第809話 どエルフさんとシャイボーイ
【前回のあらすじ】
『俺は息子の父であり母なんだ!!』
壁の魔法騎士の魂の
一周巡って息子に対する愛情が重い。
片親という責任感やら何やらで、いろいろと拗らせている彼の悩みは、見事に弁舌にて大陸を平定した古の王を黙らせたのだった。
そりゃ黙る。
割と真面目なお悩みである。
そりゃ黙る。(二回目)
「これ、ほんと、身内としても扱いに困るような話だと思うんだけれども」
人の親になるというのは大変。
あるでばらん、息子のために親スイッチが入ってしまった壁の魔法騎士に対して、あまり強いことは言えないのであった。
そして、そこに乗じてまくしたてればこれまたあっさり。
最初の試練を壁の魔法騎士は突破したのだった。
『頼む教えてくれ!! 俺は母としてどうしたらいんだ!!』
「ごめんごめんほんとむり!! ちょっとこの相談だけはパスさせて、お願いだから!! これには流石に言葉を持ち合わせてない!!」
「……哀れ」
ただし、双方哀れなことになってしまったのは、もはや致し方なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「……そうか、ゲトくんあんまり女の子と喋らないのか」
「そうなんだ。誰に似たのかシャイな所があってな。同期の女騎士の子が二人いるんだが。ほら、お前も会っただろう、カツラギの連れていた」
「あぁ、あの娘たちか」
「カツラギにつけて一緒にいろいろと修行させていたいんだが、どうも馴染めなかったらしくてな。本人は何も言わないが、ツェッペリンからは馬鹿呼ばわりされて、ロゼからは存在を無視されたりしているようで。もっとこう、なぁ……あるだろう、男として!!」
「心配になる話だなぁ」
完全に家族会議。
復活した男騎士を交えて、回廊を行くパーティ一行。
その先頭を行く男騎士とその義兄である壁の魔法騎士は、今や一刻を争う試練に向かう最中だというのに、まったりと階段を昇りながら身内の心配をしていた。
お前ら、そんなのはこれ終わってからやれ。
そんな視線が後ろから飛ぶが、まったくもって意に介さない。
なぜなら、男騎士も壁の魔法騎士も、家族会議に熱が入っちゃっていたからだ。
もうなんていうか、そっちに意識が完全に持っていかれちゃっていたからだ。
中央大陸での大戦では結局ろくに会話も交わせなかったし、そもそも仲が修繕されたのもここ最近である。そりゃ積もる話もあるし、家族会議に花も咲いた。
しかたなかった。
けれども、パーティーとしてはすこぶる迷惑であった。
ほんと、ちょっと勘弁して案件であった。
「まぁけど、お前の息子だからなぁ。シャイなのは仕方ない」
「……待て、どういうことだ。まるでそれじゃ俺が女慣れしていないシャイボーイみたいな言い方じゃないか?」
「そう言ったつもりだが?」
こいつぅ、と男騎士を小突く壁の魔法騎士。
それに、やったなぁと小突き返す男騎士。
三十を超えた男たちのやり取りではない。
お前たちは中学生か。
青春真っ盛りか。
今までいろいろあって、仲が悪かったのは仕方ないにしても、もうちょっと年相応のやりとりをしやがれ。
女エルフの怒りが頂点に達する。
やめておけと手を引いたワンコ教授を振りほどいて、男騎士と壁の魔法騎士の間に割り込んだ彼女は、ちょっといいかげんにしなさいよとパートナーの義兄――すなわち将来の義兄に睨みを効かせた。
途端、眉間に皺を寄せてサングラスをくいっと上げる壁の魔法騎士。
「……何か問題でも」
「……うそでしょ」
「な。この通り、ゼクスタントはプライベートでは恐ろしいほどに女性に奥手なんだ。無茶苦茶シャイなんだよ、この男」
「……ティト。余計なことをしゃべるな」
「まぁそんなこんなで、こいつ放っておいたらまずいと姉さんが早めに嫁に入ったんだよ。まぁ、そういう所もかわいいと言っていたけれどな」
「……ふん」
会話のトーンがいきなりなんかシリアスなものに変わる。
男騎士はともかく、壁の魔法騎士の口調が無駄に威厳の籠ったものになる。
どういうことだよと目をしばたたかせた女エルフが、自然と取り残されて二人の間からこぼれ出る。
その途端。
「もー、やめろよなティト!! そういう不意打ちで嫁の話とか出されるの恥ずかしいだろ!! こいつ、もう、バカバカおたんちん!!」
「はっはっは!! そういう所だってのがなんでわかんかいかな!!」
「おまえー、おまえー、おにいちゃんだぞ俺の方がー!! 敬えー、バカー!!」
「はっはっは!!」
この調子である。
「世界観が違う!!」
女エルフが叫ぶ。
ギャグ顔で叫ぶ。
同じように世界観が違う感じで叫ぶ。
その魂の叫びに、くるりと振り返って男騎士と壁の魔法騎士。
「……何か問題でも」
「こういう奴なんだよ」
「そりゃ息子さんもシャイになるよ!!」
どうやら、彼の息子のシャイは遺伝に間違いなさそうだった。
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