第536話 ど男騎士さんと梁山パーク
【前回のあらすじ】
伝説の大英雄スコティの愛剣を自称する聖剣トウカ。
その存在について否定する、当の大英雄こと魔剣エロス。
はたしてトウカと偽英雄たちの目的はいかに。
偽男騎士たちの嘘を飲み込み、その目的について尋ねた男騎士たちに返って来たのは――。
「私たちは、白百合女王国にて新しい政府を立ち上げようとしているレジスタンス、おいでよ梁山パークに加勢しようと動いていた所です」
なんともおいでよしたくない、そんな名前だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「おいでよ凌残パークだと!! なんて人にお聞かせできない字面のレジスタンスなんだ!!
「おい!! なんでその字を当てた!! まさかの逆パターン!!」
「パークというからには作画はウォータードラゴン敬先生か!? あるいは氏GUYター先生か!! なんにしても濃ゆい展開しか想像できない!!」
「あぁ、きっとおぞましい連中に違いないぜ――けどそんなリョナグロNTR展開にオラわくわくしてきたぞ!!」
「俺様も心のちんちんがエクスカリバーだぜ!!」
「お前ら、もうちょっと遠慮した会話をしろ!!」
ここまでのシリアスな偽物との丁々発止。
そんな空気をまるっきりぶち壊して、はしゃぐ男騎士とエロ魔剣。
すかさず女エルフがツッコミを入れて二人の暴走を止める。
哀れ、中学生並みに性に対して敏感な二人である。
卑猥な文字を音の響きに合わせてチョイスしてしまうのは仕方なかった。
まぁ、それはそれとして。
突如として現れたレジスタンスの存在。そして、王族不在に伴う、白百合女王国瓦解の危機を聞いて、女エルフたちは言い知れぬショックを受けた。
まさか、国の荒廃がここまで急激に進んでいるとは。
逃げた第一王女の生還を信じて、何人かの臣下が働いているかと思ったが、そうでもなかった。早々に、臣下も国民も見切りをつけて、新しい統治機関を模索していたのだ。
逞しいといえば逞しいが、したたかと言えばしたたか。
「無事なのは嬉しいですが。正直、微妙な心境ですね」
「……エリィ」
第一王女にしてみれば、完全に裏切られた気分である。
慰める言葉もいいものが思いつかず、ただただ、虚しい沈黙がしばらく続いた。
そんな沈黙を破って、自称スコティの愛剣は話を続ける。
「もとより、先の動乱の折から、白百合女王国には現在の王政に対する不満が高まっておりました。それでも王国の体裁を整えたのは、女傑カミーラのカリスマ性があってのことです」
「……確かに。あの強烈おばば様が要れば、少なくとも国は安泰だものね」
「だぞ。今回の動乱でも、最後の最後まで戦い抜いたんだぞ。実際、君主の鏡のような奴なんだぞ。すごいんだぞ」
お母様と、消え入るような声でつぶやく第一王女。
男騎士たちが、偽の英雄たちを前に素性を隠している事情を察してか、それとも本当にそれだけしか呟くことができなかったのか。
そのか細い声に姉貴分の女エルフがそっとその肩を抱く。
大丈夫、大丈夫だからと、彼女の気持ちを静める横で、まだ聖剣女の話は終わらない。いよいよ、彼女の話は核心へと迫ろうとしていた。
「私たちは白百合女王国の再建のために、梁山パークが最も適切だと感じたのです。彼らを国の代表に押し上げて、白百合女王国を女尊男卑から、普通の国へと移行させる。そのために彼らに与するべく、こうして旅に出たという次第です」
「……ふむ」
「それ、本当にスコティが喜ぶのかなぁ。スコティ、そういう謀略とかからは距離置く英雄だったからなぁ。ことなかれ主義っていうか、なんていうか、そういうの面倒くさいっていうか」
男戦士の声真似をして、聖剣女に意見を申す元大英雄。
しかし彼女は考えをあらためるでもなく、むしろ確信めいた表情を見せて、男騎士たちにえぇ、もちろん、と、返すのであった。
「我が持ち主の大英雄スコティさまならばきっとそうするに違いありません。なによりもあのお方は、大陸の平和を願っておられたお方です。そして、効率よく速やかに物事を成すことを第一とされる方でした」
「……そうなのか?」
効率厨なのかという男騎士の視線に、魔剣エロスが黙り込む。
そうですと肯定しているようなだんまりに追い打ちをかけるように、更に聖剣女の矢継ぎ早な言葉が飛び交う。
「スコティさまならば、きっとそうするに違いありません。あの戦いでは、スコティさまも復活されて、この大陸の守護に協力されたというではありませんか。であれば、あのお方と長く冒険を共にした、この聖剣トウカも戦わねばなりません」
「……やる気満々だなぁ」
「どっかのぐぅたら魔剣とはえらいちがいね」
「だぞ。本当にスコティの所有物なのかなんだぞ」
更に援護射撃で、後ろから言葉の弾が飛ぶ。
魔剣エロスが、やから知らんて俺様言っているやろと、念波で仲間たちに伝える。その前で、ふっと笑って聖剣女は再びその姿を消したのだった。
気が付けば、偽男騎士の背中側に、ちょっと小ぶりな剣が結わえられている。
和刀。しかも直刀タイプの珍しい剣である。
どうやら、それが彼女の正体らしい。
その拵えの辺りから――。
「とにかく、我々は次代の英雄として、スコティさまと同じく、中央大陸の平和を守る必要があるのです。さぁ行きましょうティントォ。白百合女王国の再建に」
「ということだ。我々の伝説をその目で見届けたいというなら――ついてくるがいい。兵は多ければ多いほどぃいからな。遠慮はいらないぞ」
ふははと笑って再び馬に跨ろうとする偽男騎士。
とうと格好をつけて鐙に足をかけた彼はそのまま。
「ぶひひひん!!」
馬に棹立ちになられて、その場にひっくり返るのだった。
おわぁーと情けない声が晴天に木霊する。
それと同時に。
「……こいつらに、白百合女王国が立て直せるとは思えないんだけれど」
「だぞ」
「ですねぇ」
男騎士パーティは、偽男騎士たちの無能っぷり、人畜無害っぷりをあらためて確信するのだった。
なんだか厄介な話になってきたと思ったが、この自分たちに輪を駆けてトンチキな連中がやらかすようなことである。
「まぁ、とりあえず、放っておいても問題ないだろう」
「そうだな」
男騎士と魔剣は、早々にそういう結論に辿り着いた。
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