第851話 ど魔性僧侶とど魔性少年
【前回のあらすじ】
観音開きに処女宮のマーク。
Mの形が色鮮やか。
その間を、丁度割って走る扉の中央線。
それは伏魔殿への入り口。
そう、もはや、入る前からセクハラ炸裂。
この中で待ち構えているのは、間違いなく
はたして待ち構えていたのは、長い黒髪をした絶世の美形。
男なのか、女なのか、魔性少年をも凌駕する謎の美貌を備えたそれは――。
「我こそはこの処女宮の守護神にして、万物万里性別種族を超越せし存在。魔性僧侶マカ・ラマである」
「「「「魔性僧侶マカ・ラマ!?」」」」
荒獅子に引き続いての強キャラ感漂う○金闘士。
そして、超越者であった。
◇ ◇ ◇ ◇
【人物 魔性僧侶マカ・ラマ: 東の島国に伝来したホーホケ教の中に出てくる魔性僧侶。ホーホケ教の開祖であるブッさんに、男なのか女なのか、男の子でもこれだけ美人ならばもう別にそれはそれでいいのではないかと悩ませ、悶々とさせたという逸話のある怪僧である。しかしながら、やっぱり僕女の子がいいやと開き直ったブッさんが、賢者の時に目覚めたのを期に彼に弟子入り。以後、敬虔なホーホケ教の教徒として振る舞いつつ邪教も広めたという、まぁ、いろいろヤバい感じの僧侶である】
「また、僧侶界のビックネームが出て来ましたね!!」
「だぞ!! 東の島国の有名人なんだぞ!! 彼が師と共に伝えたホーホケ教と、彼を開祖と崇めている邪教勃皮珍言流も、東の国では教会を凌ぐ影響力を持った一大宗教なんだぞ!!」
「そんな、宗教の開祖が出てくるだなんて――!!」
驚きの声を浴びながらも、その所作はあくまで涼やか。
まるで風に柳とばかりに
ふと、魔性僧侶が目を閉じる。
するとどうだろう。
彼の背後に展開していた闇がきらめいたかと思えば、無限の瞬きとなって、法王たちに襲いかかった。
それは刹那の輝き。
けれども、人を狂気へと落とし込む、狂乱の光。
怪しきその輝きに魅入られた者達は、その場にばたりと倒れたのだった。
「我が勃皮珍言流は、我が師であるブッさんを惑わすために極めし魔性の業。三千世界、ありとあらゆる快楽の波動を持ってして、人の脳髄を溶かす究極の快楽責め。またの名を――ASMR(アブラカタブラ・サディスティック・マゾスティック・ロマンチカ)!!」
【超能力 ASMR: 催眠効果のある特殊な呪禁により、精神破壊を行う特殊技術である。魔法ではなく、その術理は科学的技術により構築されており、技を会得することは比較的容易だ。その開祖は、魔性僧侶マカ・ラマと呼ばれており、彼はこれにより師のブッさんを、さんざんにおちょくったと言われている】
東の島国の宗教の開祖。
それを堕落寸前まで追い詰めた魔技が炸裂する。
精神抵抗値の高い
精神抵抗の通じるものではない。
それでなくても、自分たちの流派とまったく異なる宗教が扱う術。
その魅惑の三千世界に魅入られてしまうのは仕方なかった。
彼女たちの口から漏れ出るのは、幸せな夢の片鱗。
「あっ、あっ、皆、私より貧乳!! お姉さまも、アンナさんも、エリザベートさまも、私よりおっぱいが小さい!! 私のおっぱいが世界で一番大きい!!」
「そんな!! イケメンのお姉様に、眼鏡のインテリお姉様、ワイルドお姉様に、私なんてとやさぐれた陰キャお姉様!! いろんなお姉様がいっぱい!!」
「だぞー!! こっちにはあの失われた遺跡の資料が!! こっちには、長年存在が疑問視されてきた、密林の部族に関する重要な証拠が!! すごいんだぞ!! 大発見なんだぞ!! 歴史の定説が覆るんだぞ!!」
「……ふふっ、どうやら、自らの欲望の渦に呑み込まれてしまったようですね。仕方ありません。かつてブッさんと、長きに渡り語り合い、そして、彼を堕落せしめた我が魔技の前に、普通の人間があらがえるはずがないのです――」
「……えぇ、普通の人間ならばね」
ゆっくりと、魔性僧侶の目が開かれる。
ほう、この技に耐えるとはという感じにその視線が向けられたのは、唯一魔性の輝きの中に囚われなかった人物。
魔性僧侶の甘露のささやきを、同じく、超能力で生み出した音波により完全相殺し、その脳内を破壊されるのを防いだ男。
魔性少年であった。
彼は、こうなったら丁度良いとばかりに、おもむろにその服を脱ぎ散らかすと、股間を超能力で発光させて、隠す構えを見せた。
そう、脱げば脱ぐほど超能力が高まる。
臨戦状態。
魔性少年は、魔性僧侶を前にして、この男と戦うことができるのは、自分を置いて他にないと確信していた。
そんな彼に、穏やかな微笑みを向ける魔性僧侶。
「なるほど、君もまた私と同じく超能力を使うのか。神と対話し、時空を越えて、人をより高次へと導く役目を持った、異能の者ということか」
「自分のことをそんな風に思ったことはないけれど、けど、ここで貴方に対抗できるのは僕しかいないようだ。だったら、何も躊躇することはない。さぁ、神より授けられた我が力、脱げば脱ぐほど強くなる――因子の血族の力を思い知れ!!」
極彩が再び空間を切り裂く。
かつて、バビブと対峙したときと同じように、幾重もの超能力の層が虚空に現れて、干渉して虹の光を放つ。
ここに強力な超能力がぶつかり合い、その力を瞬かせた。
しかし――。
「ふっ、ミッテルの使徒と言っても所詮はこの程度か」
「……なんだと?」
「我が師、ブッさんが見せた三千世界の広がりに比べれば、お前の攻撃など児戯というもの。どうやらまだ、貴様は超能力の深淵を理解していないようだ」
激しくぶつかり合う、超能力と超能力。
その波濤が押し寄せる中にあって、魔性僧侶は怪しく笑う。
不敵に笑って、彼はそのたおやかな指先をあげれば、そこに虹色の華が咲く。妖艶な笑みと共に、それを魔性少年に向けると、魔性の僧侶がその指先を弾いた。
途端、世界はいっそう輝きを増して、あらがえない光の奔流が、矢の如く魔性少年の身体へと降り注いだ。
その身体を打ち貫くは星の如き瞬き。
超濃縮された光の矢。
四肢を穿たれ、鮮血にまみれた魔性少年。
しかし、彼は唇を食いしばって、その痛みに耐えると、自らを上回る異能の使い手をにらみ返してみせたのだった。
「ほう、これを耐えますか。なかなか、根性だけはあるようです」
「くっ……舐め、るなよ」
「しかし、力の差は歴然というもの。妙な意地を張るべきではないと思うがね」
その言葉と共に、第二波となる光の奔流が魔性少年に降り注いだ。
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