第603話 どエルフさんとトップを狙う

【前回のあらすじ】


 主人公機にはウィングが必要。

 そこは女エルフ的に譲れない、ロボットアニメの燃えポイントであった。

 仕方ないわねと形態を変形させた地母神。


 しかしながら変形したのは――。


「ほれ!! お望みの主人公機――オカンバスターだよ!!」


「……いや、主人公機だけれども!! これはこれで格好いいけれども!!」


 女二人が水着で乗り込み大暴れするのにはうってつけの主人公機であった。


「というか!! 本当に!! パロディひどすぎません!!」


 ほら、トップもあれじゃないですか、いろんな作品へのオマージュが溢れる作品じゃないですか。僕もそういうのにやっぱりこう憧れる訳ですよ。


「トップ見たんかい!! またそんな見てもないのにパロディして!!」


 見てます。


「……え?」


 トップは見てます。

 もっとも、十年前(パチンコ化のイベントでネットで無料公開されていた)なのでうろ覚えですが。トップはちゃんと最後まで見てます。


 なのでこのパロディは――セーフ!!


「いや、パロディにセーフもアウトもないわよ!!」


☆ あれをやるわよカドカワさま――!!


「よくってよとか絶対に返ってこないからね、それ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「お義姉ねえさま!! つべこべ言っている場合ではありません!! サッチーさまのお力を借りて今こそ戦う時です!!」


「……そうだけど、そうなんだけれど。えぇん、どうせなら、トリコロールカラーのいかにも主人公ですって感じの機体で戦いたかったわ」


 嘆いてみても、ごねて見ても現状は変わらない。


 その身体は土偶。

 赤土と岩でできている。

 土の精霊王が造った巨大埴輪は、どんなに頑張ってもトリコロールカラーが似合う主人公機になることはできないのだ。


 愛と勇気と希望ではない。

 妥協と諦めと切迫感をこめて、今――。


「行くわよ出雲虎しゅつうんこ!! サッチーが造った無敵のロボ!! ミッテルの鉄の巨人がなんぼのもんじゃい!! 地母神ロボ――オカンバスター出撃!!」


『アンタ達!! いつまでピコピコやってるんだい!! 掃除の邪魔だよ!!』


 駆動音の代わりに妙な台詞を吐く巨大埴輪。

 まったくしまらないが、確かに名前に違わずオカンなその台詞。

 女エルフが苦い顔をする。しかし、第一王女の言う通り、もはやそんなことを言っている状況ではなかった。


 目の前の出雲虎しゅつうんこが操るバ・ラ・ザック。

 その深緑色をした触手がうねりうねりと蠢いている。とげとげしいそれらはジューン山の頂を抉り、激しくもんどりうって地響きを鳴らしている。


 その暴威が仲間に向かう前に、女エルフは出雲虎しゅつうんこを倒さなければならなかった。


「ふむっ!! 魔法少女勝負はどうなったと言いたい所だが、その巨大な土の土偶ならば相手にとって不足なし!! 我がバ・ラ・ザックの力を存分に発揮するよき対戦相手になるであろう!!」


「なにおう!!」


「ではここに、どちらが真に白百合女王国の王としてふさわしいか、雌雄を決するとしようではないか!! 第一王女エリザベートよ、その土偶の身体でどこまでできるか、見せてみるがよい!!」


 ゆくぞという掛け声と共に出雲虎がバ・ラ・ザックのコクピットに入る。

 その巨大な薔薇の花。そこに描かれた濃い顔が、いい顔をして上を向けば、どこからともなく無数のベンチが飛び出した。


 白塗りのベンチ。

 人の二倍くらいはありそうなそれが宙を舞い、まるで生物のように飛び回る。


「食らえ!! 我が、バ・ラ・ザックの必殺兵器!! フゥン・ベンデル!!」


「兵器の名前が汚い上にひどい!!」


【必殺技 フゥン・ベンデル: それはイケメンが腰かけてふんぞり返っていると実に絵になるベンチ――のように見える魔法の杖。そこから発せられるハイメガ粒子砲は地を抉るほどの高威力。間抜けな名前とベンチなフォルムに騙されて、油断したが最後ズキューンである。なお、ベンはベンチのベンである】


 四方八方から繰り出されるハイメガ粒子砲。

 それに加えて、地を砕いて迫りくる機械の触手。

 開幕初っ端から容赦のない怒涛の攻撃。


 これに対して土偶のオカンバスター。〇ンバスター立ちでその攻撃を全て受けてみせた。そう、プロレスラーに避けるという概念は存在しないのだ。


 なにと眼を剥く出雲虎しゅつうんこ

 つぶらな瞳を開いてこちらをじっとみるバ・ラ・ザック。

 その攻撃が一瞬止まったその瞬間――。


「お義姉ねえさま!! あれを使うわ!!」


 第一王女ノリ〇が必殺技の合図を出した。

 すわ、宙を舞うオカンバスター。ジューン山の蒼天に脚力だけで舞い上がった土の巨人が、組んでいた手を解いて舞い上がる。


 そして――。


「あれって何!? いったいどういうこと!? ちょっと待ってエリィ!! 展開についていけてない!!」


 スーパーイナズマキック炸裂かと思いきや、この小ボケ。

 もはや完全にトップを狙うノリに慣れてしまった第一王女だが、ついていけない女エルフは、余裕をもってよくってよということはできないのであった。


 だが、お義姉ねえさまの承認がなくても、既に初めてしまった必殺技は止まらない。止められない。


「スーパーイカズチキーック!! たぁーっ!!」


 第一王女だけの掛け声と共に、大質量の埴輪キックがバ・ラ・ザックへとコロ〇ー落としのように炸裂した。

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