第833話 どエルフさんと蟹ざんまい

【前回のあらすじ】


 ティト・ズ・キッチン!!


 戦士である前にパーティの料理人である男騎士。彼にとって、蟹とは、大きくなろうが小さくなろうが、所詮食材にしかすぎなかった。


 モンスター相手に繰り出される必殺の一撃、バイスラッシュよろしく、繰り出されるのはお料理必殺の型。

 十二の下ごしらえの技からなる、ティト・ズ・キッチンなのだった。


 そう、実はこの男、この旅の中でずっと料理の下ごしらえをしてきたのだ。

 この男、実はこう見えてお料理男子なのだ。

 クッキングソルジャーティトでもあるのだ。


 かくして、良い感じに食材にされてしまった、蟹坊主。

 試練とはという感じに瞬殺されてしまったのは仕方ない。


 だってここは、黄道十二宮カースト最下位の場所巨蟹宮なのだから――。


「蟹料理!! 蟹料理!! とれたてぴちぴち!!」


 それはそれとして、いつになく女エルフも乗り気なのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


「いやー、いいんですかね、わしら試練の番人まで一緒に蟹鍋いただいちゃって」


「いいのよぉ。こんないっぱい、私とティトの二人じゃ食べきれないんだから」


「ほんまですか。そしたら、遠慮なく。ごちそうになります」


「ええなぁ、皆で鍋つつくなんて、えらい久しぶりやわ」


「モーラさんの鍋は絶品ですからね。彼女はこの手の野性味溢れる料理を作らせたら天下一ですよ。いや、流石は大自然に暮らすエルフだけはある」


「やだもー、ティトったら、アンタの下ごしらえが上手いからよ。それと、褒めた所で出るのは出汁だけなんだからね」


 あっはっはと、巨大な鍋を囲んでダンジョンで飯する男騎士達。

 もはや試練でもなんでもない、ただの宴会であった。


 そして、しれっと自分に取り憑いた妖怪倒されたというのに、この会になじんでいるなにくそモッツアルトも大概であった。

 大概な○金闘士であった。


 しかしまぁ、そんなことを気にする男騎士達ではない。

 むしろ、新鮮な蟹を提供してくれて感謝しかないという感じに、どうぞどうぞと彼と鍋を共にしていた。


 ともすると、おおぶりな蟹というのは味が大雑把なものである。

 しかしながら流石にラスボス級の蟹である。そして、神の使わした蟹である。


「……う、旨い!! なんと、この、口の中で、こう、筆舌の、旨い!!」


「無理に感想をひり出そうとしなくてもいいわよティト。けど、ほんとこれとっても美味しいわね。口の中でほろほろって上品にほどけて。流石は冥府神ゲルシーの使いとしてやって来ただけある蟹だわ」


「私もはじめてこの蟹食べるけど、こんな美味しいとは思わんかったね」


「はよ食べておけばよかったでしかし」


「これ、蟹味噌もどんぶりにできるくらいあるで!!」


 それはもうべらぼうに旨かった。

 そして、これでもかと食い応えがあった。

 まったく戦闘はあっけなく、いいとこどこにもなんにもない挙げ句に、一方的に鍋の具材にされたが、味については申し分がなかった。


 クソ雑魚極まれりである。

 こんなだから、巨蟹座の星の下に生まれた者達は、己の身を嘆くことになる。


 哀れ蟹坊主であった。


 さて、やんややんや、もう、敵味方もない蟹鍋パーティである。

 ついにはなにくそモッツアルトとそのおつきの二人が酒まで持ち出す始末。

 男騎士は酔うと使い物にならないのでそれを固持したが、女エルフはそのご相伴にちゃっかりとあずかっていた。


 酒が入れば話も華やぐ。

 話が弾めば心も開く。


 いつしか男騎士となにくそモッツアルトたちは、まるで旧来からの友達のように打ち解けていた。そして、たらふく食べて膨れ上がった腹を撫でて、しばし腹ごなしと世間話に興じ出したのだった。


「いやしかし、○金闘士にもキダローどののように、気さくな方もいらっしゃるんですね。俺はてっきり、怖い奴らばかりなのかと思っていましたよ」


「まー、私はあんまり争い事とか好きな方ではないからねぇ。バリバリの武闘派も中にはいるよ。まぁ、ここまでの連中はそうでもなかっただろうけれど」


「いや、巨大な蟹けしかけといて武闘派じゃないもなにもないでしょ」


「言われてみればそうやなぁ」


「いや、そうやなぁって!!」


 もう完全に飲み仲間である。

 お互いの肩を叩いて、それ言っちゃいますかとなるあたりもう飲み仲間である。

 もはや完全にただの飲み会と場は貸していた。


 女修道士シスターの救援のためにはちんたらしている場合ではない。

 そんなシリアスをやったばかりだというのに、この乱痴気であった。


 仕方ない。

 なにせ螺旋階段を駆け上がって、男騎士達は疲れていた。

 疲れていたし腹ぺこだった。

 そして、そういう運動が地味に身体に効く歳だった。

 やむを得なかった。


「あるでばらんにペの字。どっちもまぁ、底意地が悪い奴らには違いなかったけれども、○金闘士もいろいろねぇ」


「先に行ったゼクスタントたちは大丈夫だろうか」


「まぁ、さくっと片付いたことだし、ちょっと休憩していってもバチは――あれ、どうしたのよキダロー? そんな変な顔しちゃって?」


 ふと、見ると、気の良い○金闘士が、首をかしげていた。

 なぜか首をかしげて、おかしいのう、と、呟いていた。


 何がおかしいのか、どうおかしいのか、何か間違っているのか。

 一気に酔いが覚めた男騎士と女エルフ。腹いっぱいの二人に、白髪の○金闘士は怪訝な顔をして尋ねる。


「もう一人おらんかったか? 塔に入った時に、もう一人? 第一階にも、○金闘士が居るはずなんだわ、確か」


「「……なんだってぇ!?」」


 それはもう、本当に寝耳に水。青天の霹靂。

 そして、○金闘士と仲良くなっておいてよかったという、驚きの情報であった。

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