第826話 ど法王さんと偶像英雄
【前回のあらすじ】
迫り来る課長ティト耕作。
その中で、やりたい放題、はっちゃけ放題。
いったいどこから出てくるのかという感じで出没する男騎士。
いついかなる場合でも、どのような状況でも、ペニ○・サイズの上司として現れ、そしてほとばしる愛剣エロスを輝かせる彼に、流石の殺人道化も気がどうにかなりそうだった。
終わることなき課長ティト耕作地獄。
「もうやめてくれぇええ!! これ以上、出ないでくれ課長ティト耕作!!」
かくして、永遠に紡がれるアラサーディメンションの世界に音を上げて、ペニ○・サイズはリタイアしたのだった――。
◇ ◇ ◇ ◇
マヨイガが崩壊する。
ペニ○・サイズと同化して異形の洋館と化していたそれは、砂嵐のようにかき消えると、一階・二階とおなじ石造りの間へとその光景を一変させた。
ダンスホールで踊っていた男騎士達。
おっぱい屋で戦闘後も佇んでいた
二つに分かれた男騎士パーティだったが、マヨイガが持つ妖術の効果が切れた今、彼らは合流を果たした。
意外と近くに居たんだなと言う顔をする男騎士。
ほっと胸をなで下ろす女エルフ。
おや皆さん無事でしたかと軽い調子の
そんな彼らの前に、ふと、黒い頭巾を被った人影が目に入った。
うずくまり何やら嘔吐くような動作をするそれは、間違いなくこのフロアの主。しかしながら、
なんというかそう――。
「子供?」
「だぞ。あの体つきは子供っぽいんだぞ。どういうことなんだぞ」
「……ふむ、なるほど、そういうことですか」
そう言って、このフロアを実質攻略した
黒いローブにすっぽりと覆われた彼は、近づかれたのを察するや振り返る。
すると、そのローブの中から涙でくれた麗しい顔が覗けた。
なんと、まぁ、と、嘆息したのは女たちだけではない。
男さえも、その美しさに思わず色っぽいため息を吐き出した。
そう、それはとても殺人道化に見えなければ、伝説に歌われる姿とはほど遠い、目もくらむような美少年だった。
いったい、これは、どういうことか。
その答えに、
「まさか殺人道化ペニ○・サイズの偶像としての成立が、このようにおぞましい背景を伴っているとは。これは私の想像の範囲外でした」
「だぞ!! 待つんだぞリーケット!! ペニ○・サイズの存在は、学説的には既に否定されているんだぞ!! そんな奴は存在しないんだぞ!!」
「そうですね、ペニ○・サイズは存在しません。けれども、その噂により、犠牲になった者は確かに存在する」
違いますかと背中を向けたままワンコ教授に問う
答えに窮するというより、そこまで思いが至らなかったと黙り込んだワンコ教授。驚きつつもなるほど彼女は法王に相づちを打った。
ワンコ教授もまた、目の前のペニ○・サイズの正体に思い至った。
分からないのは、この手のことに疎い女エルフと新女王。
そして知力1の男騎士。
壁の魔法騎士と、魔性少年は、勘が良いのだろう、表情を曇らせて床を眺めた。
答え合わせをするより早く、音律の乱れた笑いが場に満ちる。
それを発しているのは紛れも無く、黒い外套を身にまとったペニ○・サイズこと、妖艶な美しさを持った美少年だった。
「そうさ!! その通りさ!! ペニ○・サイズは存在しない!! けれど、ペニ○・サイズに殺されたという人間は、確かにこの世界に存在する!!」
「……やはり」
「「政治的な意向!! 変質者の凶行!! 過失の隠蔽!! ペニ○・サイズという化け物はとにかく都合のいい存在だった!! それはそうだろう、その存在が想像された理由からして、偽装工作のためだったんだから!! けれども、これほど多くの僕たちを、生み出すなんて思わなかっただろうね!!」」
美少年の姿がまるで陽炎のように揺らめく。
幾重にもぶれた輪郭は、そのそれぞれが異なる姿であったが、いずれも目を見張るような美少年あるいは美少女であった。
その誰しもが、一様に怨嗟の表情を浮かべて男騎士達を睨んでいる。
ここは魂の帰る場所、冥府島ラ・バウルの地下。
海底都市オ○ンポスに集められた、強い恨みを持った魂たちは、彼らを死の淵へと追いやった概念を、虚構のままであることを許さなかった。
それは人々が思い描く偶像の姿と重なり、複雑に結びついてここに結実する。
そう、ペニ○・サイズは存在しない。
ただし、ペニ○・サイズの名において、摘まれた命は確かに存在する。
「だぞ!! 虚構の英雄像が魂を持ったのじゃなく、その虚構に本来存在する魂が重なることで、彼らはペニ○・サイズになったということなんだぞ!!」
「ペニ○・サイズという概念を恨むあまたの亡霊達。それこそが、この場に現れた、○金闘士ペ○・サイズの正体」
「ちょっと、ちょっと、なにそれどういうことよ!! 恨んでいる相手に、恨んでいる者がなったっていうこと!? どうしてそんな悲しいことに……」
そこまで言いかけて、女エルフは気がついた。
彼らの多くが、実態のない、ペニ○・サイズという概念により、その死を片付けられてしまったという悲しい事実に。
彼らには、それぞれ死ななければならない理由があっただろう。
しかしながら、誰かに罪を着せる時点で、それは後ろめたい理由に違いない。
本来なら、彼らを殺した者達にしかるべき裁きと罪が科せられるべきだった。
それが、ペニ○・サイズの仕業で片付けられる。
ただそれだけで深く問われず闇に葬られる。
彼らの死の真相は、殺人道化という偶像によって隠匿されて、永遠に闇の中へと葬り去られたのだ。
そんな原因となった存在を、許せるはずがない。
そして、その存在が、本当に存在しないなど、許せるはずがない。
「「「「こんな、こんなもののために、僕たちが死ななくてはならなかった。こんな、殺人者達に都合の良い存在のために、僕たちは仕方ないと世界から見捨てられた。そんなことって許せますか。僕たちには、それは認められない。そんな欺瞞は見過ごせない。だから、僕たちは、殺された僕たちにとってだけは、ペニ○・サイズは真実存在する殺人鬼でなければならないんだ」」」」
それは悲しい慟哭であった。
もはや戦いに敗れて双児宮を通すしかない亡霊の、最後の嘆きであった。
あまりに哀れな殺人道化の真実。
その前に、皆が言葉を失ったかに見えた。
だが、一人、このおぞましい沈黙と怨嗟の中にあって、勇気を持って声を上げた男があった。
そのような悲しみを世界から拭うために、戦う一人の男がここには居た。
彼の名は、そう――。
「ペニ○・サイズ。悲しき魂。俺は、君たちのためにこれからも剣を振るおう」
「「「「「げぇー!! 課長ティト耕作!!」」」」」
課長こと男騎士であった。
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