第504話 ど男騎士さんたちと漢祭り

【前回のあらすじ】


 白熱する激戦に次ぐ激戦!! ギャグ入る余地なし!!

 もはやこれはどエルフさんなのか!! 本当にギャグ小説なのか!!

 なんか割と普通のファンタジー小説みたいに、今、筆者渾身の怒涛のクライマックス描写と展開が――。


「いや、普通にアホアホネタやってたよね!? なに、あの便利な褌!?」


 お前もワカメ操っていたやろが!!

 兄のことをとやかく言える立場ちゃうやろが!!


「そうかもしれないけど!!」


 とにかく、もう、いらん水を差さないでください。

 ほんともうどエルフなんだからモーラさんてば。

 兄弟揃って自由フリーダムなんだから。

 そういうとこやぞ。


「いや、アンタに言われたくないわよ!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「兄貴!! ここは俺たちが抑え込む、早くティトの野郎の所へ!!」


「すまんフリード!!」


 大剣使いの進む道を、その拳で切り開くリザードマンの王。彼に従う、何人かのリザードマンたちが剣を振るって、大剣使いの道を開く。


 第三部隊から男騎士の下へと走る青年騎士。

 それとほぼ平行に、戦場を駆け抜ける大剣使い。

 二つのこの大陸の希望が男騎士の下へと集おうとしている中、それを見下ろして法王は掲げていた杖を降ろした。


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 その魔術の行使をおつきの者たちに任せ、彼女は視線を男騎士たちに定める。

 この争いのカギとなるのは儀式魔法【漢祭】の発動。そのために、彼女はこの場所を離れて、男騎士たちと合流しなくてはならない。


 肩が震えた。

 いや、全身が既に震えていた。

 法王という重責を背負っているがまだまだうら若き少女である。この大戦の帰趨を決する役目もさることながら、襲い来る暗黒大陸の兵たちを前にして体がすくむのは仕方のないことだった。


 やらなければならないと自分に言い聞かせる。

 この戦いを連邦共和国の勝利に導くのだと強く胸の内で唱える。

 そんな彼女の背中に。


「いかれますのかな」


 老騎士が声をかけた。

 首都リィンカーンの中央にあって、戦の帰趨を見定めていた彼。中央大陸連邦共和国騎士団の要にして、この大陸の歴史を見守って来た男。


「バルサ殿」


「行かれる前に、どうしても、貴方に渡しておく必要のあるがありましてな――」


 そう言って笑う老騎士。

 リーナス自由騎士団から、彼が裏切っているのではないかという連絡は受けていた。また、持ち場を離れてのその突然の登場である。

 法王の心が騒いだのは無理もない話であった。


 もっとも、既に裏切り者が第三部隊だということは判明している。リーナス自由騎士団からも、第三部隊が危ういと訂正を受けて、その身の潔白は示されていた。

 しかし、今ここで、どうして彼が現れるのか。


 なにより、渡さなければいけないにまったく心当たりがない。


「心配召されるな。もう、我らが裏切り者ではないことはおわかりでしょう」


「……ッ!?」


「貴殿ら教会がこの時のために準備をしてきたように、我らもまた長い時をかけて準備をしてきたのですよ。そう、この日、この時のために。我が盟友、黒い死神ヨハネ・クレンザーが、彼の大英雄と交わした約のために」


「彼の大英雄との約?」


「いえ、正確には、彼の大英雄の背中を追い続けた、男たちの友誼というべきでしょうか。ふふっ、歳ゆえでしょうかね、若い身なればそんなことをと一笑に付すところでしょうが、永年をその背中を追って来た男たちの最後の嘆願です。懸想した月日を思えば、私もそれに応えない訳にはいかなくなる」


 そう言って、かっかっかと笑う老騎士。

 その背後から――渡さなければならないは、いい加減にしてくれよと痺れを切らす感じに姿を現した。


「あ……貴方は!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「……ッァ!! 絶技暗黒流星剣!!」


「バイスラッシュ!! 逆バイスラッシュ!! バイバイスラッシュ!!」


 暗黒騎士が切り出した魔力を帯びた一刀。

 それを上段から力を込めた剣で弾いて逸らす。そこから、更に、畳みかけるように逆唐竹を放ち、その余勢をかってのまた唐竹を放つ。


 動きにしては単調だが、重い鉄の剣を手にして繰り出すには相当な膂力を必要とする。男騎士の怒涛の攻撃は、その単調さ――上下に剣を振っているだけ――とは裏腹に、それは恐ろしいまでの実力による攻撃であった。

 もし迂闊にも、その一撃を鎧で受けようものならば――その鎧ごと破砕される。


 流石の戦士技能レベル8。

 それは一撃一撃が、絶命を呼ぶ重たい攻撃に間違いなかった。


 対して暗黒騎士。暗黒大陸最強の騎士は男騎士の繰り出す斬撃についていくのがやっとという状況であった。絶技を繰り出して攻勢に出ようと試みるが、息は上がり、手は強烈な攻撃を受け続けて今にも感覚を失いそうであった。


 しかたない。

 暗黒騎士の戦士技能レベルは7である。

 男騎士より1レベル下回るのだ。


 それを魔法と暗黒剣の力によりなんとか帳尻を合わせていたが、ここに来て、男騎士の覚悟が、それを打ち消すほどの力を見せた。

 思わずうなり声を上げて暗黒騎士が距離を取ったその時。


「拘束術式!! 誘いの深緑おいでよどうぶつの〇!!」


 彼の手を緑の蔦が戒めた。

 女エルフである。


 他の多くの男騎士の仲間たちが、彼の戦いを見守る中、彼女だけが淡々と魔術を編んでその機会をうかがっていた。流石に男騎士の永らくの相棒である。


 今、彼が何をなさなければならないのか、何を優先するべきなのか。

 全て彼女は弁えていた。


「ティト!! 今は私闘より【漢祭】よ!! そちらの準備を!!」


「モーラさん!!」


「くっ!! こんな、もの……!!」


「ふふっ、一度はまったが最後抜け出すのは困難!! 絡みつく緑の触手を振りほどくことができるかしら!!」


【魔法 誘いの深緑おいでよどうぶつの〇: こんな日常ゲーハマる訳ないやん、だいたい何が楽しいのという感じで初めて、がっつりやり込んじゃう系の誘惑要素――を持った拘束魔法。もがけばもがくほど、よりどっぷりと深い沼のような世界に溶け込んでいく。そう本当に怖いのはこういう、毒気のないのが毒気という、表面的に健全な感じを装ったコンテンツなのだ!! ようこそ!! 〇ャパリパークへ!!】


「くっ……くそっ!! アリエス!!」


「シュラト様!! いま、お助けいた――きゃぁっ!!」


「おっと!! 精神的な時の部屋で成長したのは伊達じゃないわよ!! 二人分、魔法を編み出すくらいなんてことなかったわ!!」


 暗黒騎士を助けようとした女ダークエルフにも誘いの深緑おいでよどうぶつの〇が絡みつく。

 哀れ、主従二人は次々に地面から伸びる蔦に絡めとられて、その動きを戒められた。


 さぁ、今こそと思ったその時。


「させないわぁん!!」


「……魔女ペペロペ!!」


 その場に居合わせた暗黒大陸の大魔女ペペロペが怪しく微笑んだ。

 そして、それと同時に――。


「拙僧も忘れて貰っては困りますな」


 黒い霧の中から現れたのは緑の肌の男。

 逆剥けの牙を持つ暗黒大陸のゴブリン外交僧。


「ちゃっかり!!」


「ゴブリンティウス!!」


 暗黒大陸最初にして最後の使者、ゴブリン外交僧の姿があった。

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