第741話 ど男騎士さんと第五レース
【前回のあらすじ】
勝、水着の刺客、小清水次郎長、そして謎の大陸商人X一堂に会する。
はたしてその席上で、ついに長らく伏せられてきた謎の大陸商人Xの正体が明らかになる。
そう、彼こそはやはり男騎士たちの馴染みの道具屋の店主。
そして、かつてハゲ修験者から説明を受けた、ミッテル九傑の一角――変態店主であった。
「今、あらためて言われてみると、こいつ以上に変態な店主なんて作中にはいないわよね。うん、そらそうなるわ」
それとなく匂わせていましたがどうだったでしょうか。
皆さんお気づきになられていたでしょうか。
変態店主ともうその呼び名が出た時点で気づいていたならご慧眼。
というかまぁ、店主以上の変態なんてそうそう作れませんからね。
という訳で、思いがけず明らかになった、神々との謁見へのキー人物との接触。
そして、彼らの再びの蜂起。
かつて東の島国のために立ち上がった、海援隊を再結成してことに挑もうとする勝たち。
はてさて、ここに第五レースの幕が上がろう――。
と、する前に。
収束しておくべき話が一つ。
男騎士と魔剣と黒ニンニク。
三人の思惑交わる海辺へと再び舞台は戻ります。
◇ ◇ ◇ ◇
「ティト。チン道は最後まで東の島国のことを憂いていた。国力に乏しく、大した産業もなく、中央大陸ほどの人もいなければ、連携の難しい東の島国を、どうにか一つにまとめあげて、世界に比する国に育て上げようと思っていた」
「あぁ、それはよく分かっている」
「けれどもそれは今の
違うのだと、黒ニンニクの茎が揺れる。
夜風に揺れたその先細りのアレがぷるんぷるんと音を立てると、それから悲しくその先から雫が流れた。
思わず男騎士、ばっちいと捨てそうになるのをぐっと堪える。
魔剣はと言えば、ご愁傷さまと心の声で男騎士を慰めた。
黒ニンニクをして涙失くしては語れないシーン。
だが、その涙は先から出る。
植物の茎を斬ったらそこから葉腋が出る。
そんなことのように、それは仕方のないことであった。
ちょっとどろりこい葉腋であったが、葉腋には違いないから汚くなかった。
男騎士ももらい泣き。
微かに目の端に涙が滲んだ。
「チン道はこの国の誰もが胸を張って生きられるそんな国にしたいと俺に言った。大久派たちのような力による覇道ではなく、人々が互いに互いを思いやることで国としてまとまれる、そんな仁政の国を造りたいと俺に語った」
「……性郷どん」
「王道の政か。王の仁によって世を納めるとは言ったものだが、それを国民全員に求めるってのはちと酷かもしれないな。けれども、なるほど、あの偉人がいいそうなことだ」
「だからティト、お願いだ。チン道は長らく苦楽を共にした、俺をこうして切り離してまでこの国を正しく導こうとした。その遺志をなんとしても果たしてやりたいのだ。頼む、お前の手でもって大久派たちの野望を打ち砕いてくれ」
この通りだと黒ニンニクがぷるんとその先端を振る。
するとにんにく汁がどばりと迸る。
手の中いっぱいに溢れたそのエキスは――臭かった。
実にニンニクの匂いが強烈であった。
ギンギンになる感じであった。
むせ返るようなその黒ニンニクの泪に男騎士。
その心意気に当てられたか目の端から涙が迸る。
あぁ、任せてくれと頷いて彼は、そっと黒ニンニクから視線を逸らすと、月が昇る夜空に仰いで涙を迸らせた。
冷たい夜の帳の下で、男騎士の頬を伝う熱い涙。
ニンニクは玉ねぎの仲間。
目に染みるのはある意味仕方なかった。
濃厚な黒ニンニクエキスが手に溢れかえっているので仕方なかった。
そして、こんな決意の夜だというのに、男騎士の股間は――。
「どうした、勃っているのか、ティト」
「……こんなん、無理ですやん」
「ティト、今すぐ黒ニンニクを捨てるんだ!! 今ならまだ間に合う!!」
強い決意にみなぎっているのであった。
必ず、
絶対に明日の第五レースで、彼らの野望に終止符を打つのだ。
そんな決意より先に、今夜は無事に寝られるだろうかという、そういう不安の方が男騎士を襲うのだった。
黒ニンニク。
効果は抜群だ。
「先走るにはまだ早いぞティト。その滾り、明日の第五レースまで留めておけ」
「いやもう、これは発散しないと逆にもうどうしようもないというか。男のそれは溜めようと思って溜めておけるものじゃないというか」
「ティト!! もうまともに黒ニンニクの相手をするな!!」
魔剣ごもっともであった。
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