第828話 女エルフと共通点
【前回のあらすじ】
悲しき殺人道化ペニ○・サイズ、男騎士の胸に息絶える。
偶像英雄の名の下に殺された数多の悲しき魂達は、男騎士の誓いによってその魂を浄化された。もう二度と彼らが悲しみにより人に牙を剥くことはないだろう。
すごいぞ我らが男騎士。
流石だ知力1だけど勇気のある男騎士。
彼の勇気が、迷える冥府の悲しき魂を救ったのだ――。
ということに表面的にはなっているが、実際の所は、悪夢の延長線上に殺人道化が怯えて退散しただけなのであった。
哀れ、どこまでも悲しき魂たち。
彼らのような存在を生み出さないためにも、戦え男騎士。
負けるな男騎士。
いや――課長ティト耕作!!
「ところで、課長ティト耕作とはいったいなんだったのだろう?」
◇ ◇ ◇ ◇
第四の試練待つ第四階へと向かう男騎士達。
意外とたいしたことなかったわねと、あれだけ翻弄された殺人道化のことを評しながら、女エルフ達は螺旋階段を登っていた。
ふと、そんなパーティの最後尾で首を捻ったのは魔性少年。
「どうしたんだコウイチ? 何かあったのか?」
「……いぇ」
パーティメンバーの動向には何かと気が回る男騎士が、彼の不安を嗅ぎ取る。
曖昧な返事がその不安が深刻であることを告げている。男騎士はすぐに歩みを止めると、螺旋階段の途中で作戦会議をはじめた。
些細なことでもいい、話してくれないかと男騎士に言われては、魔性少年も観念するしかない。気のせいかもしれませんがと前置きして、彼は思わずその美貌を陰らせた思惑を男騎士達に語り始めた。
「この塔の攻略、急いだ方がいいかもしれないと思いまして」
「ほう。それはまた、どうして?」
「割と順調に攻略できているじゃない。あるでばらんもペの字も、ちゃんと倒すことができたし。気にしすぎよ」
「いえ、そうではなく。彼らの攻撃パターンに一抹の不安を感じるというか」
何を不安に感じることがあるというのか。
どんな敵がこの先出てきたとしても、俺たちならば大丈夫だろうと、男騎士が剛毅に言い放つ。
それを手放しに賞賛するほど女エルフも楽観的ではなかったが――。
「なんだか分からないけれど怯えすぎても良くないわよコウイチ。バ○ブの塔でもそうだったけれど、ダンジョン攻略なんて出たとこ勝負なんだから。このアホほど楽観的になれとは言わないけれど、もうちょっと柔軟に構えていないとそっちの方が脚を掬われてしまうわ」
彼女は彼女で実に冒険者としての経験に裏打ちされた、もっともらしいことを魔性少年に言うのであった。
実際、女エルフの言うとおりである。
ダンジョン攻略というのは、未踏の世界に脚を踏み入れる行為だ。
あらかじめどのようなトラップが仕掛けられているか、どのようなモンスターがひかえているか、分かっていてはそれはダンジョン攻略とは言わない。
ただの、古跡巡りだ。
何が起こるか分からない状況に臨機応変に対応してこそ冒険者。
長年、冒険を重ねてきた男騎士と女エルフには、そのことは骨身にしみて分かっていた。これには、冒険でこそないが、諜報という常に命を賭けた暗闘を繰り広げてきた、壁の魔法騎士もまた同意する。
心配しすぎても、そこから何かが生まれる訳ではない。
もちろん、用心が命を救うこともある。
だが、用心のしすぎにより動きが鈍くなるデメリットの方が大きい。
というのが、女エルフの主張であった。
しかし――。
「待ってください、コウイチさんが言いたいのは、そういうことではないのでは? 用心の問題ではなく、このダンジョンに関する根本的な疑問なのでは?」
「なによ、リーケット。妙に食ってかかってくるわね?」
「いえ、まさしくリーケットさんのおっしゃる通りなんです」
どうも、男騎士たちの解釈と、魔性少年の言葉の間には隔たりがあった。
それを上手く説明する方法はないかと、魔性少年が瞳を瞑り頭を捻る。
どう言えばいいのだろう。
そう呟いて。
「この塔の攻略には時間制限がありますよね。僕は、それに危機感を覚えていて」
「危機感?」
「このままのペースだと、この塔の攻略が間に合わないってこと?」
「それこそやってみないと分からないのですけれど――ただ、これまでの○金闘士の傾向を考えると、どうも心が落ち着かないんです」
巧みなトークにより男騎士のメンタルを沈めた太陽の牡牛。
空間魔術により狂気の中にパーティーをたたき込んだ殺人道化。
この二つの○金闘士から、いったいどのような傾向が見えるというのだろう。
まだたったの二人しか相手にしていないではないか。
やっぱり気にしすぎよ、そう、女エルフが言おうとしたとき。
「そうか、そういうことか!!」
「何か分かったのティト!!」
男騎士が、どうやら魔性少年が言わんとすることに気がついたらしい。
声を突然荒げてその甲冑に覆われた膝を叩いた。
続いて、なるほどそういうことですかと、
だぞ、よく分かったんだぞと、ワンコ教授も続けば、古くからのパーティーメンバーの中で、分からないのは女エルフと新女王だけになった。
いったいなんだというのか。
と、ここでもしかしてと、新女王まで何かに気がついた顔をする。
「えっ、ちょっと、皆分かっちゃったの? 私、ちっともこれという心当たりがないのだけれど? というか、いったいどういうことなの?」
「……どうやら、皆、気がついたようだな」
「ゼクスタント、お前、まさか最初から」
「えぇ、このトンチキ魔法騎士も気づいてるの? ちょっと本当になんなのよ?」
「時間の進み方が違うモーラさんには分からないかもしれません」
「だぞ、これはもしかすると、まずいかもしれないんだぞ」
「もし本当にそうなんだとしたら――」
「取り返しのつかないことになるんじゃないですか?」
パーティメンバー全員が深刻な顔になる。
そんな中、一人だけ共通点が分からない女エルフ。
一応、仲間達の中では頭脳派で通っているはずなのだが、どうして今回はさっぱりと疑問点が分からない。
すみません、降参しますから教えてくださいと頭を下げる女エルフ。
そんな彼女に、仕方がないよと男騎士は言って、それから――。
「あるでばらん、そしてペニ○・サイズ。両者とも、別段優れた闘士という訳ではなかった。正直、正面から戦えば、勝てる相手には間違いなかった」
「そうね」
「けれども、それが間違いだったんだ。彼らは俺たちにダメージを与えるのが目的だったんじゃない。彼らが本当に削りたかったのは――」
自分達の時間だ。
そう言ったとき、刻を告げる鐘が、男騎士達の頭上に降り注いだ。
一刻。
この塔に突入してから時間が過ぎたことを示す鐘楼の音。
それを聞いて、男騎士達の顔に緊張が走る。
そして。
「え、真面目な話なの!!」
きっと、とぼけた返しがくるんだろうなと身構えていた女エルフは、思いがけず普通な心配をしてきた男騎士達に叫んでいた。
いつものエロボケはどうしたのと、真面目な顔をするパーティに叫んでいた。
その後、いつものどエルフメソッドが炸裂したのは言うまでもない。
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