第663話 ど若船団長と魔剣
【前回のあらすじ】
現在の男騎士パーティの攻撃力の順。
男騎士>からくり侍>ワンコ教授(氷の精霊王)>青年騎士
以上。
「うぉい!! ちょっと、いきなりなんでもおざなりじゃないの!! なんかもったいつけて仕切り直しみたいに戦闘描写をしておいて、それはちょっと、いくらなんでもおざなりなんじゃないの!!」
そう、なんか小説なのにそういう描写が最近少ないなとか思って、頑張って書いてみたけれど、先週の時点でそれなりに書いていたので、書き終わってから、あれ、これ無駄じゃねえとか思ってしまった作者です。
なので、あらすじはさっくりと。
「さっくりとじゃないわよ!! ちょっと、ちゃんとやりなさいよ!! ストーリーの流れとかそういうのをさくっと分かってもらうためのあらすじでしょ!! なんでそこで、ひょいと省略しちゃうのよ!! おかしいよね!! おかしいわよね、これいくらなんでも!!」
まぁ、毎話、毎話に前回のあらすじがあるという時点で、いろいろとお察しな訳なんですが。
「いまさらだなぁ!!」
それだけ余計な描写が多いと言いますか。
コアな部分が少ないといいますか。
まぁ、本当の所は、前回がどういう話だったか、要点をまとめることで、読む方も書く方も情報を整理しておこうという意図ではじめたんですがね。
いやはや。
なんにしても、北海傭兵団は男騎士たちの手により手痛いダメージを受けた。
北海傭兵団を率いる若船団長に男騎士が迫る。
という所で、さてどうなることやら。
今週も、ボケはそこそこバトルメインとなりそうです。
男騎士VS若船団長の戦闘をお楽しみください。
◇ ◇ ◇ ◇
銀色の髪を揺らして若船団長がため息を吐きだす。
北海の冷たい海風に鍛えられたら身体から吐き出された吐息は、東の果ての海でも白く濁っている。
唇の端から漏れ出たそれは、糸を引くように海風に吹かれて漂う。
「……舐めたまねしてくれるじゃないですか。北海傭兵団をそんじょそこいらのごろつきと同じくらいに考えているのなら、腕の一本や二本じゃすみませんよ」
否。
それは、ただの吐息ではない。
昼前の熱いうみかぜのなかで、漂う呼吸は若船団長が身に着けた御業によるもの。握りしめたカトラスの先からも怪しくにじみ出るそれは同じもの。
魔力が空気中に漏れ出しているのだ。
黒目がちな瞳の中に青白い光が漂ったかと思えば、なめし皮からカトラスを抜き去って下段からの逆袈裟。
男騎士の間合いに一瞬にして飛び込んだ若船団長は、冒険稼業の長い男騎士にしてみても、久々に痺れるような強烈な一撃を繰り出してみせた。
しかし、そこは男騎士。
落ち着いて半歩後ろにさがって避ける。空を斬った逆袈裟は、男騎士の顎先を掠めもせずそのまま空へと舞う。
重力に従ってそれが止まりかけたタイミングを見計らい、軽く男騎士は上段に構えていたエロスを振るってそれを叩き落とした。
カトラスが絡め取られる。
尋常の剣技であればその道理である。男騎士の土壇場にあっての心の落ち着きが、勝負の明暗を分けるような場面であった。
だがしかし――。
それは尋常の立ち合いの範疇になかったのだ。
まるでそうされるのを読んでいたとばかりに、カトラスの峰をエロスの刃に当てる若船団長。それと同時に彼は男騎士に背中を向ける、なにをと思った次の瞬間には、エロスを弾いてそのまま返し刃。
中段、男騎士の横腹に向かって、体重のかかった一撃を繰り出した。
これまた一瞬、目を瞑るよりも早いやり取りであった。
男騎士、この矢継ぎ早に繰り出される剣技の応酬に、どう応えるか。
いつもであればフルプレートアーマーを着込んでいる彼だ。鎧の厚い部分を当てて、カトラスなどの鋭利な剣については凌ぐのだが、ここに来るためにいつもの鎧は置いてきた。
今は、風のパンツの亜種である、風の帯を体に巻き付けているだけである。
いつもの受け方はできない。
いささか迂闊だったと反省しつつも、手は考える。
「……ふんっ!!」
弾かれたエロスをそのまま彼も逆方向に返す。
まさかまさか。その切っ先をギリギリカトラスに当てると、わき腹を掻っ捌こうかというそれを止めて見せたのだ。
もはや人間のなせる業ではない、流石の戦士技能レベル9という、変態染みた防御であった。
「おう、ティト、なにを油断してんだ!! シャンとしやがれ!!」
「すまん、この男――見かけによらずなかなかの手練れのようだ」
「見かけによらずねぇ。まぁ、北海傭兵団の船団長の中じゃ一番若いですよ。タッパも足りていない。正直に言って、傭兵としては一段の中じゃ一等劣ると自分でも理解はしているつもりです」
ですがね、と、マントを振り払って若船団長がその身を露にする。
皮鎧。
必要最低限の急所を守るように鋼が裏打ちされたそれ。
軽装の剣士のいで立ちだ。
戦場での切った張ったには、重い武器が使用されることから、それを十分に防げるだけの厚い装備が必要になる。
しかし、海上となると、揺れる足場での戦いを考慮して、バランスのとりやすい軽装が好まれる。もちろん、海上戦ばかりが彼らの華ではないが――そういう戦い方が必然的に好まれるようになるし、戦いの基本となってくる。
漏れ出る魔力と溢れる剣技の才能。
これだけの技を繰り出しておきながら、奢ることもなく、かてて、防がれたことに慌てふためくわけでもなく、超然と男騎士に向かう若船団長。
若くして船団を任されるだけはある。
腕っぷしだけではない、確かにそれだけの精神的な実力も持ち合わせていた。
そして――。
「剣技だけじゃ抜けそうにないな。アンタ、相当の手練れとお見受けした」
「手加減せずに全力でこい」
「北海傭兵団の一団を任されている身だ。僕もおめおめと負けるわけにはいかない。悪いが、我が魔剣の権能を使わせてもらうぞ――」
預けられているのは船団だけではない。
力――すなわち魔剣を彼は与えられていた。
握りしめるカトラスは、エロスと同じく神秘の力を宿した一振り。
「ダインスレイブ!!」
北海の若船団長がそう呟くや、すぐに彼の手の中のカトラス等が呼応するように鈍く光る。魔剣エロスにより、その軌道を抑えられた魔剣であったが、すぐさまそれは再び空を斬ると、若船団長が身をひるがえすのに合わせて流麗に舞った。
漏れる魔力の霧がさらに濃くなる。
そしてそれは――男騎士の身体にまとわりつくように絡みついた。
「行くぞ。我が魔剣は霧立つ一振りダインスレイブ。汝の死の匂いを嗅ぎ分ける。貴様にまとわりついたその霧の先が、切っ先の行き着く先よ。一度この剣を抜かせたことを後悔するがいい、中央大陸の戦士よ」
「……面白い!!」
霧を裂いて男騎士へと若船団長の剣が走った。
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