第829話 男騎士とプロポーズオペレーションエルフ

【前回のあらすじ】


 ○金闘士たちは男騎士達を倒そうとしている訳ではない。

 男騎士達の塔攻略のために制限された時間を奪いに来ているのだ。


 太陽の牡牛あるでばらん。

 殺人道化ペニ○・サイズ。


 二人の○金闘士は、決して強い者たちではなかった。

 しかしながら、男騎士達の時間を奪うことには成功していた。

 そう、彼らはすっかりと忘れていたのだ。


 この試練が二四時間という制限付きだということを――。


「いや、そうだけれど!! そんな1話まるまる使って驚くようなこと!?」


 またいつものどエルフネタかと思っていたのは、貴方だけですよモーラさん。

 もっと真面目に攻略してください。


「その通りだけれど!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「……二つのフロアを攻略するのに一刻か」


「だぞ、ちょっと遅いかもしれないんだぞ」


「残り十一刻で、残すフロアは10階。一刻以内に敵を倒すことが出来れば、それでなんとかなりますが」


「……そんな易々と倒せる相手ばかりとは思えないな」


 うぅむ、と、考え込む男騎士達。

 さんざんに弄られて、茶化されて、ふてくされた女エルフも、これには腕を組んで考えた。実際問題、ちょっと攻略に時間をかけすぎているという実感はある。


 さらに、残り時間も問題である。


「十一刻あるって言っても、私たちも睡眠を取らなくちゃいけませんし」


「だぞ。その通り。不完全なコンディションで戦いに挑んでもいけないんだぞ」


「いや、睡眠て――大事だな確かにそれ」


「そうです。実質的に使えるのは七刻くらいしかないと思われます。正直、もう既に今の時点で、タイムオーバーが目に見えているというか」


 このまま愚直に敵と相対していては、この試練に失敗するのは明白。

 ここに来て、ようやくぼんやりとしていた危機感が、はっきりとした問題として浮かび上がった。


 そう。

 攻略のために、男騎士達は、この塔をもっと効率的にクリアする必要があった。

 一戦一戦、これまでのようにやり合っていたのでは、時間が足りない。


「○金闘士との戦い、これからは全員で当たらずに限られたメンバーで向かった方がいいかもしれないな」


「……そうなるわね」


「だぞ。メインで戦うメンバーとサポート要員を残して、他のメンバーは先行するのが賢明なんだぞ」


「ここは私たちに任せて先に行けという奴ですね」


「お姉様と離ればなれになるのは寂しいですが、コーネリアさんの命がかかっているこの大一番で文句は言っていられません。私もその作戦に乗ります」


「……まぁ、妥当な判断だろう」


「問題は、置いて行ったその先で、どうしようもなく相性の悪い相手と当たってしまった場合ですが、そこまで言い出すと何も出来なくなってしまいますからね」


 男騎士パーティ全員が了解の頷きを見せる。

 この試練、何がなんでも退くことの出来ない大一番である。


 男騎士を冥府神ゲルシーに認めさせるだけではなく、仲間の女修道士シスターの命もかかっているのだ。


 綺麗な手段にこだわっている場合ではない。


 そもそも、塔の攻略方法について、男騎士達は特に指示をされた訳ではない。

 ならば、これは別に裏技やずるの類いでも何でもなく、まっとうな攻略方法。


 やることはやる。

 手段を選ばず効率的に戦う。

 男騎士たちは、何も、正々堂々戦うことを強いられる物語の中の聖騎士でもなんでもないのだ。ただ一介の冒険者だと自覚して、彼らは再び塔の頂上へと続く道を歩み始めた。


 次に待ち構えているのは巨蟹を現わすマークが施された扉。


 さて、いったいどんな敵が相手か――。


「蛇が出るか、鬼が出るか!!」


「いくわよ、ティト!!」


 男騎士と女エルフが並んで踏み込めばそこには――。


「さぁ、今週もはじまりました!! 素敵な恋を求める貴方の力になりたい!! 私たち、愛を探すラブ探偵が全力サポート!!」


「いい歳した三十路男とアラスリエルフに婚姻届と既成事実を作らせる番組!!」


「「プロポーズ・オペレーション・エルフ!!」」


 大トンチキだ。

 これはまた、大トンチキの匂いがするなと女エルフが白目を剥いて思う中、軽快なミュージックが流れ始める。

 最初に入った、あるでばらんのフロアでも感じた、なんか良くわからないノリ――けれど妙にしっくりくる――を肌でひしひしと感じながら、女エルフと男騎士はそのフロアの中央へと移動したのだった。


 そう。


「誰がいい歳した三十路男だ!!」


「誰がいい歳したアラスリエルフよ!!」


 この勝負、誰が引き受けるかはもう、説明の必要はなさそうだった。

 それじゃお先にと、壁の魔法騎士達が横をすり抜けるのを眺めて男騎士と女エルフ、やってやろうじゃないのと、司会の男たちに視線を向けた。


 彼らの前に立ち塞がるのは、青い服を着たにやけた男二人。

 そして、その中央に立つ、恰幅がよく黒縁眼鏡の似合う膨よかな男。


「さぁ、元気のいい二人が出てきましたよ」


「いったいどうなるんでしょうかね、今回のプロポーズオペレーションエルフ」


「たのしみですなー。とまぁ、それはさっそく自己紹介。私が、このフロア――巨蟹の間を預かる○金闘士。なにくそモッツアルト――ドドドのキダローですわ」


「なにくそモッツアルト」


「ドドドのキダロー」


 反応に困る、そして、ここで出てきますかという、大物感溢れる相手であった。

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