第843話 壁の魔法騎士と偽乳試験
【前回のあらすじ】
荒獅子アリオスから語られる『お嬢様のおっぱいもりもりパッド判明、ど貧乳だよ全員口封じ事件』についての話。捕らえられた男騎士と荒獅子は、そこで、目隠しされたままおっぱいと思われる何かをおしつけられるという、男としては生殺し生き地獄にして天国のような拷問を受けることになったのだった。
なんという
しかし、そんな彼の脳裏に、突然に天啓が舞い降りる。
かつては騎士団きっての律儀者。
バカではあったがエロバカには遠かった男騎士。
そんな彼が、どうして今のようにオープンスケベのおっぱい野郎になってしまったのか。
元からおっぱいが好きだったのはそうかもしれないが、ここまで酷くなることはなかった。今でこそ、どエルフというパートナーを得て、スケベであることを隠さなくなった彼ではあるが、昔はそんなことはなかった。
今の男騎士と昔の男騎士。それを繋ぐ間に、この男は存在している。
そう確信した壁の魔法騎士。
ならば、そんな男に怒りを感じない方がどうかしている。
よくもと拳を握りしめた彼の思いは――。
「大変な目に遭った。お前が唯一習得している魔法――カッチンカッチンを使って股間を石に変えていなければ、俺たちはあのおっぱい地獄に屈していただろう」
「あいつ!! 俺が教えた魔法を何に使ってるんだ!!」
自分が教えた魔法でその悶絶地獄を切り抜けたという情報に、すぐ蒸発した。
◇ ◇ ◇ ◇
「……あいつ?」
「しまった!!」
荒獅子への怒りが男騎士へと転じた瞬間、ついつい声を荒げてしまった壁の魔法騎士。彼は慌てて口元を押さえたが、もはや飛び出してしまった言葉を口に戻すことも、なかったことにすることも叶わなかった。
どう誤魔化す、いや、もうその段階ではない。
相変わらずこちらを振り返るそぶりすら見せない荒獅子。彼はその背中に再び闘気を乗せると壁の魔法騎士に尋常ではないプレッシャーを向けた。
リーナス自由騎士団を率いるという大役を担っている男である。
そんな男でなかったならば、この威圧だけできっと狼狽えていただろう。
なんとかそこは壁の魔法騎士、ひと踏ん張りして堪えて見せた。
とはいえ、危機的状況には変わりなかった。
「……どうしたティト!! 貴様、まるで自分のことなのに他人事のように喋るではないか!! お前、まさか俺とのあの地獄の日々を忘れたとは言うまいな!!」
「……いや、すまない、ちょっと気が動転してしまって」
「……まぁ、そうか!! 確かに、こうして再会したのも奇跡と言っていい!! もはや、私が死んでしまった後となっては、お前と私が再会することなどありえない話なのだからな!! そんな異常事態に気が動転するのは仕方ない!!」
しかし、と、荒獅子の背中の闘気が荒ぶる。
これはあきらかな怒気。もはや完全に、壁の魔法騎士が男騎士を語っていること――彼がニセモノだということがバレていると見てよかった。
その上で、まだ荒獅子は壁の魔法騎士を見ない。
何やら彼にも考えがあるようだった。
今は――その考えに乗るしかない。
まだ、相手について分かったことは、男騎士と過去に旅した冒険者だということだけ。そして、うらやましいんだか怖いんだかよく分からない、スケベな目に遭ったことだけである。
バレているのを承知で、壁の魔法騎士――。
「あぁ、その通りだ!! すまないアリオス!!」
正面から荒獅子に挑みかかる。
気迫を眼光で押し返す。
サングラスの下に光る獣のような鋭き眼光でもって、彼は男騎士の元相棒を睨めつけると、不退転の意思をそこにぶつけたのだった。
くく、と、押し殺したような笑いがフロアの中に満ちる。
「しかし、いつまでも気が動転していては困るな!! ここはひとつ、再会を祝しこの塔に挑むお前を景気づける意味も込めて、一手指南してやろう!!」
「……ほう、それはありがたい。そろそろ、本題に入らねばならないだろうと、こちらも思っていたところだ」
仕掛けてくるか、と、壁の魔法騎士が気を張ったその時である。
「なにっ!?」
いったい何がどうなったのか。
数間離れている壁の魔法騎士の身体を、突然衝撃派が襲った。
しかも、それはただの衝撃波ではない――。
その絶妙な質量を感じさせつつ、痛くもなければ重たくもなく、ほどよく柔らかくて軽やかな感じがするそれは、そう――風圧により作り出された柔らかな感触。
俗に、時速80キロくらいで走っていると、感じることができるという感覚。
「どうだ!! 俺の遠当ては柔らかかろう!! おっぱい拳で目が覚めたか!!」
「……おっぱい拳だと!? 確かにこの感触は、おっぱいそのもの!! しかし!!」
「知らぬとみるとやはりティトではないか!! 謀ってくれたな!! しかし、みすみすと騙された俺が阿呆なだけ――ならばそれはそれでよし!!」
もはや完全に男騎士でないことはバレた。
隠しようのなくなった壁の魔法騎士を前に、荒獅子が背中に闘気を漲らせる。
その背中の闘気の炎と共に、揺れるのは三つの獣の影。
鋭き鎌のような手を持ったその獣たちは、怪しく壁の魔法騎士を睨み付けて、その手の刃を光らせた。
どうやら、情報戦はここまでのようである。
「誰や知らぬが、我こそは荒獅子のアリオス!! かつて、獅子覇王拳を極めし武道家にして、死して新たに冥府神ゲルシーより力を授かった!! 操るは、風を手繰る三匹の魔獣かまいたち!! さぁ、我が武闘と風の生み出す奔流に耐えられるかな、ティトを語りし不埒者よ!!」
「バレてしまっては仕方ない――我こそは壁の魔法騎士、ゼクスタント!! 騎士ティトの盟友にして幼馴染み、義兄にしてリーナス自由騎士団を預かりし者!!」
風と礫がフロアに舞う。
果たして、妖術を操る武闘家と、魔法を操る騎士の闘いがここに幕を上げた。
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