第560話 第二王女さんと素直になれない

【前回のあらすじ】


 男騎士たちが捕まった隊商。

 それは奇しくも第二王女の隊商だった。


 母であるはずのカミーラをやけに親しく呼ぶ第二王女。

 それについて問うた男騎士は、思いがけず彼女の正体を知ることになる。


 その正体とは――吸血鬼。

 人の身でありながら、永遠の命を求めた者。

 外法の理に生きる者である。


 そんな第二王女の正体が明かされたその時、一瞬の隙を衝いて男騎士と魔剣エロスが捕縛から抜け出した。しかしながら、彼らに逃げると言う選択肢はない。

 なぜならば、彼らはこの国を救うように、先王シャルルに請われていたから。


「みくびるなよ。このティト、国の動乱に乗じて利を得ようとするあさましい輩でもなければ、吸血鬼に後れを取る様な冒険者でもない。そして、貴殿らの思いを無下にするような男でもな」


「そうだぜ嬢ちゃん。おっと、そう言っても俺より生まれは早いわけだから年上か。いやはや、まったく、魔神の血ってのは厄介だね。ここまで人の人生を狂わすんだからさ」


 柄にもなく男前な台詞を吐く男戦士。

 今週もやっぱりシリアスモード。

 女王国の王の次は、女王国を影で操る黒幕へと迫る。はたして二人は白百合女王国を救うことができるのか。


 そして、カミーラの在城介護をすることができるのか。


「ネタの切れ味が最近悪いわよ。なに、在城介護って。面白いと思ってんの」


 電撃大賞のアレが!!(語彙力)

 という訳でそろそろ本編です。


◇ ◇ ◇ ◇


 男騎士と魔剣はこれまでの事情を第二王女に説明した。

 白百合女王国の地下にあるカタコンベに呼びこまれていたこと。

 そこで先王シャルルと出会ったこと。

 最後に、現女王カミーラが、まだ存命であること。


 全てを聞き終えた白百合女王国の暗部を知る者。その建国から今に至るまでを、歴代の女王と共に歩んできた吸血鬼は、話を聞くなり黙り込んだ。

 そして、深く頷いて一言。


「分かったお前たちを信用しよう」


 彼女はそう言うなり男戦士に向かって手を差し出した。

 先程までの非礼を詫びるということだろう。


 そんなことをされる謂れはないと躊躇する男騎士。だが、そこは儀礼的なものである。強引に彼女は男騎士の手を引くと、すぐさまもう片方の手で強くそれを握り締めた。


 同時にその頬を涙が伝う。

 彼女が本心から、男騎士たちのことを信頼したからこそ、それは流れた涙であった。流した涙に違いなかった。


 白百合女王国の建国より300年。

 その歴史を共に歩んできた吸血鬼である。

 その涙の意味は重たい。


 失礼と男騎士たちから顔を背けた吸血鬼。彼女は掌の付け根で涙を拭うと、それから再び気丈な顔を男騎士たちに向けた。


「シャルルもカタコンベのことも了解した。あの魔法を編むのに、私も携わった人間だ。そして、シャルルの人と形もよく知っている。あの男ならばそういうだろうし、そうするだろう。お前たちの言葉に偽りはない」


「信じてくれるのか」


「信じる。というより信じたい。カミーラが生きているというその話を。まだ、王位を継ぐにはエリザベートは早すぎる。ボケているとはいっても、私が補佐すれば十分にカミーラは女王を続けられるだろう」


「しかし、お前さん、カミーラとは不仲だったんじゃ」


 そこはいろいろとあるのよと、第二王女がため息を吐きだす。

 何がどう色々とあったのかうかがい知れるため息であった。

 口を挟まない方がいいだろうと男騎士が黙ると、まるで堰を斬ったように、第二王女こと白百合女王国個の黒幕の口はせわしなく動き始めた。


 曰く――。


「喧嘩の原因はシャルルとエルフについてよ。死んだシャルルのことを悪い風に言い始め、エルフについても弾圧を重ね始めた。エルフについては私自身も思う所があったけれども、シャルルについては完全に言いがかりよ。そんなカミーラを見ていられなくて、彼女を諫めるために私は出奔したの」


「……なるほど」


「素早い帰還の理由もそれか。なんだい、俺の知り合いにも吸血鬼はいるが、お前ら揃いも揃って義理堅い性格してやがるなぁ。まぁ、そうでなくちゃ、吸血鬼化しても理性を保つことは難しいか」


「思えばあの頃から、カミーラはちょっと認知が入っていたのかもしれないわね」


「はーん、そういうの認めちゃうわけね」


「認めるわよ。それこそ幾らでも女王たちの死には立ち会って来たの。女は生命力が強いからね。ちょっとやそっとのことじゃ死なないわ。もちろん、動乱の中にあって謀略や戦場で死んだ子もいたけれど――こんなケースの方が多いくらいよ」


 いつかはこうなるんじゃないかとは思っていたと遠い目をする第二王女。

 いろいろな地獄や終わりを見て来たからこそできる顔だ。


 寂しさの中にも諦めがある。

 それを受け止める強さもまただ。

 そういう顔ができるほどに、彼女は深くこの白百合女王国に関わっていた。王家の動静を間近に見守って来た。その証拠に他ならない。


 男騎士たちがカタコンベとシャルルの話をして、第二王女から信頼されたように。第二王女も、彼女しか知りえない女王国の内情と、心の籠った言葉により、自らの言葉が真実であることを立証してしみせた。


 もはや両者の間に、引くべき線はない。

 カタコンベに眠る先王の魂。その言葉の下に、男騎士と第二王女は結託した。


「私からもお願いするわ、騎士ティト。シャルルの言葉の通りなら、どうか梁山パークからカミーラを助け出してあげてほしい」


「あぁ、任せてくれ」


「お前さんのようなかわいこちゃんに頼まれたら断れないな。つっても、俺ら二人じゃやれることは限られてくるけれど――」


 まぁ、仲間がいれば大丈夫だろう。

 そんな感じで魔剣が黙る。

 男騎士もまたそれを肯定するように黙って頷いた。


 まずは女エルフたちと合流しなくてはいけない。

 彼らと合流すれば、梁山パークなぞなにするものぞ。

 そう男騎士が思ったその時。


「いえ、ごめんなさい。悪いけれど、この依頼は単身でこなせないかしら」


「……え?」


 思いがけない一言が、第二王女の口から、しかも深刻な口ぶりで飛び出したのだった。どうやら、抜き差しならない理由が、そこには存在しているらしい。

 しかしその理由について、男騎士は今度は見抜くことはできなかった。

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