第791話 からくり艦隊と第七レース
【前回のあらすじ】
突如男騎士たちの前に現れた潜水艦呂09とその船長のデビちゃん。
果たして、第七部にいろいろとやり残しがないかと問う彼女――しかしその前に、仲間に紹介しないと話は始まらない。
だが、その紹介が致命的。
「クン〇の交わりだって!!」
「ソー〇でした!?」
「せん!!」
「すい!!」
「かん!!」
「……だぞ?」
壮絶に二人の仲を誤解される女エルフとデビちゃん。果たして、この怒涛のセクハラ攻撃、許されるのか、著作権的に。
チャンピオ〇の方を少しうかがいながら、今回もどエルフさん始まります。
「チ〇ピクオン!?」
「はい、これ以上、歴史ある漫画雑誌さんに迷惑をおかけしない!!」
◇ ◇ ◇ ◇
さて。
男騎士たちが参加しているGTRレース。
これも残すところは第七レースのみとなっていた。
とはいえ、すでにからくり艦隊これくしょんの面々との戦闘、そしてレースの過酷さにより、このレースの参加者は半分以下となっている。
それでも勝者は存在する。
レースがある限り、そこに優劣は発生する。
「さぁさぁさぁ!! 先頭を切って、ゴールの門をくぐったのは!! この怒涛の七日間で一際目立ったあのチームだ!! 第六レースで万難を排して今、ここに、ゴールイン!! おめでとう、今年のGTR優勝は――!!」
パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム!!
そのコールで紅海が染まる。
遥か彼方、水平線の果てまでも響く喝さい。
それを受けて甲板に立つのはほかでもない。
この船を率いてきたリーダーにして、歴戦の兵。
そう――。
「さぁ、ヒーローインタビューです。どうだったでしょうか、今のお気持ちをお聞かせください、アンナ船長」
「……いえ、まぁ、はぁ。とても疲れたというのが、正直な感想ですね」
パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム。
その舵を切っていた女、アンナであった。
そして、そんな彼女に続いて、インタビューに応じるのは、その食客分。
「まぁ、俺たち小清水の次郎長たちがついてりゃぁよう、紅海を渡るなんざ屁でもないってもんよ。ふっふっふ」
「……まぁ、冷静に考えてな。俺たちはこの紅海を誰よりも知り尽くしている」
「……森松達にいけない海路なんてなーいー」
小清水次郎長一家であった。
紅海でも名の知れた海賊衆の登場に、やはり現地人が多いのだろう、観光客船も盛り上がる。もはや、二位以下の着順など頓着しないというありさまで、彼らの歓迎ムードが出来上がっていた。
そう、男騎士たちはこのレースに見事に勝利した。
なんだかんだと、やきもきするレースをしていたが、なんとかそれを制して、最後にきっちり勝利を収めてみせた。
これで卸問屋に収めた保証金については問題ないだろう。
どころか、報奨金までもらえるに違いない。
さらに明恥政府高官たちの面目は丸つぶれ。
紅海の自由貿易の権利は守られることとなった。
万事丸く収まった。
そう思ったその時――。
「いささかはしゃぎ過ぎではないか?」
凍り付くような鋭利な言葉が小清水次郎長たちを襲う。
何が起こったのか。
いったいどうしたというのか。
確認しようにも、底冷えしその言葉の刃に、首元を押さえつけられたかのように言葉が出ない。
いったい何事と混乱する中、ゆっくりとその男とは、駆け付けたレース運営委員会のメンバーの中から姿を現す。
三人。
彼らはかつて、この国の政変を駆け巡った男たち。
それも、大性郷、坂本良馬と言った、男騎士たちに馴染みの深い男たちに、傾倒した者たちであった。
さらに、からくり娘の陰一つ。
「どうやって、わがからくり艦隊これくしょんを封じたのかはわからんが」
「余計なことをしてくれたな。お前たち」
「……」
ムッツリーニ。
逝藤。
そして、大久派。
明恥政府を牛耳る三傑たちである。
その後ろにピタリと着いたからくり娘――おそらく最後に残された最初の七人の原器が一つホウショウと思われる――が、やんわりとした笑顔を向けている。
どうしてこのような地に政府の要人が。
そもそも、なぜ、優勝者たちを祝福しないのか。
異様な空気が辺りに流れる中――先に口を出したのは。
「おっと、やめときな大久派・ムッツリーニ。すべて、もう終わっちまったよ」
悠々と、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの後ろから迫ってきた鉄鋼船。
威臨社の頭領勝海舟である。
明恥性府三傑も肝を冷やす大人物の登場に、まさしく動きが止まったが最後、一陣の風が甲板には吹いていた。
カタリカタリと甲板に転がるのは、奇襲を想定していなかったのだろう、目を見開いて四肢を断絶させられたからくり娘。
最後の一体――ホウショウは、勝という目立つ囮により、気が緩んだその一瞬に、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船に残された、二人の男騎士の弟子によりし遂げられた。
からくり侍センリ。
青年騎士ロイド。
二人の抜群のコンビネーションにより、明恥政府、最後の切り札は沈黙した。
まさしく、勝の言葉のとおりである。
「……終わり、か」
呟いたのはムッツリーニ。
自ら集めた、神代の兵器の残骸を眺めて、寂しそうに眼を閉じる。
自分たちがなそうとしていたことが、進めようとしていたことが、ここに、予想外の闖入者によって防がれてしまった。
憤懣やるかたない、叫びたくなるところを、あえてこらえる。
政治とはそういうものなのか。
いや、違う。
彼らも心のどこかで、こうなることを予見していたのかもしれない。
望んでいたのかもしれない。
自分たちよりはるかに強い何かが、この覇道を止めてくれることを。
「分かりました、勝先生、今回、私たちは負けを認めましょう」
「そうしろ。身の丈にあった国を造れ。なに大丈夫だ、お前たちならばできるさ」
「しかし先生もひどい。どうして、私たちに味方してくださらない」
「味方してほしかったか。だったら、どうして性郷なんてもんを野放しにした」
まるで、大性郷――もとい彼に擬態していたニシーを、彼らがあえて見逃したような口ぶりに、一同押し黙る。
そして、彼らは、ゆっくりと、その目の端に涙を湛えた。
言葉はいらない。その涙だけで十分だった。
「止めてほしかったんだろう。大性郷の奴に、良馬の奴に。お前たちは、いつだって、あいつらの影法師を追ってきた。だからこそ、この国難の中にあって、彼らが再び自分たちを導いてくれるのじゃないかと、そう、願った」
「……くぅっ」
「……滑稽。ですが、認めざるを得ませんな。この状況では」
「……!!」
「一度は止めた、二度はねえ。大久派、ムッツリーニ、逝藤。お前たちも維新の志士だろうが。だったらお前、過去の男なんぞに頼るな。最後まで、自分の思う王道の道を見据えて進め」
それが、男ってもんだろう。
そう言って、鉄鋼船からひょいと降りた勝海舟。
その姿は、例によってセーラーのままであった。
「……なっ?」
「……いやっ!! 変態!!」
「何が変態だよ!! 水兵さんの装備だろうが、セーラーは!!」
「変態!! ピンク!! そのセーラーはちょっとNG!!」
「勝さん!! あんた、ちょっといくらなんでもそのセーラーは!!」
「照れるんじゃねえよ。ったく、ガキンチョどもが。ほれ、俺が慰めてやるから、ちょっとこっちに来いや」
「「「い……いやぁあああああああっ!!」」」
かくして、明恥政府と、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム。
その戦いには、いったんの幕が下りた。
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