第503話 どエルフスキーさんとここは俺に任せて先にやれ

【前回のあらすじ】


 男騎士、帰還。

 さぁ、待ちに待った儀式魔法【漢祭】のはじまりだ。


◇ ◇ ◇ ◇


「あらあら、たいへん☆ まさかあのシュラト様が苦戦するような相手が現れるなんて、キサラびっくりですぅ☆ けど、ここで貴方をひきつければ、【漢祭】は行えないデスね!!」


「……ちっ!!」


 大剣使いと殺人メイド。

 歴戦の兵が見せる堅い守りに対して、手数で対応するチートメイド。

 飛び交うナイフの軌道は、蝶がすり抜ける隙間もない。当然、大柄の大剣使いが抜け出すようなスキなどあるはずもなかった。


 どうすると、大剣使いが剣を構え直す。

 するとその間さえも与えないという感じに、殺人メイドが間合いを詰めた。スカートの中から繰り出される投げナイフ。弓矢か弩かという初速で放ちだされるそれは、見誤り、捌き間違えれば、致命となる攻撃だった。


 男騎士は帰還したが、はたして彼の元に帰れるだろうか。

 大剣使いが苦い顔をした時。


「セクスゥイー!! エルフ!!」


 一陣の風と共に、ふんどしのエルフが現れた。

 見目麗しいメイドとはまったく別ベクトル。

 汚らしいふんどしを風に揺らしたそのエルフの偉丈夫は、大剣使いと殺人メイドの前に立ちふさがると、にっと口角を吊り上げた。


 その表情と尻には余裕が満ちている。


 プリッ!!

 弾けるばかりの不敵な笑顔で、キングエルフは大剣使いたちの前に舞い降りた。

 その背中が、その尻が、その肌色が、そのふんどしが、ここは任せろと彼らに告げていた。


 そして――。


「なっ、なっ、なぁっ!? なんですか、貴方は!! エルフなのに、ふんどしって、どういうことですか!? テンプレを解していないのですか!?」


 その強烈な見た目。

 そのインパクトに、ここまで80年代きゃるーん系女子キャラを貫いてきた殺人メイドが、思わず口調を乱した。態度も崩した。見るからに狼狽えた。

 無理もなかろう。


 エルフ×ふんどし×男=意味がわからない。


 メイド=強キャラという、昨今のトレンドやテンプレからどう考えても逸脱したその存在をまざまざ見せつけられて、狼狽えるなというのがどうかしている。

 そんな彼女の狼狽えをあざ笑うように――。


「ふふっ!! この俺の尻に釘付けとは、いけない子猫ちゃんだ!!」


 プリッ!!

 キングエルフがふんどしを引き締めた!!


 ここに来てキングエルフの助太刀である。

 きっちりとしたテンプレキャラクターには、常軌を逸したぶっ壊れキャラをぶつける。

 秩序を混沌で無理やり制する。


 これぞまさしくエルフリアン柔術――どったんばったんの計であった。


 とはいえ相手は姿だけで強キャラ殺人メイド。

 幾ら規格GUYのキングエルフとて容易く御せる相手でもない。

 握る拳の甲には汗が滲んでいた。


 それでも、彼は尻を引き締める!!

 ケツをプリつかせる!!


「行くのだ我が義弟ティトの仲間よ!! 君にはやるべき使命があるはずだ!!」


「……エルフの男!!」


「のじゃ!! ハンスよ、ティトたちが帰還したのじゃ!! 【漢祭】のためにも、ティトたちの下に急ぐのじゃ!!」


「さぁ、はやく行け!!」


「しかし、そんな全裸で大丈夫か!!」


「全裸ではない!!」


 隙ありと、繰り出される殺人メイドのナイフ。四方八方三次元的に繰り出され、上から下から左から右から、三百六十度から襲い掛かるそれに対して――。


「ふぬぁああああっ!!」


 気合一声。

 キングエルフはその白い褌を振り回すと、それを一振りにして全てなぎ倒した。


 そう、キングエルフが身に付けている褌は、ただの褌ではない。


「この褌は、エルフの里で収穫された神聖なる綿で編まれた褌!! その見た目ふんわりもこもこな感じに反して、意外と重くて武器になる!! ついたあだ名がミスリル綿!!」


「み、ミスリル綿!!」


「飛んでくる矢さえも弾くこの褌一つあれば十分!! 戦いは事足りる!! エルフの男は褌一つあれば敵と戦うことなど造作もないのだ!! いや――」


 エルフリアン柔術を極めた男ならば、それで十分なのだ。

 そう言って、また白い褌でケツを引き締める。


 プリッ!!

 軽妙に聞こえるその褌が立てた音色に、そこはかとない不安はかき消された。

 さぁ行けと再び叫んだキングエルフ。そんな彼に背を向けて、大剣使いは剣を担ぐと、相棒である金髪少女の手を掴んで戦場を駆け始めた。


 その足取りにもはや迷いはない。


「すまぬ!! この恩は忘れぬ!! エルフの男よ!!」


「ふっ!! キングエルフだ!! 生きていたならばその時また会おう、緑の男グリーンマンよ!!」


「ふざけるなDEATH!! こんな、こんな、変態キャラクターに、絶対的強キャラ、誰もが認める人気メイド属性持ちのキサラが止められるなんて――!!」


「テンプレに頼らねば戦えぬ子羊よ!! よく聞け!! 男とは、自分の道を自分で選んで歩むものなり!! 信じた道を歩むこの俺に、付け焼刃のキャラクター属性も、どこかで見たことのあるような技も、通ることなどないと知れ!! その技、ことごとく、エルフの柔で制してみせる!!」


「キサラは女DEATH!! DEATH!! お前は絶対DEATH・TO・LOW・DEATH!!」


「やれるものならやってみろ!!」


 メイドのスカートがひらめく。

 エルフの褌がはためく。


 今、二つのふりふりが、宙を舞って交差する。


 フリルのふんだんに施されたスカート。そこから繰り出されたナイフの雨嵐を、ことごとく弾き落とすエルフの褌。まるでその布自体が生きているように蠢いて、ナイフを絡めとり地面へと叩き落とすその様は――。


「くっ、まるで褌を生き物のように!!」


「人褌一体!! いや、エルフんどし一体!!」


「いったいどういうことDEATH!?」


 どういうことDEATHであった。

 なにはともあれ、キングエルフの活躍により、大剣使いは乱戦の中を男騎士の下へと駆け出すことに成功した。


「……ティトとモーラを頼んだぞ、緑の男グリーンマンよ!!」

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