第577話 どエルフさんと決戦梁山パーク

【前回のあらすじ】


 ついに第三王女から第五王女までが、第一王女の下に合流した。

 残すところは第二王女ただ一人。

 しかし、この一人を残して事を進めることはできない。


 白百合女王国の王権を二つに分けるようなことになっては後々厄介なことになる。元王族の彼女たちは一つにまとまって、協調路線でことを進めるべきである。

 そのために第二王女との和解は急務。


 義妹たちも、義姉も口をそろえてその重要性を説く中、第一王女は決断した。


「はい。皆さんの言う通りです。私も、ローラを置き去りにして、この国の復興を進めたいとは思っていません」


 第二王女との再度の会見。

 はたして、第一王女はこの国を継ぐ者としての片鱗を露にして、力強く仲間たちにそう言ってみせたのだった。


「……どこか頼りなかったけれど、急に頼もしい感じになったわね」


◇ ◇ ◇ ◇


 第二王女が率いる隊商キャラバン

 その中枢。組織の行動指針を決定する会議場。

 そこに連れて来られた、第一王女、女エルフ、法王、ワンコ教授の四人は、困惑した表情を向けてくる隊商の隊長や事務方たちを前に言葉を詰まらせていた。


 その中央――空になっている席に居るべき人が居ないこと。

 それが、全てを物語っている。


「……どういうことですか、これは?」


 一番に口を開いたのは、この会談の代表となるべき人物である。

 そして、目の前の席に座っているべき人物と、最も長い付き合いのある人物。

 第一王女エリザベートであった。


 そんな彼女の驚きに視線を背ける隊商キャラバンの隊員たち。

 困った顔をして黙り込むばかりの彼女たち。そんな中、おそらく第二王女の秘書をしていたのだろう。いかにもできますという感じの顔つきの女が、第一王女の前に出た。


「実はローラさまは、数日前にとある男を捕縛してから行方不明でして」


「とある男――」


「捕縛してから――」


 その情報に顔色が青ざめたのは第一王女だけではない。

 今になってようやくというかなんというか、自分たちも大切な人物が身内にいないことに気が付いた女エルフたち。そして、この手のことについて、彼が色々と深く関わらない訳がないと、察する賢明さも彼女たちは取り戻した。


 そう、数日前が具体的に何日前かは分からない。

 だが、彼女たちのリーダーも、数日前から行方知れずだ。


 この奇妙な失踪時期の合致が意味するものは――。


「……もしかして、そのとある男っていうのは」


「筋肉質で、どこかとぼけた感じがして、けど、めちゃくちゃ強い奴だったんだぞ?」


「いえ、そう言われても。少ししか会っていないので」


 あなた達、聞き方が悪いわと女エルフがワンコ教授と法王を制する。

 そして、凛とした顔をして、彼女は集まった隊商の隊員たちに向かって言った。


「その男は、突然更衣室に乱入してきて、違うんだこれには深い訳があるんだとか、そういう意味の分からないことを言い出すドスケベ野郎じゃありませんでしたか?」


「……はい、そうです」


「……というか、その通りです」


 男騎士のやりそうなことならだいたい想像がつく。

 長い付き合いの女エルフにとって、男騎士がこの隊商でやらかしそうなことは分かった。そして、捕まらなくてはならない出来事にも、だいたい想像が及んだ。


 眉根を掴んであいつーと声を漏らす女エルフ。


 なんという抜け駆け。

 ここ数日姿を見せないことに、まぁ、彼のことだから大丈夫だろうと思っていた女エルフ。しかし、思いがけず彼が第二王女と接触していたことに、よけいなことをしやがってと彼女は拳を握り締めた。


 どうどう落ち着いてと、そんな女エルフをなだめすかせる法王とワンコ教授。


「とにかく、どういう訳かは分かりませんが、その男とローラさまは、どこかに出かけてしまって不在なのです」


「我々も、二・三日は配給や施設の整備など、自分たちにできることを考えて行動をしていたのですけれど、まったく連絡がないのでどうしていいか分からず」


「……なるほどそういうことですか」


「だぞ。やっかいなことになったんだぞ」


「ティトさん。まさか、ローラに危害を加えるようなことは、間違ってもないと思いますけれど。いったい、何があったんでしょう」


 そこについては大丈夫だわよと男騎士がおかしなことをしないということを女エルフは保障した。保障したけれど、どうしてこういう事態になったか、その答えまでは持ち合わせていない。

 そして、この状況で、どうすればいいのか即決できるほど彼女も賢くない。


 どうすればいい。

 女エルフパーティが顔を見合わせたその時――。


「た、大変です!!」


 会議場となっているテントの中に颯爽と一人の少女が駆け込んでくる。

 皮鎧で武装した彼女は、どうやら隊商の護衛を行っている者らしい。そんな彼女は、手に書簡を握り締めて、顔を青色に染め上げていた。


 ぱくぱくと、空気を求めるように口元が何度も動く。

 喉が必要もないのに何度も鳴る。

 そうして何度も声にするのを失敗しながら彼女は、ようやくその慌てている理由を、その唇ではじき出したのだった。


「梁山パークから使者が来ました!! ローラさまの身柄を拘束したとのこと!! 解放してほしければ、梁山パークにキャラバンが運んできた物資を寄越せと言ってきています!!」


「……な」


「な!?」


「なんですってぇっ!!」

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