第671話 ど次男さんと新女王さん

【前回のあらすじ】


「いやーん、大事な所の布が!!」


「こんなの丸出しじゃ戦いに集中できない!!」


「一度に二つの剣を操ることなんてできないよぉ!!」


 ハレンチ剣法炸裂。

 無自覚に繰り出した剣先により、襲い来る男海賊たちの腰布をこれでもかと引き裂いていく新女王。


 なんだかんだと不安なことを言いつつ、彼女は近接戦闘もできる女であった。


 それも、割とエグイ感じの攻撃をするタイプの。


「「「もう、お嫁にいけなーい!!」」」


 モッリ水軍のむくつけき男たちが総崩れ。

 それも予想外の感じで。えげつなく行われるチ〇モロ無双に、女エルフいつものどエルフ顔であきれ果てるしかないのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 モッリ水軍の攻め寄せる兵たちは最初こそ景気が良かったが徐々にその勢いをそがれていった。というのも、全ては新女王のチ〇モロ無双によるところが大きい。


 彼女の振るう無慈悲の太刀により、恥ずかしい所をもろに出した海賊たちは軒並み戦意を喪失し、すぐさま海の中へと帰って行った。


 まともに戦うのが馬鹿らしくなる一幕である。

 とはいえ、勝ちは勝ちであり勝負は勝負である。それで相手が引くのならば、それはそういうモノとして、女エルフも女船長とその一団もそう割り切った。


 かくして、押し寄せたモッリ水軍の大軍が半分以上押し返された頃だろうか。


「……ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ。つ、疲れましたぁ」


「エリィ、よく頑張ったわ」


「ちょっと休んでもいいですかお姉さま。なんだか、剣を振り回しているだけなのに、とても疲れてしまって。こう、人を斬ったりとかした感じはないのですが、それでもやっぱり、剣を振るうというのはそれだけで疲れてしまうというか」


「うん、休んで頂戴、あんたはホントよく頑張ったわ」


 遮二無二剣を振り回して騒いでいただけ。

 襲い掛かってくる海賊の集団から逃げ回っていただけ。という認識の新女王は、青い顔をして女エルフの下に戻ってくる。


 しかしながら実際の所はチ〇モロ無双。

 多くの男たちを戦闘不能に陥らせ、羞恥心から撤退させた彼女はもう十分な仕事をしていた。


 そんな彼女をねぎらうように、そして、自分のしでかしたことに気づかないように、そっとその惨状から視線を逸らしつつ女エルフは新女王を後ろに下げた。


 モッリ水軍側については戦況は完全にこちらに優利に働いている。

 あともう一押し、決定打があればモッリ側は引くだろう。だとして、その一息をどう繰り出すかが問題である。


 女エルフは戦場を俯瞰するように眺めた。


 女船長と切り結んでいるのは、いかにも敵側の力自慢という感じの大男。

 船上だというのに大戦斧を振り回し、激しい打ち込みを繰り出してくる。


 それを紙一重で交わしながら、確実にカトラスによる一撃を決めていく女船長もまた見事。

 まさしく一進一退の攻防と言って差し支えない。


 とはいえ――。


「あれが大将って感じはしないのよね」


 大戦斧を振り回す男は明らかに周りに指示を出していない。

 おそらく、敵方の特攻隊長的な立ち位置の人物だろう。


 故に、彼を倒した所で、モッリ水軍の組織力に決定的なダメージを与えられるわけではないと女エルフは感じていた。


 それよりも今やるべきことは、この一団を指揮している男をどうにかすること。

 しかし、その姿が見当たらない。


「いったいどこに――」


 そう思った瞬間に、女エルフの眼前で強烈な閃光が弾ける。


 照明弾。

 しかしながら人の視力と聴力を奪うのに十分な爆発力を持ったそれに、女エルフは咄嗟に防御魔法を繰り出す――が間に合わない。

 響く耳鳴りと共に舌打ちしたかと思ったその時。


「その首、貰った!!」


 下段から這いずり回る蛇のように迫りくる男の影。

 ざんざんばらに切られた荒々しい髪に、これまでの海賊衆たちと変わらない日に焼けた細身の体躯。


 しかしながら、強靭な刃物を思わせる荒々しい男が、女エルフの首元に向かって鋭い刀を向けていた。


 カトラスよりも随分細い。

 まるで針のようなその武器に、目を奪われた女エルフ。


 反応が遅れ、後ろに下がる時間もない。不覚を取った。そう彼女が死を覚悟したその瞬間――煌めく流星のような一太刀が、男の手にする剣の腹を突いて、その軌道を逸らした。


 同時に、サイドステップで飛びのくと、そのまま受け身で甲板を転がる男。

 起き上がるや否や、狂犬のように獰猛な視線を仕留め損ねた女エルフに向けて、むき出しの闘争心を隠すことなくぶつける。


 しかしながらその奥底には、女船長と鍔迫り合いを繰り広げる大男と違い、明確な知性が見て取れる。この戦場に置いて、誰を倒すことが決定的な勝利に近づくのか。それを冷静に算段している、そんな瞳であった。


 どうやら――。


「貴方が、モッリ水軍の頭領みたいね」


「おっ、ご明察。なかなか話の分かる奴じゃねえか。閃光弾を喰らってふらついているっていうのに、すぐに判断する辺りが実に聡い。首と胴体を泣き別れさせるにゃ、もったいない女だぜ」


 くかかと哄笑を漏らす狂犬のような男。


 モッリ水軍の将――細身の剣士は不敵に笑うと、上段でも中段でもない、後ろに剣を引いて独特の構えをする。しかしながらその体から昇り立つ剣気は本物。まぎれもなく男騎士に勝るとも劣らない、一流の者であった。


「モッリ水軍は三頭領が一人。次男ハル。その方、女だてらにこの船団の将とお見受けした。であれば、その首、ここでもらい受ける」


「そんなことはこのエリィがさせません!! お姉さま、下がってください!!」


 さきほどまでのへっぴり腰はどこへやら。

 女エルフの前に出てかばったのは新女王だ。


 女エルフの窮地を救ったのは、後ろに下がろうとしていた新女王。

 彼女は義姉の危機に、疲れた体を奮い立たせるとすぐさま神速の一撃を繰り出して、襲い掛かる敵の凶刃を弾いて凌いだ。


 いわんや、それまでの無意識の攻撃とは違い、意図して繰り出したその一撃は、女エルフの命を危うい所ではあったが救った。


 自分の身よりも大事な女エルフの大事に、すわ怒り心頭という感じである。

 ここに、新女王とモッリ水軍三頭領が一人との勝負の舞台が整った。

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