第561話 ど男騎士さんと向かえ梁山パーク

【前回のあらすじ】


 白百合女王国を建国から見守る吸血鬼に事情を説明する男騎士。

 彼女から正式に、先王の使者であることを認められた男騎士。そんな彼に、第二王女は涙ながらに、国と女王カミーラを救ってくれるように頼む。


 頼まれたら断れないのがお人よしの男騎士。

 任せろと意気揚々と仲間と合流しようとするのだが――。


 なぜかそれに第二王女がまったをかけた。


「いえ、ごめんなさい。悪いけれど、この依頼は単身でこなせないかしら」


 はたしてその言葉の真意とは。

 古き時代より生きる吸血鬼。彼女の考えとはいかに。


◇ ◇ ◇ ◇


「さっきも言ったように、まだ、エリザベートは女王としてこの国に君臨するには時期尚早よ。もう少し社会経験も必要だし、信頼できる伴侶だっていやしないわ」


「……伴侶」


「あぁ、そうか。女王になるからには、王がいなくちゃいけないのか」


「そういうこと。まだ若いからと油断していたのもあるし、私が女王国を離れていて、彼女の世話をする人間がいなかったというのもあるけれど、これについては素直に失敗だったわ。ちゃんと相手を見繕ってから出奔するべきだった。それでも、普通なら自分で好きな相手を見つけてくるものだけれどね」


 ある意味で、好きな相手は見つけてはいる。

 性別の壁があるので結婚することはできないけれども。

 男騎士と魔剣は、女エルフの顔を想像してそれから首を振った。


 第一王女。

 彼女もまた白百合女王国女王とは違った業を抱えた女である。

 悪いとは言えないが、なんともはや歯がゆい話である。


 ただ、それはそれとして、第二王女が合流を拒む理由は男騎士たちにもこれでようやく分かった。


「今回の一件に、エリザベートをあまり関わらせたくないという訳か。なるほど、歴代の女王に寄り添って来た貴方らしい考え方だな、ローラどの」


「過保護じゃねえか。あの嬢ちゃん、見た感じそこまでパッパラパーって訳でもなさそうだし、これくらいのことならなんとか耐えられるような気がするぜ」


 ダメよと、男騎士の言葉に強く反応する白百合女王国の守護者。

 今は第一王女の妹に擬態している彼女であるが、まるで母親のような顔をして、きっぱりとダメなものはダメだと言い切った。彼女の教育方針的に、あまり荒事に、王家の人間を直接関わらせるのはNGなのだろう。


 言うまでも無く、そんな気持ちは伝わってくるが、補填するように彼女は言葉を紡ぐ。


「白百合女王国の女王は、その白百合の名に恥じぬように、穢れなき乙女でなくてはいけないのよ。純真無垢とまではいかなくても、自らわざわざ汚れ仕事をする必要はないわ。まして、やることは反乱軍の鎮圧よ」


「いいじゃないか」


「そうだぜ。自分の力により女王国の主権を取り戻した女王。流石はあの烈女の一人娘だって、おあつらえの武功になるだろう」


「そもそもカミーラが異常なのよ。何度だって言うわ。白百合女王国の女王と王女は、穢れのない国の御旗でなければいけないの。御旗に泥を塗る様な行為を、私は容認することはできないし、おとなしく見過ごすこともできないわ」


 頑固だなとあらためて魔剣が嘆息する。

 絶対にそこは譲らないからと強弁する第二王女。


 ともするとも何もない。おもいっきり個人的かつ理不尽極まりない理由ではあるが、彼女がそこまでして王家の威厳を守りたいと言うのは伝わって来た。

 やはり魔剣が言った通り――わざわざ吸血鬼化してまで生き延びようとするだけあって、その意志は強固ということらしい。


 交渉の余地はないだろう。

 これまで様々な冒険をこなしてきて、癖のある依頼者との折衝を重ねてきた男騎士。彼には、第二王女がそうは言ってもと食い下がった所で意見を翻すような女には見えなかった。


 となればとるべき手段は二つ。


 一つ、彼女の意向を汲み取って、その言葉の通り単独で梁山パークへ乗り込む。

 はたまた、意向を聞いたふりをして、こっそりと女エルフたちと合流するか。


 賢いのは後者だろう。

 しかし、賢くないのが男騎士である。

 なによりも信頼と人の想いを尊重する男は――。


「分かった。ローラどのがそこまで言われるのであれば、俺としてもその意向に沿わない訳にはいかない」


「おいおいティト」


「ありがとう騎士ティト。貴方ならばそう言ってくれると信じていたわ」


 第二王女の願いをすんなりと受け入れた。


 先王の遺志といい、第二王女の願いといい、ほいほいと引き受ける奴である。

 これが中途半端な冒険者だったなら、依頼人に気のいい返事をする奴だで済む所であるが、そこは男騎士である。


 中央大陸の動乱を鎮めた男の表情には、信頼できるものがあった。


 とはいっても――。


「一人でジューン山へと向かうのか。それはそれでなんというか不安だな」


「せめてあいつらと合流できないにしても、誰か仲間が欲しいところだなぁ。実際、この国の政府へと取って代わろうとしている勢力だ。そこそこの人数は集まっている」


「あら、私は単身で依頼をこなせないかと頼んだけれど、それに随行者がいないとは言っていないわよ」


 はて、それはいったいどういうことか。

 ぽんとその時、男騎士達の前で白煙が立ち込める。

 すぐさっきまでその場に立っていた美しき吸血鬼女の姿はそこにはない。男装の麗人。黒髪をした黒衣の騎士がそこには立っていた。


 そう、女性が持つ男性の理想像をこれでもかと詰め込んだ、理想の騎士が。


「やはり梁山パークか、私も同行しよう。いつ出発する」


「……男装ヒロ院!!」


 あまりに唐突な展開。

 男騎士、今回もちょっとうまく言えていなかった。

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