第742話 ど男騎士さんと再戦

【前回のあらすじ】


 大性郷が求めたのは、王なき国の王道の国。

 皆が誇りを胸に生きることができる強き国であった。断じて大久派たちが画策するような、他国を踏みにじって君臨するような覇道の国ではない。


 ニシーの力を借りてまで、その志を後に続けようとした大性郷。

 その心意気に、男騎士は改めて感服し、再び決意するのだった。


 黒ニンニクを手にして、いろいろとギンギンになりながら。


 今夜は寝られますかね。


「シリアスとみせかけて安定の下ネタじゃないのよヤダー」


◇ ◇ ◇ ◇


 第五レース。

 いよいよ南洋の気候が厳しくなってきた。

 きつい熱気と日差しの中で順次船は出発する。


 しかしながら、レースは開始早々に、一つの船を囲んでの格闘戦へと発展した。


 先のレースでその流れは分かっていた。

 襲われたのは――。


「さぁ、ここで多くの船団からマークされたのは小野コマシスターズ!! 主要チームはもとより、レース下位に甘んじていた船からも助っ人が参戦しての船上戦!! 一番乗りを果たしたのは、ここまで激戦を繰り広げてきたパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムたちだ!!」


 男騎士たち討ち入り。

 彼らはこの第五レースで決着をつけるべしと、すぐさま小野コマシスターズことからくり艦隊これくしょんの船へと乗り込んだ。


 待ち構えるのはからくり娘たちのリーダーにして、からくり侍と同じ七人の最初の原器。

 小ぶりな金髪少女の『ユキカゼ』。

 そして、黒髪を潮風になびかせる黒セーラーの『クマ』であった。


 船上には彼女たち以外に戦う者の姿はない。

 他、どうやら非戦闘員と思わしき、最小限の外装を持ったからくり娘たちが、マストなどを動かしているだけだ。


 男騎士たちはすぐさま眉を顰めた。


「……僅か二人で俺たちを相手しようとは。どういうつもりだ」


「どういうつもりだもこういうつもりだも、昨日までの戦闘でこちらもそれなりに消耗しましてね」


「という訳だ。貴様らが『ホウショウ型』の者たちを倒したのは大きかったぞ」


 しかし、数の優利なぞどうとでもなると余裕の表情を見せる二機。


 気炎万丈。

 からくり娘たちの型からは、並々ならぬ殺気が漂っていた。


 対して船に乗り込んだパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムのメンバーは。


 男騎士。

 青年騎士。

 彼らに命を救われた、北海のあらくれたちの長、若き船団長。

 そして、モッリ水軍の三兄弟。


 回復要因として、法王ポープも連れて来たい所であったが、万が一を考えて温存策に出た。


 このレースの後にも、第六レースが控えている。

 ここですべてを出し切る訳にはいかないのだ。

 そこは戦略的な判断を男騎士は下した。


 数にすれば、二対六。


 おおよそ三倍の兵力による戦い。

 戦の理においては、負けることはないだろう。

 しかしこれから行われるのは極めて局所的な個人戦。数の優利より、技の優劣が意味を成す修羅の世界である。


 走る緊張にさしもの男騎士も汗を流す。

 そんな緊迫を破って、先にまず飛び出したのはやはり一個ずば抜けた戦闘力を持つからくり娘。


「では参ろう!! 昨日の死合の決着をつけようぞ!!」


 真っすぐに男騎士を見据えてその凶刃を閃かせる。

 研がれた白刃が陽の光を弾いて走れば、男騎士の肩当を掠めて微かに横に逸れる。男騎士、その間に身を入れて肉薄すると、もう片方の肩に力を入れて、向かい来るからくり娘を弾き飛ばした。


 黒髪のからくり娘『クマ』である。


 いきなりフルスロットルでの戦闘開始。


 ある程度は覚悟していたことではあったが、男騎士は呼吸を整えてすぐさま仲間に命令を下した。


「ロイド!! ギリンジ殿にモッリ三兄弟はそちらのからくり娘を!! また海面からの支援攻撃もあると思われる!! 各々、注意して当たってくれ!!」


「ほう、一騎討ちと来たか――そうでなくては!!」


 男騎士対からくり娘『クマ』。

 そして、彼以外の戦士たち対からくり娘『ユキカゼ』。

 あまりにバランスの悪い戦闘態勢ではあったが、男騎士は根っからの戦闘狂である『クマ』をして、中途半端な連携は難しいと考えた。


 そして、あえて単騎での戦闘を決意した。


 自分たちの力不足を突き付けられるその提案に、青年騎士たちにも思う所はあった。しかし、それが最適であると彼らも納得してそれを受け入れた。

 だからこそ、彼らも全力で金髪のからくり娘――『ユキカゼ』へと当たる。


 ユキカゼ。

 その金髪の房を揺らして、やれやれという風に首を振る。

 からくり娘の硬質な表情。しかし、それにも関わらず、彼女の顔の下には嘲笑が浮かんでいた。


「五人がかりとは驚きましたよ。なかなか、男らしくないことをしてくれるじゃありませんか。大陸の戦士とはそういうものなのですか」


「この場で大陸の戦士は僕だけだ」


「そちらこそ、機械の身体をいいことに、酷い攻撃を仕掛けてくるではないか」


「そういうこと――お互いさまということでひとつ行こうじゃないか」


 使い込んだ両手剣を握りしめる青年騎士。

 魔剣ダインスレイブを突き出して構える若船団長。

 そして、早着替えでピンク褌になるや、構えるモッリ水軍長男。


 戦いに卑怯も糞もない。

 勝った者が正義なのだ。

 甘ったるいことは抜かしてくれるなよと青年騎士たちがにじり寄る。


 しかし、金髪のからくり娘は、またしてもそんな彼らに嘆息する。


「幸運の『ユキカゼ』も舐められたものですね。五人がかりならなんとかなるだなんて。まぁいいでしょう、お相手してあげましょう」


 そう言って、彼女は自らの懐に手を突っ込んだ。

 武器らしい武器を手にしていないからくり娘。おそらく、暗器の類を忍ばせているのだろうと、青年騎士たちも会敵してすぐに警戒していた。

 すかさず、させるかと青年騎士が前に出る。


 どんな暗器でも、出す前に叩けば問題ない。

 なにより、取り出して攻撃動作に入るまでに隙がある。

 負けるはずがないと踏み込んだ彼であったが――。


 その目論見は思わぬ所で外れた。


 はたして『ユキカゼ』が取り出した暗器。


 それは。


「……ラッパ!?」


 にっとほほ笑むやそれの吹き口に唇を添えるからくり娘。

 ぶわりと胸が膨らんだかと思うと、まるでふいごの如く、その黄金色の筒の中に彼女は空気を送り込んだ。

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