第662話 ど男騎士さんと北海の荒くれ

【前回のあらすじ】


 GTR(グレート・ティー・レース)、第一レース開催。

 先頭を行くのは凪の海を人力により漕ぎぬいた北海の荒くれ――北海傭兵団であった。むくつけき男たちの逞しい腕により、櫂が荒波をかき混ぜて船が進む。


 しかし、そこに颯爽と伸長した風のパンツで現れる男騎士&氷の精霊王の力により海を渡って駆け付けるワンコ教授と男騎士の弟子たち。

 レースと言っても、ただのレースではない。

 妨害・乱闘・なんでもありのバーリィートゥードレースである。


 主人公にあるまじき暴挙で、敵陣に乗り込んだ男騎士。

 はたして彼に勝ち目はあるのか。


 そして――。


「俺たちが、俺たちこそが、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムだ!!」


「嘘でしょ!! ドットコムとかいったいいつの時代の表現だと思っているの!! それつければ、なんか知的な感じがする時代はとっくの昔に過ぎ去ったよ!!」


 パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム。

 この部の副題の意味が、いまここであきらかになる。


 はたして、そんなチーム名で大丈夫なのか。

 本当に大丈夫なのか。北海傭兵団の若船団長が言っているように、時代遅れがはなはだしいのではないか。

 というか、北海傭兵団の連中、随分ノリがいいんじゃないのか。


 そんな疑問を抱えながら、今週もどエルフさんはじまります。


「ねぇ、私の出番がないのにどエルフさんってタイトルはおかしくない?」


 はじまります!!


◇ ◇ ◇ ◇


 男騎士たちは強かった。それはもうやたら滅法強かった。

 まず、剣を振れば必ず敵を倒す男騎士の腕前についてはもはや作中で幾度となく触れて来たので今更説明する必要もないだろう。今回もまた、若船団長を守ろうと向かってくる北海のあらくれどもを、魔剣エロスで有無を言わさずに峰打ちにした。


 戦士技能レベル9。

 人類最高峰の剣技の前には、もはや常人ではなすすべもない。ただただ、圧倒される形で北海傭兵団の兵たちは倒れていった。


 次に仕事をしたのが、男騎士と一度本気の試合を繰り広げたからくり侍だ。男騎士と違って、体全てが武器の彼女は、ありとあらゆる場所から武器を繰り出しては、不意打ち上等と北海傭兵団の者たちを船底に眠らせていった。


 戦いの定石の一つは、人に得意の攻撃をさせないこと。

 からくり侍の手数はまさしくそれを可能とし、北海傭兵団得意の数による密集攻撃を、ひらりと躱して寄せ付けなかった。


 とはいえ、そこは体の造りのもろいからくり侍である。

 男騎士と比べれば、一撃一撃が軽い。また、剣を合わせるごとに、相手にその術利が読まれていき、徐々にその撃破数は少なくなっていった。


 それでも、まるで鎌首を上げた大蛇の如く、海空を舞う彼女の鎖に巻き取られて、分銅に弾き飛ばされて、どんどんと北海の兵たちは武器を取りこぼしていく。

 まさしく八面六臂。天地自在に宙を舞うからくり侍を、捕らえられるものは北海傭兵団の中にいなかった。


 さて、次に活躍したのが誰かとなれば――。


「だぞ!! そこなんだぞ!! 氷結!!」


「はいはい」


 ワンコ教授である。


 今日という日まで、氷の精霊王を使ってこなかった彼女は、流石に精霊たちの王である彼女の力に驚いていた。それと同時にその力を十全に使いこなしていた。


 指示した先に現れるのは氷の床。

 北海の兵と言っても、海上戦を想定している。

 いきなり現れた滑る床に、脚を取られて彼らはすっころんだ。


 かなりの重量のある鎧と共に、ひっくり返るとこれが地味に痛かったりする。

 いわんや、ワンコ教授の地味な氷結攻撃は、思いがけず北海傭兵団を苦しめた。


 というよりも。


「だぞ!! どうしたんだぞ!! かかってくるんだぞ!!」


「ふふっ、いい大人たちが雁首揃えて情けないわねぇ。どうしよう、もう少し遊んであげましょうか」


「……くっ、幼女二人が相手とは」


「……これはまた絶妙に遣り辛い」


 北海の荒くれ者たち。略奪、襲撃、殺戮などはお手の物。泣く子も黙ると評判の彼らだったが、思いのほか女子供には優しかった。

 仕方ない。彼らとて人の子である。人の親である。

 傭兵団として、他国を荒らしまわることでしか、生計を立てられないからそうしているだけで、何も生粋の戦闘狂という訳ではない。

 快楽殺人者という訳でもない。


 自分の子供、あるいは子供がそれくらいだった年頃を思い起こせば、迂闊に手は出せなくなる。


 しかも――。


「ぬはは!! たいしたことないんだぞ!! このケティさまの氷結攻撃の前に、ひれ伏すがいいんだぞ!!」


「ちょっとケティ。魔法使ってるのは私よ。なんでアンタがそんな偉そうなのよ」


「くっ、護りたいこの無邪気さ」


「犬耳少女尊い」


 犬は喜びなんとやら。

 氷魔法ではしゃぐ犬耳少女に、北海傭兵団はすっかり骨抜き。


 もはや棒読みでやられたーなどと言いながら魔法にかかっていく。


 哀れである。

 男やもめたちが北海傭兵団には多かった。

 すじがねいりのおとこやもめばかりだった。


 さて。

 そんな哀れなおとこやもめたちより、更にあわれなのが男騎士一行にもいる。

 一人だけいる。


「りゃぁっ!! つぐぅっ!!」


「おらおら!! おぼっちゃん剣法じゃ、俺たちは倒せないぜ!! やる気があるのかボゥイ!!」


「なんのこれしき――せいやぁっ!!」


 青年騎士である。


 いわんや、この男騎士たちについてきた仲間たちの中で、もっとも役に立っていないのは、あろうことか彼であった。何分、騎士団の教則に従った礼儀剣法しか知らない彼である。実戦の経験もそこそこだ。


 それに対して、戦場、一騎討、とにかく戦乱の中で生き抜いてきた、北海傭兵団はすこぶると相性が悪い。


 彼らの繰り出す攻撃は、礼儀剣法とは違って効率的、そして変則的。

 そんな変幻自在の太刀筋が、実践を知らない青年騎士に、容赦なく襲い掛かる。


 とはいえ、彼も男騎士と共に、大陸の危機を救った者の一人。


「見切った!!」


「なにぃっ!!」


 荒っぽく、乱暴な傭兵団のあらくれ戦法を打ち凌いで、なんとか彼は勝っている。一団の中で最も低い勝率だったが、それでも着実に勝利を重ねていた。


 地味な剣である。

 しかし、そう言う地味さが、時に戦場で意味を持つこともある。


 そんな信念を感じさせる、青年騎士の太刀筋を眺めながら。


「さて、それでは、こちらも大詰めと行こうか、北海傭兵団の船団長どの」


「……くっ、やはり、逃げられないか」


 男騎士と若船団長。

 ついに二人の戦いが火ぶたを切って落とされた。

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