第840話 ど荒獅子さんと偽男騎士
【前回のあらすじ】
精霊の加護の魔法は別にエルフの体液さえあればなんでもよかった。
血液やお○っこと比べると効果は劣るけれどとフレンチキスにより男騎士達の装備を強化していく女エルフの祖母。
効果は一時的なものになってしまうが、それでも、ないよりはマシだった。
軽くなった装備品を身につけて、これはいいやと喜ぶ男騎士。
そんな彼の隣を抜けて、ちょっとおばあさまとその秘術を習いに行く女エルフ。
はたして長くかかったこのトンチキも一段落かと思いきや、魔剣エロスが呟く。
そう、彼の身体は、今はエルフソード。
エルフが鍛えし、エルフの剣。
「エルフの血により鍛えたエルフソード、とか、確か受け取ったときには説明されたんだよ。多くのエルフの血を吸って、魔力を得た魔性の剣って」
その言葉を聞くや、腰から魔剣を引き剥がして、放り投げる男騎士。
まだ決まってないだろうと叫ぶ魔剣だったが――その反応は仕方なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
さて。
男騎士たちがぽややんと、女エルフの祖母とあれや和気藹々とした話を繰り広げているその上で。壁の魔法騎士達は、男騎士と因縁ある謎の○金闘士アリオス相手に、思いもよらない苦戦を強いられていた。
「……む、無理だよ、アリオス。俺に、お前は、倒せない、よー」
壁の魔法騎士、渾身の男騎士の声まね。
しかしながら生き方も違えばそもそも普段のしゃべり方からして違う壁の魔法騎士に男騎士のものまねができるはずもない。それは絶妙に似ていなかった。
もうなんというか、口調から声色まで、壊滅的に男騎士ではなかった。
これは、もしや、バレる奴では。
壁の魔法騎士達に戦慄が走る。
しかし――。
「ど、どうしたんだティト!! おまえ、そんな声を出して!! 風邪か!! 風邪をひいてしまったのか!! 声がガラガラではないか!!」
「……えっ、えぇっ!?」
思いがけない切り返しを荒獅子は返してきた。
相変わらず壁の魔法騎士達に背中を向けたままだが、なんだかその声色を心配するようなことを言い出したのだ。
まさか、そんな、心配して貰えるなんてと壁の魔法騎士達に妙な沈黙が走る。
男騎士の交友関係についてさっぱりと関与していない彼女たちは、目の前に現れた彼と因縁のある男――荒獅子の正体についてよく知らない。よく知らないから、まさかそんな、お互いの体調を心配し合うような仲だったのかと言葉を失った。
しばし、沈黙の後。
「……げほ、げほげほ。そうなんだ、ちょっと、調子が悪くて」
「バカな!! バカは風邪を引かないはずなのに!! 大丈夫か、ティト!! まさかお前、バカじゃなくなったというのか、ティト!!」
「……大丈夫だよ、バカのままだよ」
「よかったぞティト、そうでなくては!! お前はバカでなくてはな!! ふははは!!」
壁の魔法騎士、このまま風邪の男騎士ということで乗り切ることにした。
勘違いされたのをいいことにそのまま男騎士で通すことにした。
前情報がなさ過ぎるのだ。
この目の前の男と闘うに当たって、前情報があまりになさすぎるのだ。
男騎士と因縁ある相手だというのは分かっている。
だが、どういう因縁なのか、どういう過去が二人の間にあったのか。
さっぱりこれまでの会話から分からない。
あるいはそれが分かれば、この見るからに肉体言語系、強キャラ感が漂ってくる相手につけいる隙があるかもしれない。
そこはリーナス自由騎士団の暗部を司り、暗躍をしてきた壁の魔法騎士。
敵を知れば百戦あやうからず。まずはこの目の前の男と、男騎士の関係を洗い出し、そこから攻める切り口を探そう。
風邪を引いているのだと勘違いされた。
それをいいことに、そんな算段を彼は即座に立てた。
法王も、ワンコ教授も、新女王も、魔性少年も。
何も言わずにそれに従う。
ここは、壁の魔法騎士に任せるしかなかった。
「どうだろうか、俺とお前の因縁の対決。ここは俺たち以外のものについては、引き払ってもらうというのは」
「ふっ、ティト、なるほど久しぶりの正面切っての対決に、余人が水を差すのは避けたいという訳だな!! いいだろう!! 風邪はひいているが、戦士としての心までは失っていないようだな!!」
「……まぁ、そういうことだな」
ならば通れと、あっさり男騎士――のまねをしている壁の魔法騎士以外を、上に行かせることを許可した荒獅子。さぁ、お前達は先に行けと、壁の魔法騎士が促すままに法王達は前へと進む。
相変わらず、後ろを振り向かない荒獅子。
その横を華麗に通り過ぎて、四人は上の階へと向かった。
さて、これからだと、壁の魔法騎士が額を拭う。
「ふっ、この俺との再戦に、仲間を巻き込みたくないとはな!! たしかに、俺とお前が本気でぶつかりあったならば、仲間達も無事では済まないだろう!!」
「……あぁ、そうだな」
どうやら、見た目のイメージ通り荒獅子は武闘派タイプの英霊らしい。
その背中の筋肉が盛り上がると、そこに何やら赤い獅子の紋章が現れる。
高らかな笑いと共に、闘気を弾き飛ばした彼は――。
「しかし、お前と二人きりというのも久しぶりだな。思えばあの日以来だろうか」
「……いきなり回想モードに入っただと!!」
そのテンションから一転、昔を懐かしむ回想モードに入ったのだった。
ちょっとテンションもダウンしていた。
闘気もちょっとおさまっていた。
いったいこの荒獅子、正体は何者なのだろうか。
手探りにその輪郭を掘り起こしていかねばならない、初対面の壁の魔法騎士には不思議に思えた。
ほんと、なんでここに男騎士がいないのか、不思議で仕方なかった。
というか、連戦配置はやめて欲しかった。
もうちょっと試練もバランス良く配置して欲しかった。
しかし、文句を言っても始まらない。
目の前の男を倒さなければならないのに違いはないのだから。
「そう、あの日、俺とお前が、とある地方領主の娘の嫁入りを護衛した時ぶり」
「……護衛」
ということは、男騎士のかつての冒険者仲間ということだろうか。
あり得る。
確かに冒険稼業では、時に剣を交え、時に背中を預ける、そのような奇妙な関係になる人物が往々にして存在する。
金によって雇われた彼らは、時に自分たちの思惑で結託することがある。
冒険者ではない壁の魔法騎士にもそれは理解できる感覚だった。
そして、なるほど、そういう知り合いかと、壁の魔法騎士は目の前の男への理解を一段階深めたのだった。
男騎士の、かつての相棒。
おそらく女エルフとパーティーを組む前の。
「俺たちふたりは、道中襲いかかってくる悪漢やモンスターを、斬って捨ててあのお嬢様を護衛した。時には、彼女の嫁入りをよく思わない、暗殺者とも闘った」
「……あぁ」
「そして、ようやく彼女の輿入れ先にたどり着いたとき、悔しいかなあの事件が起こった」
「……事件だと?」
男騎士が何か事件に巻き込まれていたのか。
まぁ、冒険者稼業にアクシデントもこれまたつきものである。
そういうことに巻き込まれてしまうのもまたよくあること。
なまじお人好しの男騎士ならば、余計にそういう話も多いだろう。
しかし、この悲しい雰囲気はいったい何だ。
息を呑む壁の魔法騎士。
その前で、荒獅子はふっと呟いて、その事件について語りはじめた。
「お嬢様のおっぱいもりもりパッド判明、ど貧乳だよ全員口封じ事件が」
とても、ろくでもなさそうな事件を。
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