第502話 ど男騎士さんと因縁の対決

【前回のあらすじ】


 ついに男騎士たち、中央大陸連邦共和国首都リィンカーンに帰還する。

 パワーアップして合流した彼ら。果たして暗黒大陸を退けることができるのか。


「――うわぁ!! 普通のあらすじ!!」


 さぁ、クライマックスだ、ギャグを挟む暇さえないぜ。

 どエルフさん第五章、いよいよ、満を持して、最終決戦です。


◇ ◇ ◇ ◇


 暗黒騎士の前に舞い降りる男騎士。

 その股間には、いつぞや、風の精霊王より与えられた伝説のアイテム――風のパンツが装備されていた。


 ふぁさぁ。

 まるで空から舞い降りる天使のような軽やかさで大地に降りる男騎士。

 気が付けば、彼はパンツ一丁、手には剣といういで立ちで、宿縁の暗黒騎士に向かって相対していた。


「……オニイチャンスキスキー!!」


「……メチャデッカー!!」


 魂のエルフ名でお互いを呼びあう男騎士と暗黒騎士。

 かつて、エルフを巡って共に肩を並べて戦った仲である。

 二人の間にあるのはかつては信頼であり友情であった。そんな二人が今、手に剣を握り締めて相対する。運命とはげに残酷なものである。


 風のパンツが、中央大陸に吹く血風にそよぐ。

 志を同じくするエルフメイト。しかしながら、立場が、生い立ちが、歩んできた過去が、今、二人を隔てていた。決定的な溝を作っていた。


 その道が交わることはもはやない。


 男騎士の背後に次々に彼の仲間たちが降り立つ。

 それを目にして暗黒騎士が視線を伏せた。


「いい、仲間を持ったようだな、メチャデッカー!!」


「あぁ、俺には過ぎたる仲間だ、オニイチャンスキスキー!!」


「そして、戦士としても一皮剥けたみたいだ。背負っているオーラが、前に会った時と違う。そしてその表情、お前はついに覚悟を決めたのだな」


「あぁ、そういうお前も、どうしても譲れぬものを持ったようだな。そんな顔をしている」


「……ふふふっ!!」


「……ふっ!!」


 男騎士と暗黒士。互いに剣の柄に手をかける。

 すわ抜刀。彼らは鞘からそれを素早く抜き去ると、たちまちの上に鍔迫り合いを繰り広げた。その場に居た誰も、瞬時にそれが繰り広げられたことを見抜くことはできない。


 中央連邦大陸最強の男。

 暗黒大陸の最強の男。

 戦士技能レベルは当世の最高峰。そんな二人の剣戟について来れる者など誰もいない。ただ、激しく打ち合い、押し合い、そして身を翻すその光景を、誰もがしばし息を呑んで見守ることしかできなかった。


「なんて戦いなのでしょう」


「だぞ、達人同士、まさしく神域に達したと言っていいやり取りなんだぞ」


「くっ!! ティトの奴、ここまでの使い手だったとは!! 俺も魔法が使えれば!!」


「ますます戦士としての開きを見せられちまったな……だが、相手もすごい!!」


 口々にその戦いを目にして驚く男騎士の仲間たち。

 暗黒騎士の斬撃に毅然と立ち向かうリーダーの背中をじっと見守りながら、彼らは喉を鳴らす。

 女修道士シスター。ワンコ教授。ヨシヲ。隊長。

 そこに加えて、先ほどまで戦っていた壁の魔法騎士を筆頭としたリーナス自由騎士団の面々。

 遠くから、実妹と義弟の来訪を眺めていたキングエルフ。

 未だ殺人メイドと戦闘中でありながら、目の端でそれを捉える大剣使い。


 そして――。


「……なんという剣技!! あのような者が在野に居ようとは!! だというのに私は驕り昂り慢心していた!! 自分の不明が恥ずかしい!! くっ……殺せ!!」


 女騎士さえも必要もないのに声を上げた。


 とにもかくにも。

 彼ら多くの仲間たちが見守る中で、男騎士は剣を交える。ただの剣で。暗黒大陸の死霊を操る暗黒剣と、互角に渡り合って見せる。

 男騎士は今、極限の集中状態の中にあった。

 それは戦士技能レベルこそ上がらなかったが、精神的な時の部屋での体験を経て、彼が成長した証拠以外の何物でもなかった。


 裏切った第三部隊。

 その中から離脱し、丘の上でことの成り行きを見守っていた青年騎士。

 そんな彼に駆け寄るからくり侍。


 二人は、師と仰いだ男の恐ろしいまでの剣の腕に、たまらなく打ち震えていた。

 戦士技能の足りない彼らには、その剣閃を捉えることはできない。

 できはしないが、その凄さは同じ戦士として実感することができる。


 この戦乱の只中、ともすれば劣勢という状況にもかかわらず、二人の顔には妙な笑顔が浮かんでいた。


「やっぱりティトさんはすごい人だ!!」


「ござる!! 世が世ならば一国を治める王の器!! まさしくあれこそ騎士の王!!」


 自分たちはすごい男を師に戴いた。

 そんな感慨もそこそこに、青年騎士はからくり侍を拾い上げ戦場を駆け始めた。


 第二部隊の横を通り過ぎて一直線に師の下へと向かう。

 その時、彼らに向かって赤い鬼の剛腕が襲い掛かった。


「させねぇよォおおおお!!」


「……Fooo悪ファ〇ク!!」


 しかし、その剛腕をなますに切り裂き――凶騎士が赤い鬼の前に立ちふさがる。

 そのまま立て続けに鬼を十六分割。細切れの肉片へと鬼の腕を無残に変えると、彼は走り去る青年騎士の背中に怒声を浴びせた。


「ちゃんと周りを見て走れ!! この種馬野郎!! 先走ってんじゃねえぞ!!」


「すみません、カーネギッシュさん!!」


「ケツの穴見てる暇があったら前を見やがれ!! そのままイッちまいな!!」


 やれやれと息を吐く狂戦士。

 その前で再生して再び拳を握り締める赤い鬼。

 刹那の時間――男騎士の姿を眺めた彼は、狂化の呪いを受けているはずだというのに、なんだか物憂げにかぶりを振るのだった。


「やれやれ、やはりヨハネ・クレンザーはいつの世も、当世最強の後塵を拝するのか。しかしまぁ、それもまたよし。義父ちちうえの遺言――この大陸を守る影の騎士たらんを愚直に守るとさせていただこう!! さぁ、イこうか!! くそったれマザー〇ァッカーども!!」


 第二部隊の精鋭たちが吼える。

 今、男騎士の下にはせ参じようとする青年騎士とからくり侍。

 その二人を守護するように、彼らは一斉に咆哮を上げると、暗黒大陸の軍勢を押し返したのだった。


 彼らの背中を、青年騎士の駆る馬が駆けていく。


「待っていてください!! ティトさん!!」

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