第810話 どエルフさんとシャイニング

【前回のあらすじ】


「もー、やめろよなティト!! そういう不意打ちで嫁の話とか出されるの恥ずかしいだろ!! こいつ、もう、バカバカおたんちん!!」


「はっはっは!! そういう所だってのがなんでわかんかいかな!!」


「おまえー、おまえー、おにいちゃんだぞ俺の方がー!! 敬えー、バカー!!」


 男騎士と壁の魔法騎士。

 二人のおっさんが唐突に始めたラブコメっぽいやり取り。

 そう、おっさんたちの唐突なラブ。


 異世界、おっさんズラ。


「言わせねーよ!?」


 今日も元気だ女エルフのツッコミが鋭い。

 流石だなどエルフさん、さすがだ。


 まぁ、そんなこんなもありましたが、なんと第二の試練をクリアした男騎士たち。待ち受けるのは第三の試練。果たして、そこに待っているのは何者なのか。

 そしてどんな妖怪なのか。


 牡牛座の次に来るのは双子座。

 双児宮を守る〇金闘士とはいかに。


「ほんと、いい加減にしないと怒られるわよ」


 そんなん、今更でしょう。

 今週もいろいろなことに目を瞑りつつどエルフさん始まります。


◇ ◇ ◇ ◇


 さて、そんなおっさんラブコメディを繰り広げているうちに、男騎士パーティは第三の試練の扉の前へとたどり着いた。


「ふむ、相変わらず重厚な石造りの扉だな。下の階と同じ造りのように見えるが」


「見ろティト。門の中央に紋章が描かれているだろう」


 そう言って壁の魔法騎士が指さした先には、捺印の紋章のような絵柄が描かれている。円の中には四角形の上辺と下辺が伸びたようなマーク。それがいったい何を意味しているのかは、男騎士には分からない。


 分かるか、と、すぐに彼は自分より賢い者に問う。

 女エルフ、法王ポープ、新女王が首を振る中、一人頷いたのはワンコ教授だった。

 流石に、考古学に精通しているだけはある。

 彼女はすぐにその紋章の前に近づくと、盛り上がったその模様をなぞって神妙な顔をするのだった。


「だぞ、これは古に【黄道十二宮】と呼ばれた理想郷の記号なんだぞ」


「【黄道十二宮】?」


【理想郷 黄道十二宮:古に信奉された神話において十二の理想郷として登場する概念。宮と表現するが実在するものではなく、季節を十二に分けて表現したものである。今現在、季節がどの宮に属しているかを知ることで、古代の者たちはおおよその天候や気温などを予想したという】


 古の時代に季節を知るために編み出された知恵。

 説明されればなんということはないが、そこには古代人の世界に対する理解と畏敬が籠っている。


 季節を宮と崇め奉り、理想郷として神話体系に組み込むということは、それらが自分たちの手に余る存在であると、認めているということでもあった。


 ワンコ教授の流れるような説明に、ほうと耳を傾ける女エルフたち。

 なんだかんだで、学があり知力がある彼女たちにとっては、なかなか含蓄のある話に聞こえた。


「……なるほどねぇ。昔の人もいろいろ考えたものね」


「季節を理想郷と考えるですか。確かに、永遠に続く季節というのは神秘的なものがあります」


「ですね、歴史ロマンという奴です」


「僕はその頃、まだ海底を漂流していましたから、詳しいことは分かりませんが――その名残は今でもいろいろな所に残っているらしいですよ」


 和気あいあいと話し合う女エルフたち。

 そんな彼女たちに混じれず、難しい顔をする男がいる。


 そう――。


「……まったく分からん」


「……ティトェ」


 知力1の男騎士である。

 彼にはワンコ教授の話した概念も、古代のロマンも、まるでさっぱりと、少しも分からないのであった。


 分かるかと、思わず意見を求めた義兄も顔を逸らす。

 黄道十二宮は、アホには少し高尚な概念過ぎたのだ――。


 やんややんやと盛り上がる女エルフたちに一人背中を向ける男騎士。

 寂しそうに彼が次の階の扉に目を向けた時だ――。


「ハロー!! ティト!!」


「……えっ?」


 その僅かな隙間から、何かが自分をうかがっている。

 それに、彼は気が付いてしまった。


 そう。濃い髭をした、彫りの深い、しかし瞳に狂気を宿した男が、扉の隙間から自分を見ていることに。


「おこんばんわ」


◇ ◇ ◇ ◇


「あれ? そういえば、ティトの姿が見えないわね?」


「だぞ、ゼクスタントの姿も見えないんだぞ?」


「二人とも、まさか勇み足で中に入られたんでしょうか」


「特に気が付きませんでしたが……はて」


 ワンコ教授の蘊蓄に一区切りがつき、女エルフたちが我に返れば、いつの間にか男騎士たちの姿がなくなっていた。


 いったいどうしたのだろうか。

 自分たちに黙って、単独行動をするようなリーダーではないとは分かっているが、事実として彼の姿はなくなっている。


 まさか奇襲か。

 急いで戦闘の構えをとってみせるが、どうもそのような感じはない。

 ただ忽然と、男騎士がその姿を消した――。

 しかも壁の魔法騎士まで連れ立って――。


「これはまさか」


「えぇ、どうやら、そのようですね」


「だぞ」


「男二人、連れ添っていなくなるということは一つしかありません」


 女エルフたちが顔を見合わせる。

 その手の知識に疎い彼女たちだが、それでもこればっかりは分かった。

 自分たちにもある生理現象だからよく分かった。


 言葉には出せない。

 だって、彼女たちは乙女だから。

 間違っても、男二人で連れ〇。〇だなとは口には出せない。

 けれども、それを黙って理解するやさしさと共感は彼女たちにはあった。


「どれ、仕方ないわね。あいつらがすっきり戻ってくる前に、私たちだけでこの階層の試練をクリアしちゃいますか」


「しかたありませんね、そういうことでは」


「だぞ。ほんとしょーがないんだぞ男どもは」


「えっと、その、あの……が、頑張りましょう!!」


「……あははは」


 唯一残った男の子。魔性少年の苦笑いを背にして、女エルフたちは第三の試練が待つ部屋の扉を開いたのだった。

 途端――。


 眩い光が、彼女たちを包み込んだ。

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