第836話 ど女エルフさんと三代目族長

【前回のあらすじ】


 獅子宮。

 そこは黄道十二宮五番目の宮にして、なんか一番熱い感じがする宮。


 折り返しの前の中ボス感。ここから先出てくる敵は、情け知らずの強キャラあるいは情けを捨てた因縁のキャラクター。

 そんなストーリーの転換を感じさせる宮。


 そんな宮で待っていたのは、まさしく因縁のある男。


「待っていたぞ!! ティト!!」


 すぐ下の階、なにくそモッツアルトと闘って不在の男騎士。

 彼と因縁のある男であった。


 どうしてこんなことになってしまうのか。

 まさか、因縁のあるキャラクターが、前の階で闘っていて不在だなんて。

 さらに、そのことに気がついておらず、因縁のキャラクターがぐいぐいと意味深な会話を続けてくるだなんて。


 これはだいぶおまぬけなことになってきたぞ――。


「しかし、このアリオス!! お前が相手だとて容赦はせんぞ!! 勇者ならば、この俺の背中くらい越えて見せろ!!」


 と思ったら、熱血展開に揺り戻し。

 かくして男騎士不在のパーティ。臨時のリーダーに就任した壁の魔法騎士は。


「……む、無理だよ、アリオス。俺に、お前は、倒せない、よー」


 因縁のあるキャラクターが、背中を向けて立っているのをいいことに、声まねで押し通そうとするのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 所変わって、再び一階――白羊宮。


 ようやくいろいろな音が鳴り止んだトイレの前で、男騎士達がうとうととしていると、もう大丈夫ですーという調子のいい声が響いてきた。

 完全に油断して間抜け顔を晒していた男騎士と女エルフが飛び起きる。


「あ、へっ、もう、大丈夫ですか?」


「はい!! ありがとうございます!! 皆さんが待ってくれたおかげで、ようやくお腹が落ち着きました!! すみません、こんなだらしのない○金闘士で!!」


「いやいや、仕方ないですよ。食あたりはなんていうか、こういうことしてたら、避けて通れないことというか、私たちも経験ありますし」


「モーラさん、そんなこと言わなくていいよ。君も女の子なんだから」


 女の子扱いにまんざらでもない顔をする女エルフ。

 もはや完全に○金闘士の試練もなにもあったもんではない日常モードだった。


 いやはや、思いがけずいい休憩になったと、半刻ほどをぽやぽやとゆめうつつで過ごした男騎士達が和やかな顔をする。そんな中、トイレの戸が引かれて、中からこの階を守護する○金闘士が出てくる。


 トイレの中から後光差す。


 思わず、目が焼けてしまうのではないだろうかという、まばゆい光が差し込んだのはどうしてか。

 いったい中に入っている人物はなんなのかと、女エルフたちが目を擦る。


 はたしてトイレの中から出てきたのは、白銀の髪を揺らし、きめ細やかな白い絹のドレスを身にまとった麗人。

 絶世の美貌を讃えたその人の耳はとがっていた。


 そう――。


「エルフ!?」


「バカな!! 白羊宮の○金闘士はエルフだというのか!!」


「ふふっ、何も驚くことはありません。悠久の時を生きるエルフと言っても、死ぬときは死にますからね。私はかつて、西の森に住まうエルフ達を守護していた族長。クイーンエルフとして代々あの森を守ってきた三代目にして、荒ぶる常闇の精霊王を封印するために、その身を捧げた者。そう、エルフの貴方なら、名前を聞いたことがあるのではないですか。純白の賢者アリエルと」


「はっ!! そ、その名前は!!」


「知っているのかモーラさん!!」


 女エルフの顔に衝撃が走る。


 西の森のエルフ達。

 それは、女エルフの故郷であり、あの忌々しいキングエルフとの邂逅の地であり、なにより彼女の養母である大魔女の出身地でもあった。


 そう、大魔女――四代目エルフの森の族長の出身地。

 つまり。


「もしかして、おばあさま!?」


「……はい?」


「私、セレヴィの娘のモーラっていいます。確か、お母さんから聞いた話だと、三代目族長のアリエル様は、人間とエルフ族を守るために、常闇の精霊王に挑んで命を落としたと。それで、実の娘だった私の養母――セレヴィが、西の森の族長を継いだと聞いています」


 なにそれ初耳という顔をする男騎士。

 いや、言ってないからねと、真顔で返す女エルフ。


 そして、まぁ、まぁまぁ、と、上機嫌に微笑む銀髪のエルフ。


「確かに私の娘の名前はセレヴィ。そして、私の代わりに西の森のエルフたちを束ねるように申しつけたのもまた事実」


「やっぱり!!」


「とすると、貴方は――私の孫ですか? あら、あらあら、まぁまぁ!!」


 嬉しそうにとてとてと女エルフに駆け寄る銀髪のエルフ。

 たわわに実った――彼女の養母よりも強烈なエルフ胸を揺らすと、彼女は孫娘へと歩み寄り、その中に無理矢理に押し込めたのだった。


 もがもがむごごと、女エルフの苦しそうな息が漏れる。


「あらあら、まぁまぁ、○金闘士なんてなってみるものですねぇ。まさか、死して自分の孫に会えるだなんて」


「……お、おばあさま!! 胸、胸が!! たわわで、く、くる!!」


「はい、おばぁちゃまですよぉー、モーラちゃん」


「……い、息が!! だめ、意識、い、意識が、たも、たもて!!」


「孫が相手では試練もなにもありませんねぇ。ごめんなさい、ゲルシーさま。そういうことですから、私は孫のモーラちゃんに味方させていただきますねぇ」


「……なに、そ、れ。ぐふぅ」


 二の腕とたわわに圧殺されて倒れる女エルフ。


 なんということだろうか。

 彼女の母、魔性の女ペペロペに憑依されていた大魔女もそうだが、なんという完成されたエルフボディだろうか。


 女エルフと比して、エルフとして明らかに一つ上のレベルをいっている。


 これが本物のエルフの中のエルフということか。


 エルフマエストロの男騎士。

 ふぅ、これは大変なモノを見てしまったと、額の汗を拭う。

 そしてすぐさま叫んだ。


「おばあさま!! 私、モーラさんと結婚を前提にパーティを組んでいる、冒険者のティトです!! つまり、俺もおばあさまの孫ということになります!!」


「あらあらまぁまぁ、こんなにいっぱい孫が来るなんて。長生きするものね」


「私もパフパフ――いえ、よしよししてもらってよろしいでしょうか!!」


「よろしくないわこのスケベ!!」


 と、ここは女エルフ、すかさず得意の火炎魔法で、男騎士を焼いた。


 げふ、と、口から煙を吐いて倒れる男騎士。

 あらぁと完全に気の抜けた顔をする女エルフの祖母。

 そして、いつものトンチキに、頭を痛める女エルフ。


「まさか、こんな所に来て、身内と鉢合わせするなんて」


 その頃、上の階で男騎士の身内――と思われる男――と、壁の魔法騎士たちが激戦を繰り広げていることを、まだこのとき、二人は知らないのであった。

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