呪術でもなく超能力。

 かつてその師を誘惑した、魔性の技を発動させると、瞬く間に法王ポープ達を気楽の夢へと落とした魔性僧侶。

 おそるべきかな、それは本当に息も吐かせぬ一瞬の出来事であった。

 まさに英雄。その溢れんばかりの力を見せつける魔性僧侶。


 しかし、こちらにも同じく超能力を使う者がいる。


 魔性少年。

 ミッテルの使徒にして、超能力を授けられた呪われ師一族その始祖は、かつてバビブの塔で見せたように、一糸纏わぬ姿になって超能力の伝導率を高めると、目の前に居る超人に挑むのであった。


 はたして勝つのは神の使徒か。

 それとも、魔性の新たな神か。


 ぶつかり合う超能力の奔流。そのせめぎ合いは――。


「ふっ、ミッテルの使徒と言っても所詮はこの程度か」


 新たな神、魔性僧侶の方に、まずは有利に傾いたようだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「……ほう、これも耐えますか」


 再び煌めいた流星の奔流。

 まさしく光の矢とはその速度も。


 人間の感覚器では知覚することの出来ない、鋭きエネルギーの流れ弾。

 それは、魔性少年が展開する、超能力の壁を易々と貫き打ち砕いて、彼の身体へと襲いかかった。


 バリアではそれを防ぐことは出来ない。

 初撃を喰らったその瞬間から、魔性少年はそれを理解していた。しからば、これを防ぐにどうすればいいか。


 超能力の技については使えるものしか使えない。

 剣技や魔術もそうであるように、体系だって伝授される技術に超能力も分類される。必然、初めてみる魔性僧侶の技に、反応できないのは仕方が無いことである。

 しかしながら、魔性少年は神に祝福されてこの世に生み出された超能力少年。


 天稟を持った少年であった。


「……侮るなよ。数千年遅れの超能力など、一目見ればその術理は分かる」


「我が光の矢をそっくりそのまま真似て見せて、さらには確実にそれを合わせて相殺する技量は見事と言えよう。やるな、当代の超能力使い」


「たった一代で技を極めた訳ではない。幾重に代を重ねて積み上げてきた歴史がこちらにはある。数百年にわたる因子の一族の妄執を、鉄の巨人を滅ぼすための力の粋を甘く見てくれるな」


 立ち上がる魔性少年。

 鮮血に濡れた手足は、いつの間にかその異能によって塞がれていた。

 目の前の同じく魔性操る僧侶に向けて、猛々しい視線を向ければ、彼は叫ぶ。


「我が妙技、我が一族の秘技、喰らえ、時流砂嵐!!」


 空間が煌めく。

 虹色の流砂が暗黒の帳を降ろした処女宮の中に突如として満ちたかと思えば、そこからまさかの千変万化の大渦と化す。

 極彩のエネルギーの奔流は、空気と共に魔性僧侶の操るエネルギーを打ち砕いて、その影に迫った。


 触れれば粉みじん。

 ひとたまりも無いであろう。


 かつて、彼が一個人――コウイチという一族の末であった時よりも、その技能は磨かれていた。再び、神が造りたもうた船の中に戻り、神代の身体を取り戻した魔性少年は、連綿と培った超能力という異能を、再編してここに一段昇華した。


 しかし。

 それでも。


「なんとも雑な攻撃。その程度の攻撃で、粋がるとは百年早いぞ、小僧!!」


「なに!!」


「この程度、とうの千年前に私は通過済み――喰らうがいい!! 輪廻転性!!」


「ぐっ、ぐぁあああっ!!」


 真なる天才の前には、人の積み重ねてきた歴史さえも無価値である。

 輪廻転性として魔性僧侶が編み出した技は、まさしく魔性少年が生み出した者と同じ。光の砂嵐が、さらに強大なうねりを伴って、向かい来る超能力の渦を呑み込むと、そのまま魔性少年の身体を大きく宙に舞いあげた。


 これが秀才と天才の差。

 積み重ねた技と天与の才能。

 しかし、さらにそれを上回って、自ら新たな世界を切り開くことが出来てこそ真の天才である。


 魔性少年と魔性僧侶。

 その間には、人の域を超えてなお、さらに大きな隔たりがあった。


 なにより。


「どうした小僧。私はまだ、僧衣を脱いでいないぞ!!」


「……くっ!!」


「貴様如きを相手に脱ぐまでもない。この私が僧衣を脱ぐときは、即ち、真に私を凌駕しうる強敵と相対した時。貴様如きこわっぱでは相手にならぬわ!!」


 まだ、魔性僧侶はその身に服を着たままであった。

 超能力の出力が、彼らの露出度によって向上するのは周知の事実である。そう、彼はまだ、僧衣を身につけたままで、魔性少年を圧倒しているのだ。


 これが、本物。

 これが、真の天才。

 圧倒的な力量差を前に、魔性少年の目がかすむ。


 もはや覆そうにも覆すことができない、圧倒的な力を見せつけられて、彼の心が揺らいでいた。


 だが、負ける訳には行かない。

 ここで負けてしまっては、男騎士達の大切な仲間である、女修道士シスターの命は永遠に冥府に囚われてしまうのだ。


 歯を食いしばれ。

 嵐の奔流に耐えて魔性少年、もう一度彼は意識を集中すると、次の一手を繰り出そうと、連綿として一族で編み上げてきた超能力をひもといた。


 しかし――。


「後学のために我が秘奥の一端を披露してやろう、新しき時代の超能力者よ。この程度は児戯。さぁ、超能力の深淵とはこのようなものを言うのだ」


「なっ、そんな!!」


「十字磔葬!!」


 突如、魔性少年の足下から光の柱が立ち上がり、彼の身体を拘束する。

 光の柱は突然にほどけて帯になったかと思えば、魔性少年の身体に巻き付いて、その身体を戒める。


 まるで万力で締め付けられたかのような強烈な痛みに、魔性少年の脊髄に電撃が走った。だが、その肺腑は、光の帯により締め付けられて寸毫も動かない。


 邪悪な魔性僧侶の微笑みは止まらない。


「まだだ!! 天上天下!!」


 光の帯がほどけた。

 かと思えばそれは強力な拘束具になって魔性少年の手と足を戒める。

 その手首足首をきつく締まった光の帯は、そのまま彼の身体を折り曲げるようにくっつくと、その身体を強制的にブリッジさせる。


 喰らうが言いとさらに魔性僧侶が光を放つ。

 その帯は、魔性少年の敏感な部分にまとわりつくと、まるで銀色のアクセサリーのようにそのデリケートな部分を締め上げた。


 天に向かって、独尊を叫ぶようにそそり立つ魔性少年の魔性。


「なっ、こんな!! こんな辱め!!」


「ふはは、無様なオブジェだな!! なすがままではないか!! よし、トドメだ!!」


「くっ、まだだ、まだ、やれる――」


「いいや終わりだ!! 喰らえ、万華鏡薔薇曼荼羅!!」


「ぐっ、ぐぁあああああっ!!」


 めくるめくバラ色の曼荼羅。

 濃い、いい顔をした古今東西の男達が、曼荼羅を組んで魔性少年の背後に迫る。


 すわ、貞操の危機か。

 魔性の少年の尻に向かって、怪しい視線が飛び交ったその時だ。


「なにっ!!」


 何物かが、魔性少年と魔性僧侶の間に割り込んだ。

 そして、迫り来る惨劇から彼を救ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る