第578話 どエルフさんと来いよ梁山パーク

【前回のあらすじ】


 満を持して第二王女率いる隊商を訪れる女エルフたち。

 しかし、そんな彼女たちを待っていたのは、謎の男を捕まえてから所在不明という想定外の事態だった。


「その男は、突然更衣室に乱入してきて、違うんだこれには深い訳があるんだとか、そういう意味の分からないことを言い出すドスケベ野郎じゃありませんでしたか?」


 そんなエルフの問いかけに、まさしくその通りだと頷く隊商の女性たち。

 男騎士の関与を確信した女エルフが頭を抱えたその時――。


「梁山パークから使者が来ました!! ローラさまの身柄を拘束したとのこと!! 解放してほしければ、梁山パークにキャラバンが運んできた物資を寄越せと言ってきています!!」


「……な」


「な!?」


「なんですってぇっ!!」


 ここに来て、最大の敵である梁山パークもまた動き出した。

 はたして、女エルフ、梁山パーク、そして、行方知れずの男騎士。この三者三様みつどもえはどのような結末へと辿り着くのか。


 どうせろくでもない結末だろうけれどもそれはそれ。


 今週もどエルフさんはじまります。


◇ ◇ ◇ ◇


「承兌書状。拝啓、白百合女王国崩壊の候、第二王女ローラさま率いる隊商のみなさまにおかれましてはご健勝のことお悦び申し上げます。さて、表題のとおり、梁山パークはこの度、貴組織の頭領である第二王女ローラさまの身柄を拘束いたしましたのでご連絡いたします。つきましては、以下の物を早急に用意していただき、身柄の受け渡しをお願い申し上げたく候」


「……なんで新社会人が書いたビジネス文書みたいな怪しい書状なのよ」


 それはそれとして、梁山パークはえぐいくらいの要求を隊商に出してきた。


 一つ、兵五百を一ヶ月養えるだけの食糧。

 二つ、彼らが使うのに十分な量の弓や槍など武器と防具一式。

 三つ、消耗品である矢や礫、火薬など。


 最後に――。


「若い働き手の女性を幾らでもだと――舐めくさってやがりますわ!!」


「エリザベート姉さま!! この梁山パークという輩だけには、この国を渡してはいけません!! 断固として要求には屈してはいけません!!」


「けど、ローラ姉さまのことも心配だわ。いったい、私たちはどうしたら」


 怒髪天を衝く要求に息巻く白百合女王国の王女たち。

 女尊男卑の国の王族というのを抜きにしても、若い娘たちの供出を要求する梁山パークの下卑た要求に、彼女たちは憤怒していた。


 もちろん、女エルフも第一王女も同じ心境である。

 軍隊である。それは当然、そういう需要もあるだろう。しかしながら、それをなんの臆面もなく堂々と要求してくるとはゲスの極みというもの。

 それでなくても、第二王女の身柄を拘束し、その対価として求めるというところがまた厭らしい。


 第一王女の名を口々に妹たちが呼ぶ。

 それに合わせて、第二王女の部下である隊商の女性たちもその名を呼ぶ。

 第二王女不在という状況で、思いがけず隊商の主導権は第一王女へと移った。あとはどう彼女が決断し、第二王女と梁山パークに対してどう行動するかである。


 第一王女が逡巡する。

 意思決定のために彼女は信頼し親愛する彼女の義姉の顔を窺った。

 自分の信じるようにやりなさいと、その視線に頷いて答える女エルフ。それにより、第一王女は自分のやるべきことを即座に確信した。


 第一王女の深呼吸と共に場が静まり返る。

 再び、次期女王としての気迫と威圧を背負った彼女は、困惑する自らの国民たちに命じるように声を上げた。


「白百合女王国の次期王女の名において申します。このような、卑劣極まる要求に屈するほど、私は臆病者ではありません。そして、みすみすと妹の身柄を好きにさせるほど、意気地のない王女でもありません」


「おぉ、エリザベートさま!!」


「さすが、エリザベートさま!!」


「ここに騎士団長エリザベートさまが復活なされた!!」


 すぐに軍容を整えましょうと第一王女は梁山パークとの戦いを決意する。


 それに応じて、彼女の義妹たちが動き始める。

 隊商の者たちも、すぐに護衛兵に声をかけますと動き出す。


 場は、完全に彼女をリーダーとして認め、動きだそうとしていた。


 そんな彼女たちの動きを傍目に、ふふと女エルフが微笑む。

 どうしたのですかと尋ねたのは法王だ。彼女の問いに、女エルフはなんだかむず痒そうにその頬を人差し指で擦った。


「なんだかんだで女王らしくなってきたなと思って」


「エリィさんですか?」


「これなら十分、あの女傑オババの代役だって務まるんじゃないかしら。ほんと、逞しくなったと思うわ。もちろん、まだまだ色んな人の力を借りなくちゃいけないのは間違いないけれど」


「人に助力を求められるのは王たる者の最たる資質です。エリザベートさんは、確かに少し頼りないかもしれませんが、人を惹きつけるだけの王の素質を持ち合わせていますよ」


「だぞ。そうなんだぞ。エリィはとってもとってもいい子ちゃんなんだぞ。みんな助けたくなるのは彼女の人徳なんだぞ」


 によによとその光景を見守る女エルフたち。

 しかし、微笑ましく妹分の成長を見守っているだけにもいかない。

 彼女たちには彼女たちのやらなければいけないことがある。


 そう、今回の発端が彼女たちのパーティーのリーダー。


 男騎士の行動によるものだとすれば――。


「ティトも梁山パークと何かしらあったと考えるべきよね」


「だぞ。第二王女と一緒に捕まっているかもしれないんだぞ」


「助けましょう。やはり、戦闘能力は何より大切ですから」


 しかしどうやってと首をかしげる男騎士パーティ。

 そんな彼らに――。


「どうやらお待ちかねのようだな」


「そ、その声は!!」


「だぞ!! まさか!!」


 こういう時のお約束。

 困った時の彼だより。

 この作品随一のトリックスターにしてトラブルメーカー。

 出てくりゃどエルフネタに拍車がかかる男。


 道具屋の店主。

 彼がテントの入り口の布を上げて、女エルフたちの前に現れた。


「それではやってまいりましょう――商品番号1919番!!」

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