第606話 どエルフさんと希望の未来へレディーゴー

【前回のあらすじ】


 大決着。

 あふれる螺旋力(健康器具の回転数)により、見事に必殺技を完成させた女エルフと第一王女は、強敵の出雲虎が乗るバ・ラ・ザックを撃破。

 名実共に地球最強の称号を手に入れたのだった。


 これにてどエルフファイト閉幕。

 今回の優勝は、ネオエルフ代表のフェラリア・ド・スケベスキー。名前に負けじとも劣らない、どエルフな戦いっぷり。その戦いぶりは、これから先のどエルフファイトでも語られることになるだろう。

 まさに、名勝負。歴史に残る一戦であった。


「さて!! 舞台はここで宇宙へと移ります!! 戦いを終えたフェラリア・ド・スケベスキーを待っていたのは、倒したはずのバ・ラ・ザック!! 秘密裏にドエルフ共和国により回収された鉄の巨人は、彼女の大切な人を素体にして復活したのでした!! 再び、オカンバスターに乗って出撃するフェラリアとエリザベート!! はたして彼女たちは男騎士を取り返すことができるのか!!」


 それでは今週も、どエルフファイト、レディーゴー!!


「だから!! なんでいきなり違う作品のノリになるのよ!! ポロポロポロポロといい加減にして頂戴よ!! そんでもって、そういう話じゃないから、バカー!!」


◇ ◇ ◇ ◇


 崩れ落ちる鋼の薔薇。


 赤、緑、ツナギ色。

 メタリックカラーの装甲が、まるで鱗のように剥がれ落ちていく。

 崩落するその巨体がジューン山の山肌を抉って土ぼこりを上げる。

 けたたましい金属音がひとしきり鳴り響くと、打って変わってジューン山の頂上はしんと静まり返った。


 土煙のなかから崩れたバ・ラ・ザックの姿が見える。

 いい男の顔は、崩壊した様にばらばらになっていて、もはや福笑い状態。少しの原型もとどめていなかった。


 そしてその上に寝転がっているのは――。


「……む、無念。しかし、これが天命というものか」


 梁山パーク首魁のハゲ修験者。

 出雲虎こと聖ジョージであった。


 ぼろぼろに破れた修験服に立ち上がることも難しいという有様。

 もはや彼がこれ以上戦闘を続行することが不可能なのは、冒険者としては後衛職の女エルフにも目に見てあきらか。


 結局、魔法少女バトルか、巨大ロボットバトルか、肉肉プロレスかは定かではなかったが、彼らの戦いはここに決着した。


 ずももと土くれが崩れるような音がする。

 それは紛れもなく女エルフたちが乗っている巨大土偶――オカンバスターが崩れる音だった。勝利が確定したことにより、土の精霊王がその魔法を解いたのだ。


 赤土の上に降り立つ女エルフと第一王女。

 すぐに彼女たちは衣服をパージ。二十を越えた乙女たちが着るにしては、いささか際どい衣装を封印すると、倒れるハゲ修験者へと近づいた。

 彼女たちに法王とワンコ教授も合流する。


 四人の視線がハゲ修験者に注がれる。

 血のにじんだ瞼を上げて、彼は第一王女を一度だけ睨むと、それからふっと敗北を悟ったように乾いた笑いを吐いた。


「ワシの負けだ。やはり火事場泥棒のようなまねごとをしてもいかんな。我ら梁山パークは国に溢れる貧者を救うために立ち上がった組織。だというのに、権勢欲にかられて身に過ぎたる行動に出た」


「今更、そんなことを言うのですか、出雲虎しゅつうんこ


「最後に滔々と心情を述べるくらいは許して欲しい。ワシとて、一世一代の賭けをしてこの場に挑んでいるのだ。もっとも、そちらから攻めてくるとはいささか予想外ではあったがな。流石は彼の女傑カミーラの娘である。恐れ入った」


「……ちょっと待ってください? 貴方が我々に宣戦布告を仕掛けてきたのでしょう? この書状、忘れたとは言わせませんよ。こんなものが届かなければ、我々だってまだ軍備を整えていたというもの。ここまで事を急ぎませんでした」


 どうも話がかみ合わない。

 第一王女の言葉にハゲ修験者が眉根を寄せる。

 女エルフもまた同様だ。


 そんな状況で、第一王女は梁山パークから送られてきたという書状を広げると、それをしたためたであろうハゲ修験者に叩きつけた。


 さぁ、これでも白を切るのか。

 そんな感じで肩を怒らせる第一王女。

 彼女の眼にはいまやはっきりと、国の主としての怒りが映っていた。


 そんな彼女の憤怒を余所に。


「……なんだこれは!! こんな書状を送った覚えは我々にはない!! いや、確かに軍備を整えていたことは認めよう!! しかしながら、我らとて無益な殺生は本意ではない!! あくまで圧倒的な戦力差を前にして、白百合女王国の首都の民たちに寝返って貰おうと、そういう段取りであった!! なにより、このような卑怯千万な振る舞い、恥を知らねばできぬというもの!! 我ら梁山パークは、このような悪辣な手口は用いぬ!! 王道を持って国を取るならば取る!!」


 どういうことだ。

 逆にハゲ修験者は気炎を肩から上げるのだった。


 この反応に女エルフ一同に動揺が走った。

 第一王女が取り出した文を拠り所に、彼女たちは急ぎ梁山パークへと出兵した。下半身が馬並みになって戦いもしたし、急ごしらえの軍でごり押しのような戦闘もこなした。

 それもこれも、梁山パークの著しい侮辱と冗長に憤怒したからに他ならない。


 だというのに――。


「だぞ!! これはいったいどういうことだぞ!!」


「梁山パークの増長をねたむ、第三の勢力に偽計を使われたと考えるのが妥当でしょう。しかしながら、そのような勢力に心当たりなど――」


「二番手、三番手の反政府組織はありますが、規模では一等劣ります。我々を動かして首都を空にさせるにしてもとても単独で都市を制圧できるような力は持ち合わせていません。我々の力を削ぐための作戦とも考えられますが、一歩間違えば緊張状態を加速させるだけ。自分たちの体勢も整っていないというのに、そのような愚策に出ることはないでしょう」


「……本当にこれを書いたのは貴方じゃないのね、出雲虎しゅつうんこ?」


 あぁ、と、信念が籠った相槌を打つハゲ修験者。

 それでも足りないと言う感じに、彼は更に言葉を尽くした。


「我が師、我が流派、我が神に誓って断じて違うと申し上げる。重ね重ねになるが、そのような卑怯な行いは我らの望むところにあらず。我々は、白百合女王国の荒廃を捨て置けずに立ち上がったのだ――そのような私利私欲で動く者たちではない」


「悔しいけれどそいつの言う通りよ!! エリィ!!」


 その声はと第一王女が顔を上げる。


 声が響いて来たのは梁山パークの奥の方。

 多くの兵たちが逃げ去った方角。

 梁山パークの兵たちの宿舎。そこから現れた人影は彼女の見知ったものではない。しかし、声色は確かに聞き覚えのあるもの。

 そしてなにより。


「……おかあ、さま?」


 彼女が手押し車で押している、胡乱な表情をした老婆の姿が第一王女に何かを確信させた。


 そう、現れた人物こそは――。


「ここの連中は、本当に国のことを思って立ち上がった奴らばかりよ。拍子抜けするくらいにね。それについては私も、カミーラも太鼓判を押すわ」


「……ローラ? なの?」


 男騎士と共に梁山パークへ潜入した者。

 そして、この日この時まで、音信不通だった探訪者。


 白百合女王国を憂う者の一人。


 第二王女ローラであった。

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