第515話 ど暗黒騎士と撤退戦

【前回のあらすじ】


 魔神シリコーン封印。

 聖なるダイコーンにより封をされた魔神。たちまちに中央大陸から祓われる魔神の瘴気。形勢逆転、ついに優位に立った男騎士たち中央大陸連邦の面々。

 それに対して暗黒大陸の兵たちは――。


「総員!! 撤退開始!! 魔神シリコーンさまが倒れられたとあっては、暗黒大陸側に勝ち目なし!! 速やかに中央大陸を離脱するのだ!!」


 暗黒騎士シュラトがここに非情な決断をした。

 そうはいくかと彼らを追い詰めようとする男騎士たちだが――。


「シュラト!! ここは任せなさい!! さぁ、脆弱なる中央大陸の将たちよ!! 稀代の魔女がお相手してあげるわん!! 死力を尽くしてかかってきなさい!!」


 殿として残ったのは稀代の魔女。

 暗黒大陸の巫女――ペペロペであった。


◇ ◇ ◇ ◇


 ペペロペ。

 そのおぞましいまでの魔力により、死してなお残留思念を装身具に宿してこの世界にしがみつき、再び中央大陸へと牙を剥かんとする者。


 大英雄スコティにより鎮圧された暗黒大陸。

 大きく力をそがれたはずのその大地に再び反乱の種を蒔き、この時を誰よりも待ち望んでいた者である。


 しかしながら彼女はあえてここに及んで殿として残ることを選択した。

 何故か――。


「シュラト!! アリエス!! 貴方たちに暗黒大陸の全てを任せます!! 私もまたスコティたちと同じく過去の者!! これからの時代を切り開くのは貴方たちよ!!」


「ペペロペさま!!」


「さぁ、早くお行きなさい!! そして必ずシリコーンさまを復活させるのです!! この中央連邦大陸に災いを!! そして、暗黒大陸に恐怖と栄光を!!」


 するりもろ肌――艶やかに体を露出すれば、その体に黒い靄がかかる。

 いや、靄などではない。くっきりとした黒ベタで塗りつぶされたそれは、地上波でお見せすることができない、圧倒的な修正表現。


 幾条もの黒い帯を発生させて、はぁと怪しい息をペペロペは紡いだ。


 そう、その恍惚の表情と共に放たれたのは、暗黒魔法――。


「さぁ、くらいなさい!! 我が暗黒の力の胎動を!! これぞ古に伝わりし暗黒魔法――【極太修正線ダークネス・ウィップ】!!」


【暗黒魔法 極太修正線ダークネス・ウィップ: 最近は漫画の修正について緩くなったよね。なんていうか、あってないような修正ばっかりっていうか、もうほぼほぼ見えてるやんみたいなものばっかりというか。見えない所にこうエロスを感じるのが人間じゃないんですかと、僕みたいな古参の漫画読みは思うんですけれど。え、コンビニ売りのはそうでもない。普通の書店で売っているような本はそこまで修正を厳しくする必要がないから、昔からこんなもの。ちょっとそれ早く言ってよ。ほんともう、それめちゃくちゃ重要な話じゃないですか。そんなのコンビニ売りのそういう本とコミックL〇しか買ってないからわかんないじゃないですか。もう、やめてくださいよー。ほんともう、まるでこれじゃ私がコミックL〇しか読んでいない隊長ロリコンみたいじゃないですか。やめてくださいよ、ほんともう。勘弁かんべーん】


 虚空を飛び交う黒い帯。

 それは男騎士たちを取り巻いている女エルフや壁の魔法騎士に向かって襲い掛かる。


 受け止めようとしてすぐに、その桁違いな魔力量を察した女エルフが身を躱す。


 轟音と共に大地を穿った黒い極太鞭は、そこに人一人がすっぽりと入る様な大きな亀裂を発生させたのだった。


 女エルフたちが一斉に溜飲を飲み下す。

 同時に――。


「見てください!! 魔女ペペロペの身体が!!」


「だぞ!! なんだかどんどんと皺くちゃに!!」


「……お、お養母かあさん」


 豊満なその肉体に徐々に皺が刻まれていく。言葉にする必要もないだろう。急速な老化現象が暗黒大陸の巫女の身には起こっていた。

 その様子に、女エルフが絶句する。


 彼女が見せた苦悶の表情。それをあざ笑うかのように、暗黒の微笑みが巫女の顔へと宿った。狂気が揺蕩うその顔を、女エルフたちは目を剥いて睨む。


「もはや生きて帰ろうとは思わん!! この女エルフの生気もろとも吸い上げて、貴様らをここに足止めしてくれよう!! 言っておくが悪いのは、わらわを本気にさせたお前たちぞ、セレヴィの娘!! そして、英雄スコティ!!」


「……くそっ!! どうすればいいの!!」


「どうすればも糞もねぇ!! モーラ!! お前はセレヴィを助けに来たんだろう!! だったらここが正念場だ!! もう一回、アイツを正気に戻す!! ペペロペがセレヴィの中の魔力と生命力を吸い尽くす前にぶっ倒す!! そんだけだ!!」


 大英雄スコティ。

 再び、自ら封じられていた魔剣を手にして暗黒大陸の巫女へと襲い掛かる。

 しかし、先ほどまで見せた剣のキレがそこにはない。


 どうして、暗黒騎士の愛剣を粉みじんにしたその太刀筋は、微かに震え、そして、戸惑いに揺れているのだった。


 無理もない――。


「ふふっ!! 流石の大英雄も愛した女相手には太刀筋が鈍るみたいねぇ!!」


「うるせぇ!! ちくしょうてめぇこの野郎!! よくもお前、毎度毎度のことながらやり方が汚いんだよ!! この腐れ巫女!!」


「さぁさぁ、早くお斬りなさいな!! もっとも、私も既に捨て鉢よ――この体の魔力を解放するのと同時に、セレヴィの魂にも手を付けたわ!!」


「なんだと!!」


「生命力と魔力、そしてエルフの魂!! 全て燃やして灰になるまで、この体を使い込ませていただくわ!! さぁ、わらわを殺した大英雄!! 迷っている暇なんてなくってよ!! はやくしないと、貴方の愛したエルフは干からびて死んでしまうわ!!」


 ちくしょうと嘆いて魔剣が空を斬る。次々に繰り出される黒い修正線と言う名の魔力の帯を弾き、裂いて、一歩ずつ前に進む。


 だが、厚い。

 その魔力の鞭の壁はあまりに厚く、大英雄の足を止める。


 その時、彼の背後でまばゆい光が走る――。


「させないわよペペロペ!! お養母かあさんの命!! 費やせたりなんてさせない!!」


「……モーラ、お前!!」


 メイクアップイアイア。

 そう、そこには魔界天使白スク水に身を包んだ、アラスリ女エルフが降臨していた。

 海の神――マーチの力をその身に宿して、母と同じ大触手――ワカメさんを展開してそこに毅然と立っていた。


 そう。


「ウワキツッ!! 娘の方が親よりきついってどういうことだよ、モーラ!!」


「うっさい!! いいから集中しなさいよ馬鹿剣!!」


 相変わらずのウワキツっぷりであった。

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