第602話 どエルフさんとオカンバスター

【前回のあらすじ】


 指パッチンで大地が裂ける、敵が裂ける、ロボが現れる。

 あの監督の作品と言えば指パッチン。もちろん、巨大なロボットと人間がステゴロで殴りあうのも魅力だが、熱くて濃ゆいキャラクターが出てくるのも魅力だが、やっぱりそういう男心を捉えた演出がすばらしいのだ。熱いのだ。


「ほんともう!! やりたい放題にも限度ってものがあるんじゃないの!!」


 ミッテルの名が謁見する神々の名の中にあった時点で、ある程度は覚悟をしておいてよどエルフさん。むしろ既定路線だったよどエルフさん。


 という訳で。

 ここにてスーパーロボットならぬ、スーパー原母参戦。

 母なる地母神の土偶パワーがいまここに炸裂する。


 ファンタジー作品とは思えぬ超展開。まさかのロボットクライマックス。ミッテルの鉄の巨人と、地母神サッチーの巨大土偶。はたして勝つのはどっちか。


◇ ◇ ◇ ◇


 現れた巨大な地母神土偶。

 鉄の巨人と同じ身長。天を突く塔の如きそれは、しかしながらその複雑な形状から人の力で作られたものでないのはあきらかだった。精霊王――サッチーの力により作り出された魔法の巨人。

 まさしく神秘の結晶であった。


 ただし、土偶である。

 地母神土偶である。

 絵面はめちゃくちゃ格好悪かった。


「……乗るの!? これに!?」


 思わず漏れたのは戸惑い。

 窮地を救うために現れたはずの地母神サッチー。そんな彼女に向かって、戸惑いの言葉を女エルフはかけていた。


 無理もない。

 だって、巨大な地母神埴輪なのだ。


 相手はウホい顔こそついているが、いかにもメカメカしい感じである。

 もはや誰も文句を付けられない大御所オオカワラ。あるいは、特定の世代直撃で黙らせるカトゥキ。そんな感じの洗練されたデザイン性があった。


 けれどもこっちはただの土偶である。

 名もなき縄文人がデザインしたような、土偶なのである。


 ダサさの天元が突破している感が否めない。女エルフが目を見開いて脂汗を流して絶句するのもまた仕方のないことであった。


「……乗るの!? これに!?」


「二度目ですよお義姉ねえさま!!」


 思わず二回ツッコミを入れてしまうような看過できないダサさ。

 そんな彼女に向かって――。


「つべこべ言ってないで早く乗りな!! こっちだって、これだけの巨体を維持するのにエネルギーをそれなりの使っているんだ!!」


「でも」


「いいからほれ!! ラララ、ラララ、〇イディーン!!」


「ぎゃぁーっ!!」


 土偶から降り注ぐ怪光線。

 これまたリアルロボットとは真逆。コクピットに摩訶不思議な力で乗り込むのは、昭和も中期のスーパーロボット的演出。そんな力で強制的に、女エルフと第一王女は巨大土偶の中へと取り込まれてしまった。


 哀れ女エルフ。


 次に彼女が気が付くと、そこはコクピットの中。

 三百六十度全方位が確認可能なそこは、土偶の癖にいっちょ前にモビルトレー〇システムを搭載していた。そして、当然のように彼女の身体は、魔法少女服形態からパージされ、水着礼装イベント限定グラへと変化していた。


 準備万端である。

 そう、ここにガンダ〇ファイト・レディー・ゴーの準備は整った。


 据え膳、上げ膳の徹底したお膳立てぶり。

 これで戦わなければ女がすたる。

 だというのに、まだ女エルフは煮え切らない顔をしていた。自分で呼び出しておいたくせに、え、これ、本当にやるのと言う感じに、ジト目でコクピットに立ち尽くしていた。


「……まさか、水着で巨大ロボに乗ることになるなんて思っていなかったわ」


「お義姉ねえさま!! 今はそんなことを言っている場合ではありません!! 梁山パークを倒すために手段は選んでいられません!!」


「いや、それはそうなんだけれど。けど、これ、巨大な土偶よ」


「巨大な土偶がなんだってんだい!!」


「そうですよ!! 見てくれなんてどうでもいいんです!! オタクの人にはそれが分からないんですよ!!」


「いや、大切やろがい!! こんな土偶ロボで戦うなんて!!」


 ボス級の規格外ロボVS巨大土偶。

 どちらも規格外のゲテモノマシンであることは間違いないが、前者はロボットモノのラスボスとして申し分のない風格がある。しかし、後者は敵の雑魚兵か、あるいは懐かし特撮映画の正義の味方である。


 毛色が違う。

 どう考えても主人公機じゃない。

 それにしたって埴輪の中でも最高に格好悪いフォルムの地母神タイプ。


 モビルトレースシステム。

 その骨子であるビニールが張られた床に崩れ落ちる女エルフ。はらはらと涙を散らして、彼女はその柔らかいリングマットのような床を悔しそうに叩いた。


「嫌よ!! 私、こんな主人公機!! もっとこう、いかにもプラモデル化したら爆売れしそうな洗練されたデザインの方がいいわ!!」


「お義姉ねえさま!? なんですかプラモデル化って!?」


「何をいきなり意味の分からないことを言っているんだい!! しっかりおしよモーラ!!」


「これがしっかりしていられるかい!! どうしてこんなクソダサロボットが主人公側の機体なのよ!! もっとこうあるでしょう!! でかい翼が付いたやつとか!! でかい翼がついた奴とか!! でかいウィングがついた奴とか!!」


「でかい翼がついた奴一択じゃないですか!!」


「どんだけ発想が貧困なんだい!! トリコロールカラーでシンプルな造りの奴だって人気じゃないかい!!」


「そのどれでもないやんけ!! なんやねん土偶って!! 馬鹿ァー!!」


 流石の女エルフ、そういうのには煩い口だった。

 耽美的な作品をこよなく愛する女エルフである。当然、ロボットモノも守備範囲。美青年たちが羽根の生えたカッコいいロボットで、戦争なんてやめるんだと飛び出す展開は大好物だった。幼馴染と争い会うのも大好きだった。作戦のために人格を殺された殺人マシーンが人間性を取り戻していく感じのも大好きだった。


 けれども土偶である。

 おまけにコクピットはゲテモノ――モビルトレー〇システムである。

 ピッチピッチのタイツ着て動かす奴である。


「格好よくなぁい!!」


「そんなこと言っている場合じゃないでしょ、お義姉ねえさま!! 最終決戦なんですよ!!」


「平和な第六部完へレッツゴーだってのに、何を言っているんだいまったく」


 仕方ないねぇと嘆息したのは土の精霊王。

 彼女のやれやれという声に、女エルフが顔を上げる。


 少し、その表情には元気が戻っていた。


「そこまで言うなら、ちょっと魔力を使っちまうけど、形態を変えてあげようかね」


「そんなことができるの!? サッチー!!」


「アタイを誰だと思ってるんだい。だいたい、粘土でできた土偶ロボだよ。形なんて本来自由自在というものさ――」


 言うが早いか、うねりうねりと蠢く巨大土偶ロボ。

 翼の付いた奴でお願い、できればロボットなのに無駄に羽根の造りに拘った奴にしてと、中二病リクエスト続ける女エルフ。

 そんな彼女の前でロボは、新たな形態に変形した。


 そう――。


 より、腕組み仁王立ちが似合う、形態の主人公機に。


「ほれ!! お望みの主人公機――オカンバスターだよ!!」


「……いや、主人公機だけれども!! これはこれで格好いいけれども!!」


「水着の女の子が操縦するのにもってこいだよ!!」


「水着じゃないよ!! レオタードだよ!!」


 オカンバスター。

 コーチが心血を注いで鋳造した、宇宙一レオタードにマッチした女の子が乗るのに適切な主人公機。思わず、エリィがコクピットで同じポーズをきめそうな、そんな頼りになる主人公機へとロボは変形した。

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