第535話 魔剣さんと聖剣さん

【前回のあらすじ】


 謎のパチモン男騎士軍団。

 体格だけはいっちょ前の彼ら。しかしながら素人感が丸出し。

 そんな状況にあきれかえりつつもしっかり相手をする真面目系男騎士。


 はたして彼らの目的は。

 それについて尋ねたその時――。


「お初にお目にかかります。私は聖剣トウカ。勇者ティントォに仕える魔を断つ刃にして、かつて大英雄スコティに仕えしものです」


 いったいどこから現れたのか。白い着物を纏った美人さんが、男騎士たちの前に姿を現したのだった。


 はたして彼女の身の上は。

 そして、魔剣エロスことスコティとの関係は――。


「はぁーーん!!??」


 当の魔剣エロスはといえば、まったく心当たりのない反応を返すのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 思わず飛び出た魔剣の声。

 なんだこの声と、偽男騎士たちに妙な緊張が走る。


 咄嗟に誤魔化しに入ったのは男騎士である。やはり流石の冒険者。知力はないが、ピンチを察して反射的に行動できる。


「そんな!! 勇者スコティが使っていた剣だって!! そんなものがあるのかぁー!!」


「……うむ? なんか、ちょっと声が違うような?」


「詳しく話を聞かせてくれ!! これでも俺も冒険者の端くれ!! 勇者スコティの名は知らない訳ではない!! その武器だなんて初耳だ!! しかもそれが人間と化しているとは、これはいったいどういうことなんだ!!」


 訝しむ偽男騎士を勢いで押し切る。

 これまでのどこかそっけない態度からすれば、打って変わっての食いつきである。これまた怪しい反応には違いなかったが――。


「ふっ、そうかそうか。知りたいのなら教えてやらんでもない」


 ここまでのぞんざいな扱いから打って変わっての丁重な扱い。

 偽男騎士は、男騎士の反応に満足げに口元を歪め、尊大に胸を張った。


 この男どんだけ図太いんだと、女エルフたちがまた白い眼を向ける。


 だが、まったくもって気にしない。

 気づく素振りも見せはしない。

 同じく彼の仲間たちも、やっと自分たちの凄さに気がついたかとばかりに、うふふ、おほほとほくそ笑んでいる。


 火炎魔法を放とうか。

 しれっと杖を構えた女エルフを、女修道士シスターの代わりに法王が止めた。


 流石に事件の直後だというのにも関わらず、英雄の名を堂々と騙るだけはある。

 肝の据わった偽英雄たちに呆れていいやら感心していいやら。


 しかし何よりも――。


「……エロス。どうなんだ、本当に彼女はお前が使っていた剣なのか?」


 問題はそんな偽物たちに囲まれて、澄ました顔を続けている聖剣だ。

 まるで目の前の英雄を騙る偽物たちが本当の英雄だとばかりに、少しの迷いもなく凛として佇んでいる彼女。

 本当にスコティこと魔剣エロスの知り合いではないのか。

 少なくとも、偽男騎士らと違ってこの女からは本物の気迫を感じる。


 そう思い出せばもう疑念は止まらない。

 気が付くと男騎士は魔剣に彼女との関係を問いただしていた。


 それに対して、魔剣の返事はこれこの通り。

 素っ頓狂な声を上げた時点でお察しである。


「んな訳ないだろ。お前、知らないっちゅうのあんな奴。というか、あんなどシコい聖剣持ってたら、俺さまが忘れる訳ないだろう」


「しかしスコティ。彼女はお前の剣だと」


「そりゃまぁ、俺様だって冒険者だったから、いろんな武器は使ったさ。使ったけれども――そういうのって、だいたいほら雰囲気で分かるじゃんか」


 そういうのを感じないんだよと、魔剣エロスが言葉尻をすぼめる。

 久しぶりに手元に戻ったとはいえ心を通わせた愛剣である。そして尊敬する大英雄の魂が宿ったインテリジェンスソードである。

 男騎士は結局悩んだ末に、そうかと魔剣エロスの言葉を受け入れた。


 ならばきっと、目の前の剣は何かの間違いなのだろう。


「というか、もし本当に俺様の剣なら、俺様の気配を察してくるに違いない」


「こうして姿を見せた時点でそうなんじゃないのか」


「いやまぁ、そうかもしれないけど。いや、そもそも、俺様はセレヴィ一筋。あんな黒髪ボインのねーちゃん、たまらねーけど、たまらんけれども、実際どちゃシコだけれども。そういう心の浮気みたいなのはしねーぜ」


 もし、自分の剣であるならば、自分の好み――セレヴィの姿で現れるに違いないだろう。そう言って頑として現状を認めようとしない魔剣エロス。


 彼が一本気なのは件の騒動で男騎士もよく知るところ。

 嘘は言っていないだろう。


 とすればやはり、嘘を言っているのは聖剣を名乗る女の方なのだろうか。


 和風美人の聖剣女はよろしいでしょうかとばかりに黙って男戦士たちを見ている。なんにしても、このまま狼狽え続けても話はいつまでたっても始まらない。


 一旦、情報を整理するためにも、彼女の話を聞いてみることにしよう。

 男騎士はそう腰の魔剣に提案すると、咳ばらいをして視線を偽物たちに向けた。


「あぁ、うん、すまない、なんだか取り乱してしまって。それで、よければ説明してくれないか。これから君たち――いや、貴方たちが何をしようとしているのか。そして、聖剣トウカどの。できれば貴方の素性についても詳しく教えて欲しい」


 えぇ、と、落ち着き払って答える聖剣女。

 男騎士たちと違って少しの狼狽も見せずに彼女は、その凛とした口先を弾いて言葉を紡ぎ始めるのだった。


 そう――。


「申し上げた通り、私はスコティ様の愛剣です。スコティ様の意志を継いだ私の導きにより、彼ら――次世代の英雄たちは、今回暗黒大陸との戦いにおいて、魔女ペペロペを討滅する活躍をしました。そして今は、白百合女王国の失われた平和を取り戻すために、動いているという訳ですよ」


「白百合女王国の失われた平和?」


「えぇ。今、白百合女王国では、いなくなった女王カミーラと第一王女エリザベートに代わって、新たに国を治める者たちを探している状況なのです。そして、その最有力候補と目されているのが、ジューン山に籠っている新レジスタンス――」


 懐かしい名に思わず男戦士たちが息を呑む。

 しかし、新レジスタンスの名は彼らの知っているそれとは違った。


「その名を、おいでよ梁山パーク」


 おいでよ梁山パーク。

 二期もつつがなく終わったというのに、今更そのネタを持って来るのか。

 そんな思惑はともかく、少しおいでおいでしたくないその呼称に、男騎士たちは喉を鳴らした。

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