第514話 ど暗黒騎士さんと祭りの後

【前回のあらすじ】


『……ふっ、ホールはツッコむモノ、栓をするもの。よもや、このような大根で、我が封印されることになろうとはな』


「いくで桜やん!! とどめや!!」


「任せろ!! 喰らえ――〇封波みさくらな〇こつ!!」


『あひぃいい!! りゃめぇっ!! んほぉぉぉお!! そんな所に大根入れちゃりゃめぇえええ!! 魔神にゃのに!! 魔神にゃのにぃ、封印されちゃうぅぅうう!!』


 異世界からやって来た謎のサラリーマンと謎のダイコンにより魔神は封じられたのだった。そう、まるで最近のトレンディなろう小説のように。


 まるで最近のトレンディなろう小説のように!!(強調)


「アホー!! おまっ!! これまで積み上げてきたいろいろなものをぶち壊して、この展開はないでしょ!! なにやってんのよあんたァ!!」


 この小説はギャグファンタジー。

 何があってもおかしくない。そういう気概で読んでいただかないと困ります。


 ギャグとはお約束を破ることに見つけたり(kattern)。


「お約束守るからみんな楽しめるんでしょうが!! なんでそんな天邪鬼なのよ!!」


 天邪鬼ではない!!

 ちょっと破天荒なだけ!!

 そう、自分でもちょっとこの強引な展開に驚いております!!


 ……どうしよう。


「こっからどうやって収拾つけんのよ!! もう、馬鹿ァ!!」


 割と作者も混乱気味。ちょっと着地点が見えなくなりつつありますが、それでもクライマックスだよどエルフさん。


 はたしてどうなるどエルフさん。

 魔神筒の具合はどうかねどダイコンさん。


「まぁ、言うてワイ、ダイコンやから、ツッコんでも感覚あらへんのやけどね」


◇ ◇ ◇ ◇


 魔神シリコーン、封印。


 まさかのダイコンとサラリーマンの襲来。

 それにより、巨大なシリコン筒に栓がされた。

 途端、中央大陸の空に立ち込めた暗雲が霧散し、オカマ僧侶により遮られた太陽の漏れ出すような光が荒野に落ちる。


 あまりにあっけない、そして、予想外の展開。

 中央大陸の兵も暗黒大陸の兵も言葉を失う。

 そんなあっけにとられた合間に、いつの間にか、大根だけを筒の中に残して、魔神を封印したサラリーマンと、それを連れてきた九尾の姿は戦場から消えていた。


 いったいアレはなんだったのか。

 夢まぼろし。魔神の瘴気が見せた幻想か。

 それとも人々の願いが見せた願望か。


 目を何度しばたたかせても――。


「おほぉおぉおお!! このだいこんすごいにょぉおおお!! 二つに分かれてる!! スケベ!! スケベらいこんなにょぉおおおおお!!」


「シリコーンさま!! しっかりしてくださいシリコーンさま!! お気を確かに!!」


 みさくら語で悶絶する魔神筒の姿がそこにあるだけ。

 ピンク色のうねうねを冷めた目で眺めながら、男騎士パーティ、暗黒騎士パーティ共に白けた顔をするのだった。


 これが暗黒大陸を支配する恐怖の魔神。

 その封印された姿。


 恐怖もへったくれもない。

 あるのは拍子抜けした空の境地。

 シリコン穴の如き真空状態であった――。


「……っはァ!! 放心している場合ではない!! 魔神さま、今お助けを!! 暗黒剣!!」


「させるか!! おりゃぁっ!!」


 暗黒剣を弾いて飛ばす大英雄スコティ。

 漢祭で手が離せない男騎士に代わって、暗黒騎士へと刃を振るった大英雄。古に歌われし兵の一刀は、簡単に暗黒剣を弾き飛ばした。


 それだけではない。


 連撃。

 繰り出す剣閃は瞬く間に暗黒剣をただの鉄の塊へと変えていく。

 馬鹿なと呟いた時には、もはやそこに暗黒騎士を暗黒騎士たらしめる武器は微塵とてこの世界に存在していなかった。


 おそるべし――戦士技能レベル10。

 あるいは魔剣エロスその切れ味。

 本来の持ち主が使うことで、それはこの世に斬れぬ物のない、魔性の剣へと進化した。すわ、その切れ味に、暗黒騎士は喉を鳴らす。


 おそるべし、大英雄。

 そして、おそるべし、中央大陸の守護者。


 もはや起死回生の目はない。

 暗黒騎士の額をねばっこい汗が流れ落ちた。

 その汗を振り払うようにかぶりを振った暗黒騎士。彼の瞳には既に次に為すべきことが浮かんでいた。知力2なのに、その余りある戦士技能と魔法技能で、彼は次に自分たちが為すべきことをしっかりと理解していた。


「総員!! 撤退開始!! 魔神シリコーンさまが倒れられたとあっては、暗黒大陸側に勝ち目なし!! 速やかに中央大陸を離脱するのだ!!」


「シュラトさま!?」


「シュラト!!」


「アリエス、そしてペペロペさま!! 戦の趨勢を読むのです!! 漢祭が発動し中央大陸側と暗黒大陸側で戦力が拮抗した。その上、我らに力を与えてくださっていた魔神シリコーンさまが、今、倒れられた。もはやこの戦においてこちらに勝ち目なし――ここは一旦引き、暗黒大陸で陣容を整えるべきだ」


 そうはさせるかと声が上がる。

 体勢を立て直し暗黒騎士たちに手を向けるのは壁の魔法騎士。


 暗黒剣の破壊により死霊の軍を止める必要はなくなった。

 あとはこの戦を始めた者たちを裁けば中央大陸の平和は守られる。


 盛り上がる土壁。

 宙を舞って集まる瓦礫たち。

 組み上がる壁。


 四方八方を黄土色をした土の壁により囲まれた暗黒騎士たちは、ちっとその舌を打ち鳴らした。

 ここに戦の趨勢は完全に中央大陸連邦共和国にとって優位となった。


 そして彼らも暗黒大陸からやってきた仇敵たちを見過ごすつもりは毛頭ない。


「悪いがここで仕留めさせてもらうぞ暗黒騎士シュラト。魔女ペペロペ。中央大陸を、これ以上、お前たち暗黒大陸の脅威に晒す訳にはいかない」


「くっ、そう易々とは逃してくれないか」


「自分たちの力に奢って深入りしたのが運の尽きよ。暗黒騎士シュラト、その首、もらい受け――」


 壁の魔法騎士の言葉が止まる。

 それとほぼ同時であった。


 黄土色の土壁が弾けとび、暗黒大陸の将たちを囲んでいたそれが消失する。

 代わりに彼らの周りに現れたのは禍々しい紫色をした光の帯。まるで鞭のようにしなるそれらをその手で手繰り寄せながら――彼の者たちを率いる者、魔女ペペロペはそれまでの余裕に満ちた顔を顰めて壁の魔法騎士たちを睨み据えた。


 剣呑とした空気が場を過る。


「シュラト!! ここは任せなさい!!」


「ペペロペさま!!」


「暗黒大陸の巫女の意地、ここで見せずにどこで見せるっていうの!! さぁ、脆弱なる中央大陸の将たちよ!! 稀代の魔女がお相手してあげるわん!! 死力を尽くしてかかってきなさい!!」


 こちらも死力で相手をしてあげるわん。

 そう呟くや、ペペロペの身体から紫の帯が瘴気をまき散らして立ち昇った。

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