第839話 どお婆さまと精霊の加護

【前回のあらすじ】


 精霊の加護に必要なのは、エルフの秘術と、その汚れ無き血。

 それを使って、男騎士達の装備を強化するはずだったのだが――。


「このババア、何を思ったか俺に○ョン○ンかけようとしてきたんだぜ!!」


 女エルフの祖母は何を思ったかその代替としてお○っこを使おうとしたのだ。

 血とほぼ成分が同じというお○っこを使おうとしたのだ。


 ある意味でご褒美。

 ある意味で罰ゲーム。


 なんにしても恥ずかしいからやめてくれと懇願する女エルフ。

 だって痛いからと言いつつも、そこは彼女のおばあちゃま。


 どエルフの祖母もまた、天然のどエルフなのであった。


「いや、だから、血は繋がってないって言っているじゃないのよ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「そう、お○っこはやっぱり嫌なのね、そうなると、精霊の加護の魔法を使うのに違う液体が必要になってくるわね」


「いやもう、血液でいいですやん。お婆さま、一度死んでいるんですし」


「なんてこと言うんだモーラさん!!」


「そうだ、お前、モーラちゃん!! もっとお婆ちゃんは大事にしなさい!! というか、すみません、今まで黙っておりまして、私、貴方の娘さんと仲良くさせていただいてます、魔剣エロスことスコティと申します!! ○ョン○ンの件まで黙っていて申し訳ございませんでした!!」


「あら、あらあら!! セレヴィのいい人だったのー? やだわぁ、それならそう言ってちょうだいな!! もう少しで娘の恋人にお」


 それ以上言わないでと女エルフが彼女の祖母の口を塞いだ。


 もうほんと、特殊なプレイ以外の何物でも無い。


 これまでいろいろと、恥ずかしい思いは親子共々経験してきたけれど、このレベルはちょっと初めてだという感じで女エルフは祖母の口を塞いだ。


 ふがふがふがと、孫の小さな手で口を覆われた女エルフの祖母。

 ようやくこのトンチキが一段落した彼女は、そういうことならばという感じで、魔剣エロスを改めて手に取ると、その柄を口元に引き寄せる。


 ちょっと今度はいったい何を。

 戸惑う孫達の前で、彼女は魔剣に優しいフレンチキスをする。

 すると、ほわりと温かい音がしたかと思いきや、魔剣がにわかに発光した。

 なにやら魔法の効果が付与されたようである。


 これならいいでしょうとばかりに女エルフの祖母が微笑みながらそれを持ち主の男騎士へと返す。それまでの難易度の高い魔法の付与方法から、一転して簡単になったそれに、男騎士も女エルフもちょっと言葉を見失う。


「本当はエルフの体液を使った方がいいのだけれど、キスでも加護を与えることはできるのよ。ただし効果は一時的なものになっちゃうわ」


「……いや、一日でも精霊の加護を受けられるなら、それはそれで」


「もう、ほんと、おばあさまってば、最初からこれにしてよ」


「だってぇ!! わざわざ冥府まで来てくれた孫のために、いろいろしてあげたくなっちゃうじゃないのぉ!! モーラちゃんとティトくんのために、いろいろとしてあげたくなっちゃうじゃないの!! おばあちゃまなんだから!!」


 孫の心、祖母知らず。

 だいたい祖父母というものは、孫を構いたいものである。


 女エルフと男騎士を前に、女エルフの祖母もまた、その不必要なまでの構ってあげたい心を納めることができなかったのだ。


 しかしながら、お○っこは流石に暴走しすぎ。

 とりあえず、他の加護はこれで大丈夫だからと女エルフが言うと、彼女の祖母は喜色満面で、並べられた装備に唇を重ねていくのだった。


 にわかに発光する装備たちを改めて装着してみると――。


「おっ、ちょっとだけだが、軽くなった感じが」


「なんだろう動きなめらかというか持ちやすいというか、しっくりくるというか」


「精霊の加護、すごいでしょう。これが本当に、本格的なのだったら、伝説の武器くらいつくれるんだから。ほんと、こんな一時しのぎでごめんなさいね」


「いやいや、おばあちゃまの真心、伝わりましたよ。ありがとうございます」


「……おばあさま、よければですけれど」


 男騎士が感謝する傍で、ごにょごにょと祖母に耳打ちする女エルフ。

 あらぁ、それは良いわねと彼女の祖母が笑うと、二人は揃ってちょっと離れた場所に移動した。


 まぁ、流石に知力1の男騎士でもおおよそ話の内容について検討はつく。

 今後の冒険に役に立つだろうと、精霊の加護の魔法について、その秘法を伝授してもらいにいったのだろう。


 男騎士は、うぅん、と、唸った。


「いつか、俺の鎧に、モーラさんのお○っこがかかるのか」


 まぁ、別に、ちゃんと洗えば問題ないけれどと、男騎士。

 特殊なプレイが待ち受けているというのに、割とその表情は平穏だった。

 むしろ、ちょっとありかもしれないと、うきうきした顔をしていた。


 その横で、むしろ意気消沈したのは魔剣である。


 いや――。


「ティト。ちょっといいか」


「どうした、エロス?」


「俺様、今気がついたんだけれどさ。この俺さまの魂を固定させている――エルフソードについてなんだけれども」


 エルフソード。

 魔剣エロスは、元々、エルフの鍛えた名剣に、英雄スコティの魂が宿ってできあがった経緯がある。


 そう、その剣を作ったのはエルフたちなのだ。

 そして、これまでのやりとりを考えると――。


 脳裏に最悪の想像が過る。


「エルフの血により鍛えたエルフソード、とか、確か受け取ったときには説明されたんだよ。多くのエルフの血を吸って、魔力を得た魔性の剣って」


「……まさか、エロス、お前、もしかして」


「けどさ、もし、さっきのお義母さんみたいなノリで、血じゃなくて」


 言うより早く、男騎士は魔剣エロスを放り投げていた。

 魔剣、いや、汚剣、いや、お○っこソード――むしろちん○とも言えるそれを投げ捨てていた。


 ばっちいという顔をして。


「やめろよ!! まだ決まった訳じゃないだろ!! 俺がそういう作られ方されたかなんて分からないだろ!!」


「やだ、もう、アタイ、魔剣持てない!!」

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