第609話 ど男戦士さんと一計
【前回のあらすじ】
ついに再会した第一王女と女傑カミーラ。
おいさばらえ、見るも無残、面影も少ししか残っていない彼女に絶句するパーティーメンバーたち。
「あらまぁ、大きなおまんじゅう。どうしましょう、食べられないわエリィ」
精神を摩耗してまで戦った女王に感服し、頭を下げたハゲ修験者。それに対してこの言いぐさ。もはや彼女がまともに自分の置かれている状況を理解できていないのは明白だった。
どうしよう、と、声を漏らす第一王女。
そんな彼女に第二王女は心配ないわという表情で歩み寄った。
そして、彼女はこの場に女王を引き連れて現れた理由を言葉にする。
「エリザベート。貴方が戴冠する時が来ました。もう貴方は、立派な女王です」
承兌書状こと、第一王女に送られた脅迫の手紙。
その差出人が不明なままに、あれよあれよといろいろな話が進んでいく。
女王としての資質を第一王女は既に持っている。
そう認めた第二王女こと白百合女王国の影の守護者。
これにより、第一王女は白百合女王国の女王として正式に即位するのか。
女エルフたちとの旅はどうするのか。
なにより――。
「エリィ。ごはんはまだかい。あと、私の下着はどこだい。セクスぃーなの。セクスぃーなのがええのう。紐みたいな奴とかが」
このボケ老婆の世話はどうなるのだ。
そんな疑念を残したまま、今週最後の更新。
視点は、事態の黒幕へと移動いたします。
◇ ◇ ◇ ◇
「……ふむ、思った通りだ」
「あっさりとエリザベートちゃんの才覚を認めたわねローラちゃん。まぁ、ちょっと過保護な所があるからねぇ。気持ちは分からないでもないけど」
「もう二十も越えたいい大人なんだから、つべこべ言ってないで好きにさせてやればよかったんだよ。だいたい世の女どもは過保護でいけねえ。かわいい子には旅させてやるんだよ。それくらいでちょうどいいんだ」
女エルフたちがいるジューン山の頂。
梁山パークの本拠地を見守る四つの眼と一つの刀身があった。木々の合間から、ことの成り行きを窺っているのは他でもない。この一連の事件の黒幕であった。
呪いにより知力が逆に上がった男騎士。
そして、そんな彼の愛剣エロス。
その愛剣のかつての恋人にして、女エルフの母親の化身――聖刀。
彼らの表情に、女エルフたちの困惑はない。
梁山パークからの書状が偽物であった衝撃も。
第二王女が無事だったという安堵も。
女傑カミーラの存命とぼけっぷりも、全て織り込み済みであった。
第二王女の動向については男騎士も把握している。
唯一不明だった女傑カミーラの安否については、頭の片隅にこそあったがそもそも心配はしていなかった。彼女の伴侶であるモノリス男からかかる事情はあらかじめきいていた。
なにより、女傑カミーラのしぶとさを、男騎士は嫌と言うほど知っていた。
たとえ殺しても彼女は死なないだろう。
そして最後――。
「見事ねティトくん。君の狙い通り、白百合女王国は一つに結束。更に、梁山パーク首魁のコウソンショウの心まで射止めてみせたわ。上々の成果じゃない。これでもう誰もエリザベートちゃんの即位と、旧政府の復権に口を挟む者はいないわ」
「ここまで首尾よくやりゃあなぁ。たきつけた甲斐があったってもんだぜ」
「エリィならやってくれると信じていた。いや、モーラさんも一緒だったからな。いざとなったら、彼女がサポートしてくれると信じていた。だからこそ、偽書も用意したし、第二王女の身の上も利用させてもらった」
書状の出所についても彼は把握していた。
そう、なぜならば――。
今回の一件。
第一王女たちをけしかけるような書状をしたため、梁山パークの軍備が不完全な状態で、戦闘を発生させたのは、他ならない男騎士だったからである。
普段であれば、剣を振るって仲間を守ることしかできない男騎士。
しかし、ハゲ修験者のかけた呪いと
そう、全て、ここまでの流れは男騎士の掌の上での出来事。
マスクの中に埋め込まれた赤い瞳がきらりと光る。
想定通りという感じに頷くと、彼は腕を組んだままゆっくりと林の中から女エルフの方へと向かって歩き始めた。
ふと、その足取りが途中で止まる。
振り返るとそこには、林の中で待っている聖刀の精の姿があった。
「いかないのか?」
問うたのは男騎士の方だ。
魔剣エロスは、彼の腰にぶら下がってなにも言わない。
そいつの意思は固い、何を言っても無駄だよとばかりに無言を貫いていた。一方、知恵の回るようになった男騎士には彼女が待つ理由も当然分かる。
実の娘に、どういう顔をして会えばいいのか分からないのだ。
自分の存在をあきらかにしていいのか、そんなことを考えて足が止まっている。
そして、その決意は魔剣の言う通り、決して軽い物ではないだろう。
男騎士は聖刀に化けた女エルフの養母の気持ちを思いやった。その上で、娘と会っていかなくて本当にいいのかと、彼女に尋ねたのだった。
聖刀トウカはその問いに背中を向ける。
その態度が、もはや答えだった。
「大丈夫よ。子離れ、私もしなくっちゃね。なにより、こんな所で出会ったら、あの子、私を帰してくれなくなっちゃうわ」
「いくのか、セレヴィ」
「えぇ。偽物の英雄を先導して、貴方たちの旅をかく乱するのが私の役目。そのためには、しばらく、立派になった娘との再会は遠慮しておくわ」
当然、分かっているわよねと言う沈黙。
彼女とここで出会ったこと。
彼女の正体。
そして、無念を心に秘めて、この場を去ったという事実。
全て全て、それは女エルフに話してはいけないことである。
話せば彼女はまた、目の前の大魔導士を巡って動乱の日々を送ることだろう。
それだけは避けたい。
これから幾多の試練が待ち受けている男騎士たちパーティに、せめていらない心配をかけてあげたくないと思うのは、間違いなくかけ値のない親心であった。
「どうか、モーラのことをよろしくねティトくん。と言っても、君なら大丈夫だと思うけれど」
「買い被られても困る。けれど、約束しよう、絶対にモーラさんを不幸な目に合わすようなことだけはしない」
「……まぁ、ちょっと歪んでる部分はあるけど、信頼してええでセレヴィ。ティトは言うたら約束は守る男だ」
信頼する視線が男騎士に飛ぶ。
お願いするわよと言づけて、女エルフの養母はふっとその姿を魔法で消した。
娘も、母も、不器用な家族である。
しかし、だからこそ愛おしい。
まったく難儀な性格をしているなと見つめあう似た者同士の営英雄と魔剣。
さて――。
「問題はどうやって事態を説明するかだなぁ」
「だな」
「まず一番大切なのは、ティトを許して貰えるかなんだけれども」
「妙なプレッシャーをかけないでくれ。みんな、分かってくれると信じているさ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます