第513話 どサラリーマンさんどエクス大根

【前回のあらすじ】


 ついに男騎士たちの目の前に現れた魔神シリコーン。

 そのピンクの巨体をプルプルさせて、魔女ペペロペを復活させると、彼は中央大陸に直接その力を行使すると宣言した。


 魔神穴の顕現に戦慄する男騎士たち。

 対抗するべく服を脱ぎ捨て、海母神の力を宿そうと体を張る女エルフ。


 そんな中――。


「だぞ!! アレはなんなんだぞ!!」


 暗黒の積乱雲が揺れる空を指さしてワンコ教授が叫ぶ。

 その視線の先にあるのは――。


 空飛ぶ、黄色い九つの尻尾であった。


「「「「「なんなんだアレは!?」」」」」


◇ ◇ ◇ ◇


 その者。

 九つの黄色い尻尾を回転させて空を飛び、サラリーマンと聖なる大根を魔神の下へと運ぶであろう。その名はでていけあんたは九尾さん。


 しかしその名を誰も知らない。

 何故なら、男騎士たちは、彼女たちの存在を知らないから。

 実はこの世界に異世界転移していた者たちが居る。

 そんな事実を知らないから。


 突如として現れた謎の飛翔体。

 そして、なんの脈絡も伏線もない。

 果てには、向こうの方でもまだ物語の進行途中。

 だというのに、突如発生したイベントに男騎士たちは困惑した。


 しかし、一番混乱したのは――。


「し、親切な人ォッ!? なぜ、どうしてこんな所に!?」


 暗黒騎士であった。


 そう。かつて男騎士たちが拠点としていた冒険者の街。そこの用水路に落っこちて、あっぷあっぷしていた所を助けられた――詳しくはでていけあんたは九尾さん「異世界転移編」にて!!(宣伝)――彼。

 暗黒騎士は、その時の命の恩人の唐突な登場に目を剥いた。


 混乱した。

 そして地を出した。

 思わず手にしていた暗黒剣を取りこぼすほどのショックであった。


 そう、暗黒騎士はあろうことか、ここ一番という場面にきて、その豆腐みたいなメンタルによって大ポカをやらかしてしまったのだった。


 勘のいい読者であればお察しだろうがこの暗黒騎士――。


 かっこつけているが知力2である!!


 男騎士と同じく、このファンタジー世界においてブッチギリで知力が低い。

 さらにこの手の精神抵抗判定がもっぱら苦手な男である。


 いや、割と落ち着いている感じだが、それはそれ。

 矢面に立つ人間が居るから安心していられるだけだった。

 というか、いつもは女ダークエルフに、その辺りを強化して貰ってカバーしているのだ。


 まさしくハリボテの巨像。

 暗黒大陸を統べた暗黒騎士は、戦士技能と魔法技能は抜きにして、ぶっちぎりの馬鹿であった。どうしようもない阿呆であった。


 かろうじて、ファンブルして出せる知力をしているだけ男騎士よりマシ。

 だが、それでも、やっぱりバカであった。


 技能レベルで水増しして、なんとか知能ロールを乗り切っている。

 彼もそういうタイプの男であった。


 なので弱い。

 こういうギャグ展開にめっぽう弱い。


 そして――暗黒剣の力は、彼が剣を持っているからこそ発動される。

 暗黒大陸から引き連れてきた悪霊たち。それは、彼が暗黒剣を握り締め、魔力を通わせているからこそこの中央大陸で暴威を振るっている。


 彼が剣を離せばどうなるか。


 それはもう言わずもがなであった。


「あっ」


「あっ!?」


「はぁっ!?」


 唐突に霧散する暗黒大陸の霊たち。

 それと同時に――彼らの力を受けて巨大化していた魔神シリコーン、その背丈が急速にしぼんだ。まるでそう、なんかこう寒さでひゅっとなるアレのように、ピンクにそびえたっていた筒が小さくなった。


 塔サイズからちょっと大きな木サイズまで小さくなった魔神穴ホール・オブ・オナー

 そこに向かって、宙を舞っていた九つの尻尾を持つ正体不明の人物の手から、黒い何かが放たれた。


 それは人影。

 手に何やら長い物を持った人。

 こちらの世界で言うところのダークスーツに身を包んだ彼は、伝説の社畜IT戦士――桜くんである。


 しかし、この世界の人間はそんなことは知らない。


 そして、彼が握りしめているのは剣ではない。


 それは大根。

 まぎれもなく大根。

 困ったことに大根。


 大根太郎。


 異世界転生したら大根みたいなマンドラゴラでした系残念野郎。


「おらぁーっ!! 魔神!! 覚悟ォっ!!」


「何が魔神シリコーンじゃ!! こちとら魔ダイコーンやっちゅうねん!! ぬっぷりぬらぬらした格好しやがって!! ワイが煮てよし焼いてよし生でよしの、便利エクスカリバーじゃーい!! 食らえ!!」


 腐れダイコン――大根太郎。

 それが魔神穴ホール・オブ・オナーの暗黒へと吸い込まれるように突き刺さった。


 瞬間、ピンク色したぶよぶよとした魔神シリコーンの身体が淡く発光する。

 ピンクの光を発する魔神。

 ぷるぷるとぶるぶると震えるシリコーン。


「うっ、うぼぁああああああああああ!!!!」


 絶叫と共にその場で振動を止めた。

 はぁ、はぁ、と、声を荒げて、ピンク色の魔神の上で額の汗を拭う社畜サラリーマン異世界転移者。そんな彼と、彼が振るった大根は、集まる困惑の視線に応えるように、きっと睨んで声を張り上げた。


「なに見てんだ!! みせもんじゃねーぞ!!」


「こちとら異世界転移してこっち、どうやったら元の世界に帰れるか、本気でなやんどったちゅうねん!! 暗黒大陸とか渡ってもどうなるか分からへんし!! そんな所に僥倖いうやっちゃなぁ、桜やん!! ほんま、日ごろの行いがいいとしか言いようがあらへんで!! 向こうからこっちに来てくれるんやから!!」


 まったく話が通じない。

 シリアスモード真っただ中にあった男騎士も暗黒騎士も固まって動けなくなる。

 女エルフも、魔女ペペロペもだ。


 そんな中――。


『……ふっ、ホールはツッコむモノ、栓をするもの。よもや、このような大根で、我が封印されることになろうとはな』


「し、シリコーンさま!?」


『ふふっ。素材がシリコンでなければ、きっとこんなごんぶとサイズ、挿れられたら耐えられなかっただろう。だが、耐えられても、もう心が限界だ――このホールをしてこの世界に受肉した瞬間から、弱点は分かり切っていたのよね――悲しいことに!!』


 それまでの威厳ある感じから一転して、なんだか情けない言葉を紡ぎ出す魔神。

 そしてそれは――。


「いくで桜やん!! とどめや!!」


「任せろ!! 喰らえ――〇封波みさくらな〇こつ!!」


 ぐるり、ねじ込むように大根をその穴の中に深く埋め込むことでキマった。


『あひぃいい!! りゃめぇっ!! んほぉぉぉお!! そんな所に大根入れちゃりゃめぇえええ!! 魔神にゃのに!! 魔神にゃのにぃ、封印されちゃうぅぅうう!!』


 そう、顕現した姿が穴であったのが仇となった。


 封印するのに大根一つあれば事足りる。

 異世界からやってきた勇者――サラリーマン桜の手により、あっけなく魔神シリコーンは封印されてしまった。


 封印ドハマりしてアへ顔されてしまったのだった。


「「「「「嘘だろおい!? ここまでシリアスで引っ張って、オチがこれぇっ!?」」」」」


 これであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る