第631話 ど男騎士さんたちとヌーディストビーチ

【前回のあらすじ】


 ヌーディスト。ヌーディスト。南国と言ったらヌーディストビーチ。


 一糸まとわぬヌーディスト。

 生まれたままのヌーディスト。


 そう、海に入るのに布など不要なのである。そう布など不要なのである。

 人間は生まれた時から完成された姿をしているのだ。

 その姿を衆目に晒すことがいったいなんの恥だと言うのか。


 ヌーディスト。そう、人間は裸になるために産まれてきた。

 人を生んだ母なる海にて、人間は生まれたままの姿に戻る。


 さぁ、みんなレッツヌーディスト。

 めくるめく己をさらけ出す世界へ。


「……作者の頭がたいへんなことになっている!!」


 連日うだるような暑さの中仕事をしていてちょっとしんどいっす。そこに加えて、夏休みに向けての書き溜めと、公募一次落ちの畳みかけで、メンタルガガガ……。

 エロいことでも考えてないとやってられませんよこっちも。


「だからって唐突のヌーディストビーチってそれはどうなのよ!! この小説の読者は、そんな展開望んでないと思うわ!! エロタグ付いているけれど、まったくエロ要素のない、下ネタ百裂拳のこの小説に、そんなの求めていないと思うわ!!」


 安心しろモーラさん。

 君の不人気も今日までだ。胸ボローンの、尻チラーンのうっふーんしたら、どんな小説でもたちまち大人気。星も入るし、応援も入るし、読者コメントでも待ってましたと気さくな感じなのが入るのに違いなし。


 あえてここまで禁じてきたエロネタを今ここに解く。

 そう長き宿縁――フォロワー増えるけど星があんまり入らない――に終止符を打つ時が来たのだ。


「全裸で河原に倒れてる人の台詞!!」


 という訳で。


 次回、ドエルフリスクスケベ忍法帖『鬼哭羞々』。

 よくわからんけどサービスサービス!!


「パチンカス感あふれる感じの不安な煽り!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 ヌーディストビーチにやって来た男騎士たち。

 股間に一本、剣をぶら下げてやってきた男騎士は、その光景に絶句した。

 見渡す限りの白浜。打ち付けるエメラルドの波。南国の広葉樹が立てる涼やかな風音。どこからともなく聞こえてくる陽気な歌声。


 ここがヌーディストビーチ。


 夢にまで見た裸の園。


 人間たちが羞恥心を得るとともに入ることを禁じられた楽園。


 しかし――。


「何故、男しか居ないんだ!!」


 世の中、そんなに甘くはない。

 男騎士たちの前に広がったのは、男の汚いケツケツケツである。弛み切ってみる箇所もないケツもあれば、あせもやらなにやらで手の付けないケツ、明らかに変な病気を貰っているような感じのケツ。

 そんなケツがずらりと並んでいる。


 そして、そんなケツを晒した男たちが、海に向かって前を向けながら満足げな顔だでこちらを見返してくる。


 あぁ、お前もそうか、ひっかかっちまった口かと、そんな憐みを籠めた視線で男騎士を見てくる。


 だいたい彼らの視線の意味する通りであった。

 世の中、ヌーディストビーチなんて数あれど、男と女がヌーディストで鉢合わせるような、そんなビーチはありゃしない。だいたい男と女で別れている、温泉みたいなのが一般的なのである。


 そう、ヌーディストビーチだからと言って、ヌーディストな出会いはないのだ。

 裸になるためにヌーディストビーチに来るのであって、裸を見るためにヌーディストビーチに来るわけではないのだ。

 そこの所を、男騎士たちは勘違いしていた。


「ティトさん!! 僕は、僕は憧れの、眼鏡系インドア派ドスケベ女子が、勇気を出してヌーディストビーチにやって来ていると信じて!! 信じて貴方について来たのに!!」


「ロイド!!」


 肩を震わせて、悔し涙を流す青年騎士。

 まだ鍛えきれていない若々しい体と、一皮むけていない未熟な股間の剣を振るって彼は悔し涙を流していた。


 どうしてこんなことになってしまったのだ。

 男騎士の胸を、筆舌し難い後悔が走る。

 ついさきほどまで期待に股間膨らましていた青年騎士。しかしながら、それが無様に打ち砕かれる展開に、彼は戦慄を覚えずにいられなかった。


 それだけではない。

 膝を折り砂浜に倒れ伏す青年騎士に、彼は得も言われぬ怖気を感じた。


 尻の〇の異様な綺麗さ、線の細さ、色っぽさに妙な感じを覚えた。

 そして、わざわざ股の間に手を通して、見ないでとばかりのポーズをする彼に、どぎまぎとした。そんな所に手入れをして、いったいなんになるんだろうかと、思いながらも男騎士の心臓は戦慄いた。


 男騎士の心は、既に海獺鍋状態大混乱であった。


「ロイドの言う通りだ、こんなの信じらんねえぜ」


「エロス!!」


「ちっちゃいのからおっきいのまで、たわわたぷんな女の子たちが丸出しで待っていると思っていたのによう。どうすんだよ。俺の刀身から湧き出るこの剣気を。このオーラを。どうしてくれるっていうんだよ」


 浜辺にビーチパラソルにしては小さいが、突き立てられている魔剣エロス。

 いつもなら名剣に恥じることない直刀が、どうしたことか今日は病だれのようにぐにゃりと曲がっていた。

 コミカルに、とほほという感じに曲がっていた。


 剣の身である彼には、当然のようにヌーディストになる部分はない。

 しかしながら、心にはちんち〇があった。彼の心には確かに、まごうことなきちんちんが備わっていた。

 そのちんちんに誘われるまま、やって来たヌーディストビーチで、この仕打ち。


 その刀身から、マツタケの露が微かに滴った。

 海風にあてられて流れたものかは分からない。

 どういう成分かもわからない。

 けれども、ねばっとしていてどろっとしている栗の花を感じさせる匂いの液体であった。


「うぅっ!! どうして、どうしてヌーディストビーチなのに!! 男ばかりなんだ!! 汚い男の尻を眺めながら、何をしろっていうんだ!!」


「落ち着けエロス!! まだ女性がいないと決まった訳じゃない!!」


「いたらもっと大騒ぎになっているってえの!! ちくしょう、現実は残酷だぜ!! 男女混合のヌーディストビーチなんて存在しやしないんだ!!」


 悲鳴をあげる男騎士の仲間たち。

 どうしてこうなったとまた男騎士が眉根を寄せて、股間を引き締める。


「ヌーディストビーチとは、いったいなんなのだ――」


 分からない。


 その存在意義が分からないという感じで呟く男騎士。

 そんな彼の頬にもマツタケの雫は流れていた。


 男たちは泣いた。

 スケベな男たちは泣いた。

 ひとしきり泣いて、泣いて泣いて泣き暮れて、それから、せっかくなのだからフルチ〇で海に入ってちょっとしんみりとした空気に浸ろうと思い至った。


 まだ明るいエメラルドの海を眺めて、股間の剣を揺らすのは――意外と気分の悪いものではなかった。


 そう。

 悪いものではなかった。


「あぁ、なんて解放感」


「まるで社会の窓を開け放つような心地」


「すべてをさらけ出す勇気。ヌーディストビーチで俺たちは一つ大人になった」


 などと言っているが、ヌーディストビーチに女性がいないことに未練たらたら。

 あとから入って来た者達に視線を向けずにはいられない、男騎士と青年騎士と魔剣エロスなのだった。


 なお、このヌーディストビーチは、男性専用となっております。

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